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栗本薫亡きあとのグイン・サーガの続篇131巻『パロの暗黒』

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書くべきか辞めるべきか悩んだのだけど、せっかくBlogを再開したので、グインの感想も残しておくことにした。1巻から書くのはあまりにも大変なので、とりあえず続篇部分から書いてみるよ。

未完に終わった『グイン・サーガ』

グイン・サーガは栗本薫によるヒロイック・ファンタジー作品で、全100巻での完結を目指し、1979年に第一巻の『豹頭の仮面』が刊行された。その後順調に巻を重ね、当初予定の100巻を突破したが、この時点でも物語は完結しておらず、130巻までが刊行されていた。
しかし2009年に作者の栗本薫が膵臓がんにより他界したことで、本シリーズ未完のまま残される形となっていた。

シリーズ再開に向けて

2011年から、栗本薫ではない複数の作家たちによる『グイン・サーガ・ワールド』と銘打った、アンソロジーがリリースされている。これは栗本薫の配偶者であり、編集者でもあった今岡清のプロデュースによるもの。この『グイン・サーガ・ワールド』は4巻までは正篇からは離れた、外伝作品を掲載していたが、5巻に至って、五代ゆう、宵野ゆめによる「正篇の続篇」の執筆が開始された。

グイン・サーガ・ワールド〈5〉 (ハヤカワ文庫JA)

グイン・サーガ・ワールド〈5〉 (ハヤカワ文庫JA)

 

今回紹介する131巻『パロの暗黒』は、『グイン・サーガ・ワールド』5巻~8巻に掲載されていた作品を文庫化したものである。

パロの暗黒 (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ

ヤガ行きを装ってクリスタルを出たゴーラ軍だったが、それはイシュトヴァーンの周到な罠であった。女王リンダへの思慕を募らせたイシュトヴァーンは、クリスタルパレスへの潜入を試みる。これを迎え撃つヴァレリウス。しかし魔導師カル・ハンが招き入れた竜頭兵たちが孵化し大殺戮を開始する。

五代ゆうプロフィール

「正篇の続篇」は、五代ゆうと宵野ゆめによる二名体制で執筆されることになる。分担としては宵野ゆめがグインを中心としたケイロニアパート。五代ゆうが「それ以外」を担当する予定であったらしい。

今回は、五代ゆうのプロフィールを引用させて頂こう。

五代 ゆう(ごだい ゆう、1970年8月7日 - )は、日本の女性小説家。奈良県出身。父親は東大寺学園中学校・高等学校の元国語教諭。

大学在学中、富士見書房主催の第4回ファンタジア長編小説大賞に応募し、『はじまりの骨の物語』で入選。初の大賞受賞者となった。同作品の出版に先駆け、『虚神の都』(月刊ドラゴンマガジン 1993年4月号掲載)で作家デビューを果たした。

五代ゆう - Wikipedia より

五代作品は富士見ファンタジア時代の著作を何作か読んだことがある。しっかりとした世界観を持つ、独自のファンタジー作品を書いてこられた作家さんという印象である。

131巻以降の特徴

変更点は以下の通り。

1)口絵が無い
2)挿絵も無い

イラストは従来通り、丹野忍が担当しているが、表紙のみとなり、本シリーズのウリの一つでもあったカラー口絵が無くなっている。また、本文中の挿絵も無くなっている。年に何冊も刊行される作品の挿絵を担当するのは大変だと思うので、イラストレータの負担軽減がなされているのではないかと考えられる。

単なるコストカットへの配慮がなのかもしれないけど。

この巻で起こること

以後、未読の方が斜め読みしても判るように、当該巻で発生した主要イベントについてまとめておく。見出しと強調部分を読めばわかっていただけるように書くつもり。

パロ(クリスタル)壊滅。※7年ぶり3回目

もうパロのライフはゼロというかマイナスである。このシリーズが始まってから、数々の艱難辛苦が各国に降り注いでいるが、とりわけ悲惨なのがパロである。モンゴールの侵攻に始まり、ナリスの反乱、そしてレムス憑依に伴うアモンの跳梁跋扈で、パロ宮廷は人材的にも壊滅しており、今回のイシュトヴァーンの侵攻で、それはもう完膚なきまでに滅んだ印象である。本当にやり過ぎにもほどがある。希少な生き残りであったアドリアンまで死んじゃうしなあ(もうその前にキャラ変わってた感があるけど)。

ヴァレリウス、リギア、マリウスはクリスタルを逃れる

この一行はパロを離れ、その後しばらくは逃避行モードに。

レムスはアモンの件以降、ずっと廃人みたいな感じだし、リンダはイシュトヴァーンに囚われてしまったので、もうパロ側のキャラクターこれくらいしか動けるメンバーがいない。まだ名前は出てきてないけど、さりげなくアッシャ(続篇のオリジナルキャラ)が登場しているのが注目点かな。

悲報「あのお方」復活

残念ながらアルド・ナリスっぽい人物の復活が仄めかされている。

アルド・ナリスはグイン・サーガ的には罪深いキャラクターである。栗本薫にあまりに愛されたが故に、本来の役割を越えて活躍させられてしまい、物語の骨子を大きく歪める結果になってしまった。結果としてパロ宮廷は壊滅し、レムスの存在は地に堕ちてしまった。40巻過ぎあたりからの迷走が、アルド・ナリスを過剰に延命させてしまったことによる弊害であることは、昔からの読者であればご理解頂けるかと思う。

オールドファンのアルド・ナリスアレルギーは、わたし含め、相当なものがある筈なので、発表当時の反発は想像するに難くない。5chのグインスレでもぼこぼこに叩かれてたし。

アルド・ナリスの復活については、五代ゆう本人による、131巻のあとがきを引用させて頂こう。

傲慢と言われようとも私も作家の一人であり、自分が書く以上、自分の世界が出てきてしまうのは止めようがありません。ならば栗本薫のコピーを目指すより、最初から全力でもって、『自分のグイン』を描くことを目指そうと、そう改めて思ったのです。

悪役としての『彼』の復活は、その決意表明のようなものです。『グイン・サーガ・ワールド』にての発表後、さまざまなご意見をいただき、中にはたいへん厳しいものもありましたが、それについては、「もしよろしければ、もう少し物語の行く末を見守って下さい」としかお答えのしようがありません。

『パロの暗黒』あとがきより

これを読む限り、五大ゆう的には相当な覚悟をもって、ナリスを復活させたようではあるので、 読み手としては見守るしかないといったところかな。

あくまでも物語中のコマの一つとして、偏愛することなく上手く使ってくれるなら、劇薬的なキャラクターではあるけれど、うまく活かす道はあるのかもしれない。

『グイン・サーガ』続篇に望むこと

Twitterでも書いたけど、地元の図書館では新刊で入ってもいきなり閉架に置かれるありさまで、既刊含め全て開架では置いてくれなくなってしまっている。書店でも昔に比べると明らかに設置スペースは減っている。新刊で出ても平積みされない店舗もあるしね。

第一巻の『豹頭の仮面』が刊行されて今年でなんと40年!巻数が多いこともあって、新しく読み始める方も少ないのではないだろうか。現在の読者の平均年齢はいくつくらいなのだろう?どう低く見積もっても、50代より上なのは間違いないだろう。

続篇に願うことは、とにかく完結してくれという一点に尽きる。

せめてあと10年くらいでなんとかしてくれないと、かつての読み手がバタバタと死に始める頃合いなので、本当に「完結させること」前提で、執筆陣(今岡清含む)の皆さまには伏してお願いしたいところである。

パロの暗黒 (ハヤカワ文庫JA)

パロの暗黒 (ハヤカワ文庫JA)

 

グイン・サーガ続篇132巻『サイロンの挽歌』の感想はこちらから。