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グイン・サーガ外伝24巻『リアード武俠傳奇・伝』牧野修

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栗本薫亡きあとのグインサーガ外伝第二作

本日は、先週の久美沙織『星降る草原』に続いて、牧野修によるグインサーガ外伝『リアード武俠傳奇・伝』(りあーどぶきょうでんき・でん)をご紹介したい。

2012年刊行作品である。

リアード武侠傳奇・伝 グイン・サーガ外伝 (ハヤカワ文庫JA)

本作も、栗本薫の配偶者であった今岡清プロデュースによる『グイン・サーガ・ ワールド』の1~ 4号に連載されていた作品を加筆修正のうえで文庫化したものである。

栗本薫没後のグインサーガは、さすがに本編をすぐに再開することには躊躇いがあったのであろう。正伝の刊行前に複数作家による外伝作品が四作刊行されている。本作はそのうちの一作である。

作者の牧野修は1958年生まれ。ホラーや、ミステリ、エスエフ等の作品を手掛けてきた作家で、日本ホラー小説大賞長編賞佳作を『スイート・リトル・ベイビー』で、日本SF大賞を『傀儡后』でそれぞれ受賞している。

ゲーム『バイオハザード』シリーズのノベライズを何作も手掛けており、この点『ドラゴンクエスト』シリーズのノベライズ実績を持つ久美沙織と共通している。今回の外伝執筆に起用された理由の一つであるのかもしれない。

 

あらすじ

クサレはアルフェットゥ語り。旅の一座の語り部である。セムの集落をまわり、一族のさまざまな伝承に基づく演目を上演する。とりわけ人気なのが、リアードことグインが活躍した「たまらずオーム退散の段」である。とある集落を訪れていたクサレたちは、怪しげなキタイの商人に出会う。"滅びの赤"と呼ばれる、禁じられた存在を求めて、彼らはノスフェラスの深奥に踏み入っていく。

シェアード・ワールドとしてのグインサーガ

先週紹介した久美沙織の『星降る草原』が、本編の隙間を埋めるような正統派の外伝であったとするならば、今回の『リアード武俠傳奇・伝』はかなりの変化球であろう。なにせ本編の登場人物は誰一人登場しないのである。本作はグインサーガの世界観を借りているだけであり、なるほどこういう書き方もありだなと感心した次第。さすがは牧野修である。

ガンダムに例えるならば、『星降る草原』が『The Origin』だとしたら、『リアード武俠傳奇・伝』は『Gガンダム』といえばわかりやすいだろうか(ガンダム知らないとわからない例え)。あるいは、ボトムズで例えるなら前者が『ザ・ラストレッドショルダー』後者が『機甲猟兵メロウリンク』といった感じかな(ボトムズ知らないとわからない例え)。

グインサーガを複数の書き手に開放するのであれば、栗本薫死後の外伝はもっと自由に書かれて良いものだと思うし、出版社の枠組みすら離れて良いのでは思っている。『星降る草原』と比較して、古参のファンにはあまり評判の良くない本作だが、将来的な広がりを考えるとこういった作品があっても良いのではないかと思う。

クトゥルフ神話的な広がりが出来ると、コンテンツとしての寿命が延びそうだよね。この点で、今岡清にはラブクラフト亡きあとの、オーガスト・ダーレス的な決断が迫られてくるのではないだろうか。

変わりゆくノスフェラス

明確な記載は無いが、本作はグイン率いるセム・ラゴンの連合軍とモンゴール軍との戦いの後、更にはスカールのグル・ヌー探訪以降、相応に歳月が経過した年代の物語ではないかと推測する。砂漠地帯でほとんど雨の降らなかったノスフェラスには、時折強い雨が降るようになり、足繁く出入りするキタイの商人により貨幣経済の悪弊がもたらされている。

他者になりきる役者としてのありようは、本来嘘をつくことが出来ないセム族にあっては異端とも言える存在である。逆に言えば、中原の人間により近い思考形態を持つに至った、進化した姿であるのかもしれない。そんな彼らが変わりゆく時代にあって、いかにセム族としての誇りと尊厳を守りぬけるのか。本作はそんな物語である。

語り継がれていくこと、これからのグインサーガ

本作の終盤で、主人公であり、語り手でもあるクサレはこのような述懐を残している。

「カタリの中でリアードは永遠に生き続ける。我らは語られることで生き延び生き絆ぐのだよ。語り続ける限り、それがたとえ何処とも知らぬ地で見たこともない人々に語り継がれるのであったとしても、我らに死はない。私には見える。語るがために生まれてきたものが、生ある限り我らの物語を語り続けるのを」

『リアード武俠傳奇・伝』より

この言葉は、少なからずこれからのグインサーガの行く末を予見したものではないだろうか。誰が語ろうとも、何処で誰に語ろうとも、語り継がれていくのであればそれは生き続ける。それがグインサーガなのであると。

「栗本薫のグインサーガ」をそのまま続けていくことはもはや出来ない。40年間続いてきたこのシリーズが、今後も続いていくことが出来るのかどうかは、この部分をどこまで割り切ることが出来るのかにかかっているのかもしれない。それは、発信者側だけでなく、我々受け手にとっても覚悟が求められることになるだろう。

リアード武侠傳奇・伝 グイン・サーガ外伝 (ハヤカワ文庫JA)

リアード武侠傳奇・伝 グイン・サーガ外伝 (ハヤカワ文庫JA)