佐藤賢一のデビュー作
1994年刊行作品。第6回小説すばる新人賞受賞作で、佐藤賢一(さとうけんいち)のデビュー作である。もう三十年近くも前の作品かと思うと、なかなかに感慨深い。
佐藤賢一は1968年生まれ。山形大学卒業後、東北大学文学の大学院へ進学。本作は同院在学中に受賞の運びとなっている。
集英社文庫版は1997年に登場している。現在読むならこちら。電子版も出ているのは嬉しい。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
戦国時代の日本人が海外で活躍していた!という話にロマンを感じる方、最初期の佐藤賢一作品を読んでみたい方、マンガ『イサック』みたいな話が好きな方におススメ。
あらすじ
伊達藩士・斉藤小兵太寅吉は熱い血のたぎりをもてあまし、故郷を捨て、許嫁を捨て、冒険を求めて支倉常長遣欧使節に参加。イスパニアに渡った。そこで出会った一人の女が寅吉の運命を変えた。帰国を拒みイスパニアの戦士(イダルゴ)として自ら運命を切り開いていく寅吉だったが、次第に時代の流れから取り残されていく。
ここからネタバレ
戦国時代の武士がスペインに!
佐藤賢一作品は『傭兵ピエール』や『王妃の離婚』を先に読んでしまったが、こちらの作品が一番最初に刊行されたもの。戦国時代の伊達家の武士が、支倉常長遣欧使節の一人としてスペインに渡っていた!
あいかわらずサトケンの作る設定はとても魅力的。どこまでが史実なのかわからない。虚実を織り交ぜて、見てきたような嘘を綺麗な物語に構築していく力技はこの当時から健在なのであった。
ちなみに2020年7月5日にNHKで放映された『戦国〜激動の世界と日本〜 (2)「ジャパン・シルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」』では、戦国時代が終わり、戦いの場を失った武将たちが日本人傭兵としてオランダに雇われていたという衝撃的な事実が明らかにされた。海外に出ていった侍は本当に存在していたのである。
ちなみに、本作に登場する斉藤小兵太寅吉だが、オランダ独立戦争に於いては、スペインの兵士として奮戦する。
デビュー作だけあって、ちょっとぎごちない
ただ、さすがに、デビュー作だけあって、粗削りで、ストーリー展開も強引。さすがにその展開は無理がありすぎるのはご愛嬌といったところか。佐藤賢一作品の主人公の宿命とはいえ、性欲旺盛なのもちょっと度が過ぎていてちょっとこれは引く。
これを武士(もののふ)の生き様と言ってしまえば格好いいのかもしれないけど、おいおい、それで本当にいいのかお前は!と突っ込みを入れたくもなってしまうのであった。
なお、関係ないけど、戦国時代の武士がヨーロッパに渡っていた!って設定は、やはり魅力的であるらしく、『イサック』という作品がアフタヌーンに連載されている(2022年9月時点で13巻まで)。こちらは30年戦争時代のドイツを舞台とした物語。既に17世紀に入っているので、刀よりも鉄砲を主要な得物として使うのが面白い。