方向模索中の本読みBlog

書評Blogの予定だけど、現在方向性模索中。基本ネタバレありなので注意してね。

小山歩「戒(かい)」(新潮社)、第14回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作を読む

これ一作だけ

戒

 

2002年刊行。第14回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。作者の小山歩(おやまあゆみ)は宮城県気仙沼市出身で、東北学院大学文学部史学科で、専攻は民俗学。

ちなみに大賞は『世界の果ての庭』@西崎憲。受賞当時22歳はこの賞の最年少記録。しかしながらこの作家、結局これ一冊きりで、以降新作を書いていない。もったいないなあ。

あらすじ

帯沙半島の古代国家「再」。この時代に生きた伝説の奇人、戒の墓が発見される。それは史上類を見ない豪華絢爛にして壮麗を極めた堂々たる墳墓であった。人の体に猿の顔。舞踊の才をもって再の王、明公に取り入り国を滅亡の淵に追い込んだ稀代の嫌われ者の生涯とはいかなるものであったのか。史実の陰に隠された意外な真相とは。

東洋風世界観の架空王朝モノの佳品

架空の古代国家「再」。名家の庶長子と生まれた戒は生まれながらの博学才穎。詩歌を詠ませれば達人級。政治経済にも明るいばかりか、武芸にも秀で、舞に至っては神の領域に達する才人であった。しかしながら同じ年に生まれた凡庸な王子のために、臣下としての分を越えないことを生母から固く命じられる。家を継ぐこともなく、王宮の道化として生きることを決意した戒。ありあまる才能と矜持を封印して暗君に仕え続けた生涯を描いたお話。東洋風世界観の架空王朝モノとしては『後宮小説』に比較的近いテイストだろうか。

妄執に近い母の遺訓に従ってしまったばかりに、戒ばかりでなく、その周囲の人々の運命までもがねじ曲げられていく。初恋の少女は王に嫁ぎ、親友は無惨な死を遂げ、実弟は罪に落とされる。我意を曲げて、良かれと計らったことが滑稽なまでに裏目に裏目にと出続ける悲劇。宿命に翻弄され、煩悶する主人公の姿がなかなかにいい感じ。プライドも自己顕示欲も人一倍強い人間が、あえて自分を抑え続けることで、自分も周囲も不幸にしてしまう展開は切なくなんとも居たたまれない。

天賦の才を隠し続けた主人公が、唯一本領を発揮できたのが遊芸の世界。その後二千年を経てもなお語り継がれたという詩歌の数々は読む手の心を熱くさせる。そして時折見せる神がかり的な舞踏シーンはこのお話の最重要ポイント。迫り来る敵国の大軍を前にして、全ての恩讐を越えて、最後に戒が選択した行動は涙なくしては語れない戦慄の名場面。大ラスにこれほどの見せ場が待っていようとは。

わりとストレートに泣かせにかかる物語なので、ひねった話が多いファンタジーノベル賞系の作品としては異色だろう。まあ、たまにはこういう話もいい。ご都合主義的な展開が多すぎるのが、少々気にかからないでもないけど、許容範囲ってことで。