山口未桜のデビュー作
2024年刊行作品。作者の山口未桜(やまぐちみお)は1987年生まれの現役医師。本作『禁忌の子(きんきのこ)』で第34回の鮎川哲也賞を受賞し、作家デビューを果たしている。
医師で作家といえば、最近で有名なのは知念実希人(ちねんみきと)。夏川草介(なつかわそうすけ)あたり。もう少し遡ると海堂尊(かいどうたける)、久坂部羊(くさかべよう)、帚木蓬生(ははきぎほうせい)。先日芥川賞を取った朝比奈秋(あさひなあき)も医師だった。けっこう、それなりに居るな。
医師というだけでも凄いのに、小説まで書けてしまうのだから、その才能のマルチさに驚かされる。だいたいにして、お医者さんってメッチャ忙しい人たちなのに、激務の合間を縫って作品が書けてしまうのも凄い。
いまもっとも注目されているミステリ作品
2024年の10月10日に発売された本作だが、とても売れている。発売から一か月も経過していないというのにすでに四刷!
作者によるツィートはこちら。武田と城崎の公式ビジュアルがもう出来ていることにビックリ。
<お知らせ>
— 山口未桜 (@biliary_egg) November 1, 2024
今回も、あのPOPとともに。
「禁忌の子」 再び重版がかかりました。
3週間で4刷…!
皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。
11月下旬には市場に戻り、お求めやすくなるはずですので、ネタバレに気をつけつつ暫しお待ち下さい。→ pic.twitter.com/81EzWrNehw
X(Twitter)でも話題になっていて、Yahoo!リアルタイム検索で調べるとこんな感じ。発売日直後からの急上昇ぶりに注目である。一昨年の『方舟』を想起させられる現象で、まだまだ盛り上がっていきそうな気配だ。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
医療系の社会派ミステリも、ガチの本格ミステリも両方楽しみたい方。いま、話題のミステリ作品を読んでみたい方。男性二人のコンビが事件を解決するタイプのお話がお好きな方。鮎川賞作品は全部読む!と決めている方におススメ!
あらすじ
救急科の医師武田は、ある晩緊急搬送されてきた溺死体が、自分と瓜二つであることに衝撃を受ける。謎の男「キュウキュウ十二」は何者なのか?そして彼はどうして死んだのか?同僚の城崎の力を借りて、事件の真相に迫っていく武田。しかし、重要情報を持つ人物が、密室状態の中、遺体となって発見される。事態が混迷を極めていく中、やがて驚くべき真実が明らかとなる。
ここからネタバレ
登場人物一覧
まずは登場するキャラクターを確認しておこう。
- 武田航(たけだわたる):兵庫市民病院の救急科医師。主人公
- 武田絵里香(たけだえりか):航の妻。元看護士。妊娠中
- 城崎響介(きのさききょうすけ):兵庫市民病院の消化器内科医、航の中学時代の同級生
- 生島京子(いくしまきょうこ):生島リブロクリニック理事長。産婦人科医師
- 生島蒼平(いくしまそうへい):同院長。産婦人科医師。京子の息子
- 緑川愛(みどりかわあい):同産婦人科医師。航の大学時代の同級生
- 山田鈴音(やまだすずね):同産婦人科医師
- 黒田稔(くろだみのる):同放射線技師
- 金山綾乃(かなやまあやの):同看護師
- 赤坂圭一(あかさかけいいち):同培養室長
- 黄信一(こうしんいち):同総務部主任
- キュウキュウ十二:航と瓜二つの相貌を持つ謎の死者
昨今の流行なのか、モブっぽいキャラクターには色に関連した苗字や名前が割り振られていて、識別がしやすくなっている?それぞれのキャラの個性を深掘りしなくても、色で認識させやすくする工夫だろうか。
医療ミステリ×本格ミステリ
本作は現役の医師が書いた医療ミステリだ。救急医の武田は自分とそっくりの溺死体に遭遇する。一人っ子だったはずの自分には双子の兄弟が居たのか?なぜ両親は何も言ってくれなかったのか。そのルーツをたどっていく中で、不妊治療で数々の実績を上げている産婦人科病院生島リブロクリニックにたどり着く。しかし重大な情報を持つと思われた理事長の生島京子は、武田の目の前で遺体となって発見される。しかも密室の中でだ。
医療ミステリなのかと思わせて、ここでよもやの本格ミステリ要素も登場。武田の出生の謎を追いかけつつ、密室殺人の謎解きにも迫っていくという贅沢な展開となっている。不妊治療の功罪、社会派の医療ミステリとしての側面と、論理を突き詰めて謎を解いていく本格ミステリ要素のバランスが絶妙にとれている。本作が初めての作品とは思えない程、リーダビリティも高く、最後まで読み手の興味を途切れさせることなく、一気に衝撃のエンディングまで連れていく筆力はお見事。
バディモノの魅力
本作では、主人公の武田航は、同僚の城崎響介と共に事件の謎を追っていく。ふたりは中学時代の同級生。城崎は沈着冷静で常に合理的な思考と判断をする男だ。モチベーション面では武田が調査を牽引し、事件の謎解きでは城崎が主導する。
親友と言う程ベタベタな関係ではなく、事件が無ければ深く関わることも無かったふたり。なにを考えているわからず、冷酷な印象すら与える城崎。そんな彼にも中学時代にトラウマとなるような出来事があって、それが現在の城崎を動かしている。武田よりも先に事件の全貌が見えてしまった城崎が、事件をどう締めくくるのか。城崎なりの歪んだ「優しさ」の発露がなんとも味わい深い。
双子じゃなくて〇〇
不妊治療を得意とする生島リブロクリニック。新たな不妊治療法の開発に意欲的な生島京子。本作のタイトルが、武田と、瓜二つの男「キュウキュウ十二」の出自にまつわるものなのだとは容易に想像がつく。子どもが生まれなかった武田の両親に、生島京子は、自身の研究の成果として胚胎した『禁忌の子』を産ませようとする。ここまでは読み手も想定範囲内。だが、この物語は更なる仕掛けが用意されていた。
双子じゃなくて〇〇(意味がないかもしれないけど、いちおう伏せる)は、某有名作家のミステリ作品や、某有名マンガにも出てくる、ある意味お約束的なトリックだが、これをよもや医療ミステリのフォーマットで使ってくるとは!『禁忌の子』には複数の意味が込められていた。メインキャラクター以外のモブ感が強く、犯人役が出来そうなキャラがいないのでは?と思わせておいて、想定外の解決が提示される。これには痺れた。
ちなみに本作は続編の刊行が決まっており2025年発売予定とのこと。タイトルは『白魔の檻』。武田と城崎のコンビの活躍がこれからも見られるのは嬉しい。
医療系ミステリではこちらもおススメ
って、正直医療系ミステリは守備範囲外で、それほど読んでないのだけど、過去にはこんな作品の感想を書いていたのでリンクを貼っておく。