「北方水滸」のレビューを始めるよ!
2000年刊行作品。作者の北方謙三(きたかたけんぞう)は1947年生まれ。ハードボイルド小説の書き手としてスタートしたが、1990年代から歴史小説のジャンルにも進出。多くの傑作を残している。
本作は1999年~2005年まで集英社の文芸誌『小説すばる』に連載されていた作品を、順次刊行したものである。2005年、最終巻の刊行後に、第9回司馬遼太郎賞を受賞している。
集英社文庫版は2006年に刊行されている。わたしが読んだのはこちら。
ちなみに、解説の北上二郎ははしゃぎすぎ。作品のネタバレをし過ぎなので、大いに自重して欲しいところである。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)
歴史小説好きの方、オリジナルの「水滸伝」と話が違っていても気にならない方。
大長編作品、骨太の人間ドラマを読みたい方、猛烈に泣きたい方におススメ!
あらすじ
十二世紀中国。北宋末期。政を顧みず遊興に耽る皇帝。私利私欲に走る官吏。傍若無人の限りを尽くす軍部。この国は病んでいた。民は重税と苛政に苦しめられ悲惨な生活を強いられていた。しかし腐り果てたこの国を憂えるものたちが、遂に立ち上がろうとしていた。難攻不落の城塞梁山泊に集わんとする108人の豪傑たち。それは想像を絶した長く過酷な戦いのはじまりだった。
「水滸伝」って?
もともとの水滸伝は中国明代に成立した作品で四大奇書の一つ(残りは三国志、西遊記、金瓶梅ね)。北宋の時代に実際にあった反乱をもとに流布されたさまざまな民間伝承を拾遺し一つの物語として構築した作品なのだが、とにかく本編が長く、登場する人物も膨大な数に上る。それだけに矛盾点、放置プレイエピソード、ツッコミどころが多数存在していたのだ。
北方「水滸伝」の特徴
北方版はオリジナル「水滸伝」の無理矢理なところを徹底的に解きほぐして、完全に私家版として換骨奪胎してしまっているのが最大の特徴。オリジナルキャラがわんさか出てくるし、設定にも相当手が加えられており完膚無きまでに別の話になっている。間違ってもこれが『水滸伝』なのか!と思いこまないよう注意が必要だ。
物語の序盤は林冲中心に推移していく。子どもの頃に横山光輝版から「水滸伝」に入った人間であれば、虚無感漂いすぎの林冲に早くも強烈な違和感を覚えるはずだ。
監察官の李富って誰よ?とか、「塩の道」って何なのよ?とか、知らない人、聞いたことの無い設定が続々と登場するので従来の「水滸伝」に慣れ親しんだ人であればあるほど、最初の取っつきは辛いかもしれない。
ともあれ全19巻の大長編。盛り上がるのはまだまだ先なのだ。アレって、思ってしまった人も、これ一冊で諦めずにもうしばらくあと数冊読んで欲しいところ。