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『ルピナス探偵団の憂愁』津原泰水 時系列遡り形式の連作短編集

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「ルピナス探偵団」シリーズの第二作!

2007年刊行作品。2004年の『ルピナス探偵団の当惑』に続く、津原泰水(つはらやすみ)の「ルピナス探偵団」シリーズの第二作である。

単行本版は2007年に登場。

創元推理文庫版は2012年に刊行されている。表紙イラストは単行本、文庫版共に北見隆が担当。単行本のイラストは冬服で、摩耶のみ背を向けており、しかも彩子、キリエと離れて描かれる意味深長な絵柄であった。一方で、文庫版のイラストは夏服に。しかも暗さを感じさせない爽やかな絵柄に変更されている。かなり本の第一印象が明るい感じに変わった。これはこれでありかな。

しかし、相変わらず表紙に登場できない祠島くん……。

ルピナス探偵団の憂愁

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

『ルピナス探偵団の当惑』読んで続きを読みたい!と思った方、女子高生(大生)たちが織りなすユーモアミステリを読みたい方、しみじみ出来る青春ミステリを読んでみたい方におススメ。

あらすじ

短大を出るや早々に結婚してしまった摩耶。彼女が夫に命じた意外な依頼とは(百合の木陰)。大学の名物教授宅でのディナーに招かれた彩子と祠島。そこで起きた事件の顛末(犬には歓迎されざる)。かつて彩子が解いた密室事件の背後に隠された真相(初めての密室)。ルピナス学園卒業の日、事件は起きた。少女の日々の終焉を描く(慈悲の花園)。時間軸を逆行して描かれる四編の物語。

時間を逆行していく連作短編集

前作『ルピナス探偵団の当惑』は、もともと少女小説レーベル用に書かれた二作品を大幅改稿し、新作書下ろしを加えて構成されてものであった。一方で、今回の『ルピナス探偵団の憂愁』は2006年から2007年にかけて、東京創元社のミステリ誌「ミステリーズ!」に掲載されていた四作をまとめたものである。

連作短編形式となっているが、面白いのは時系列が逆になっている点である。一番最初に掲載されている「百合の木陰」が、主人公25歳でもっとも新しい内容で、以下、時系列をさかのぼりつつ進行。最後の「慈悲の花園」が18歳の高校卒業時のエピソードなのである。

この構成にはもちろん理由がある。以下、各編を簡単にコメントしつつ振り返っていこう。

ココからネタバレ

第一話 百合の木陰

初出は2006年の「ミステリーズ!Vol.18」。

帯や見返しに書いてあるのですぐわかってしまうのだが(ホントは止めて欲しい)。冒頭の本作で、ルピナス探偵団のメンバーの一人、日影(旧姓京野)摩耶の死が明らかにされる。ただ彼女の死はフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病によるもので、事件性はない。生前の彼女が遺した「とある謎」について、残されたメンバーたちが思索を巡らせる。

かつての、ルピナス探偵団の面々も25歳。吾魚彩子(あうおさいこ)は作家志望の無職、桐江泉(きりえいずみ)は編集者、京野摩耶(きょうのまや)は専業主婦、祠島龍彦(しじまたつひこ)はアメリカの博物館で学芸員となっている。

友人の葬儀が、縁遠くなった学生時代の仲間と久しぶりに会うきっかけになる。社会人あるあるだが、25歳でこれが来るのはきつい。

摩耶が遺した、彼女の出生にまつわる謎。この事件をきっかけとして、物語は時系列を逆さまにして、彼らの学生時代の日々を綴っていく。

第二話 犬には歓迎されざる

初出は2006年の「ミステリーズ!Vol.20」。

彩子と祠島くんが大学時代のお話。この二人、大学は同窓なんだよね。結局関係性は一ミリも進展してないけど……。大学の名物教授、石神井誉(しゃくじいほまれ)が登場。しつけの出来ていない厄介な犬、サンジュウと、その飼い主蒲郡さんにまつわる謎を解く。

祠島くんの博覧強記に磨きがかかっていて相変わらず凄い。ただ以前比べると、空気は多少読めるようになっていてその点でも成長しているみたい。

第三話 初めての密室

初出は2007年の「ミステリーズ!Vol.21」。

彩子が大学二年生くらいの頃のエピソード。かつて謎を解明したはずの密室殺人に思わぬ真相が隠されていた!的なお話。

注目すべきは犯人に対して自首を進める摩耶の長台詞であろう。摩耶がこんなに喋るの初めて見た。第一話で明かされる摩耶の生い立ちを知ってから読むと、彼女の人間性がより明確になってくる。

第四話 慈悲の花園

初出は2007年の「ミステリーズ!Vol.22」。

最終エピソードは彩子たちが18歳。ルピナス学園卒業時にまつわるエピソードである。高校生が主人公のミステリ作品として始まったのに、学校が事件の舞台になるのは意外にもこのお話が初めてである。

内容を一言で言うと「マリアさまが見ていた(見ていなかった)」。キリスト教系学校ならではのホワイダニットとフーダニット。知人とはいえ、高校生がキャリア警察官を動かせて、大人相手に謎を解いてしまうのはちょっと苦しい気がする。

もっとも事件そのものはそれほど大事ではなくて、本作全体を通してみると、「ルピナス探偵団」の卒業エピソードを描いた作品として意義があったのではないかと思われる。仲間と過ごした日々の終わり。新しい世界への期待と不安。大ラスに登場する「ルピナスの誓い」。冒頭の「百合の木陰」で、既に摩耶の死が明らかになっているだけにこれはぐっとくる構成である。

一作目から摩耶のキャラを立てていれば……

前作『ルピナス探偵団の当惑』の本格ミステリ感はやや後退して、本作で「ルピナス探偵団」の終わりについて、少年少女時代の終焉について、哀感を込めて描くことに主体を置いているよう読めた。どんなに楽しい時間にもいつかは終わりが来るし、いつまでも同じ場所には留まれないのだ。

惜しむらくは今回の主要キャラクターである摩耶の描写が、前作『ルピナス探偵団の当惑』では、ほとんどなかったことである。祠島くんとキリエは目立ってたけど、摩耶はほとんど空気だったし。それだけにいきなり本作の第一話でクローズアップされても、誰だっけ感が強くて唐突感は否めなかった。ただ、第四話まで読めば、相応の納得感は持てるので、なんとも勿体ないなという印象である。

ルピナス探偵団の憂愁

ルピナス探偵団の憂愁

  • 作者:津原 泰水
  • 発売日: 2014/07/14
  • メディア: Kindle版
 

なお「ルピナス探偵団」は東京創元社のWebマガジン「Webミステリーズ!」にて第三シリーズがスタートしている。なんと12年ぶりのシリーズ続篇である。まだ第一話なので書籍で読めるのはかなり先になりそうだが、これはこれで楽しみ。

www.webmysteries.jp

前作『ルピナス探偵団の当惑』の感想はこちらからどうぞ。

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