ネコショカ

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失われた絆の再生と回復を描く『また君と出会う未来のために』


『どこよりも遠い場所にいる君へ』の続編が登場

2018年刊行。昨年出た、『どこよりも遠い場所にいる君へ』の4年後を描いた続編的な作品。主人公は異なるが、前作の主な登場人物たちも登場するので、ご安心を。

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

 

ちなみに、前作の感想はこちらからどうぞ。

www.nununi.site

あらすじ

大学生の支倉爽太には秘密があった。少年時代に海の事故に遭い、2070年の未来へとタイムスリップしてしまったのだ。ふたたび、現代へと帰還することが出来た爽太だったが、当然、彼の体験を信じるものは一人もいなかった。しかし、八宮和希と名乗る青年は「過去から来た少女に自分は出会ったことがある」という。和希に導かれるままに、日本海の離島、采岐島を訪れた爽太は、隠されていた秘密に気付く。

やむを得ず背負ってしまった十字架の外し方

本作は、自分には何の責任もないのに、それはあなたの罪ですよと問われる人間の物語だ。前作も思い起こしてみれば同様の構造を持つ作品だった。こういう、誰が悪いとも言えない、拗れに拗れた難しい人間関係を設定するのがこの作者は上手い。

 

本作の主人公、支倉爽太は東日本大震災によって両親を失い、同様に長男を亡くした叔母夫婦の元に引き取られる。新たな母となった叔母は精神の平衡を失い、爽太を死んだ我が子の名前で呼ぶ。生きていくために甘んじてその境遇を受け入れた爽太の心には、消える事のない傷が刻まれていき、擬似的な家族関係はやがて離散へと向かう。

法律用語で緊急避難という概念がある。

緊急避難(きんきゅうひなん)とは、急迫な危険・危難を避けるためにやむを得ず他者の権利を侵害したり危難を生じさせている物を破壊したりする行為であり、本来ならば法的責任を問われるところ、一定の条件の下にそれを免除されるものをいう。

ウィキペディアより

爽太を我が子の代替物として扱った叔母と、叔母一家を捨てた爽太。状況を考えれば、致し方のない側面もあるけれども、お互いに善良な人間であるだけに、危機的な時期を過ぎれば激しい罪悪感に襲われる。緊急避難に償いは必要なのか。緊急避難は償われるべきなのか。失われた絆の再生と回復を描く。「人の心のやさしさ」が五体に染みる、今回もいい話だった。

また、恋愛パートに言及していなかった

あ、今回も本筋のボーイミーツガール部分に言及していないわたし(笑)。オッさんとしてはこういう、家族の話の方が刺さるんだけど、普通は恋愛パートにキュンキュンくるべき所なんだろうか。初恋の女性を取り戻すために男子が頑張るお話として、もちろん本作は魅力的なので、その点は安心して頂きたい。

でも、このシリーズって、恋愛パートばかりにページ数を割いているわけではなくて、屈折した主人公の心が事件を通していかにして、立ち直っていくかに力点を置いていると思うんだよね。よって、こんな感想もありかなと思った次第。

しかしながら、残された謎も多く、主人公は結局その後どうなるのか?五十鈴ちゃんは、どうして「そのこと」を知っていたのか?外人のおっさんは、今後も出てくるのかな等々、いかにも続きそうな雰囲気で気になる……。ネットの評判は良いようだけれど、更なる続編は出るのだろうか?

他の阿部暁子作品も読んでみたい

阿部作品を二冊読んで、いずれも面白かったので、他の作品にも手を出してみようかと思っている。気になるのはこちらの二作。なんと室町モノではないか!戦国時代ならいざ知らず、応仁の乱以前の室町時代を描いた作品はとにかく希少なのである。余程この時代に思い入れがあるのだろうか?

『室町少年草子』はデビュー後の二作目。コバルト文庫から出ているのだが、コバルトで室町時代!こんなマイナーな題材扱って、売上出せたのか非常に気になる。タイトルから見ると、山田風太郎の『室町お伽草紙』へのリスペクトを感じるんだけど、うがった見方に過ぎるだろうか?

室町少年草子 ―獅子と暗躍の皇子― (コバルト文庫)

室町少年草子 ―獅子と暗躍の皇子― (コバルト文庫)

 

そしてもう一作がこちら『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』

集英社文庫から出ていて、一般文芸の扱いである。これ、なんとガチで南北朝時代のお話!渋すぎる。吉野の(姫)君というワードにも、氷室冴子ファンのオッサンはビクンビクンと反応してしまうのである。

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)