基本ネタバレありなので注意してね。
現在試行錯誤中につき、デザインころころ変わってます
しばらくしたら落ち着くと思うのでご容赦下さいませ

大人たちの優しさが心にしみるボーイミーツガール『どこよりも遠い場所にいる君へ』

小説読めない病、リハビリ中の一冊

ワカモノ時代は異常なペースで小説の類を読んでいたわたくし。しかしなぜか、ここ10年近く、新しい作家の小説作品が読めずにいた。

やはり高齢化してくると、新しい世界観や設定を受け付けられなくなってくるのか。心密かに嘆いていたのだが、なんとなく「読めるような」気がしてきたので、この数か月は地道にリハビリに勤しんでいる。

世の中的に評判の良い作品を見繕って読むようにしているわけだ。それにしても、 この世界を10年も離れていると、 書店の棚に並ぶ作家名は見知らぬ作家ばかりで、隔世の感があるね。

どこよりも遠い場所にいる君へ (集英社オレンジ文庫)

どこよりも遠い場所にいる君へ (集英社オレンジ文庫)

 

さて、本題。作者の斉藤暁子は1985年生まれ。 コバルト文庫で主催していた今は亡きロマン大賞の出身者だ。

2008年の『屋上ボーイズ』がデビュー作。コバルトで三作オリジナル作品を出してから、『ストロボ・エッジ』『アオハライド』とコミック作品のノベライズに専念。

その後待望のオリジナル作品『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ(全5巻)を集英社のオレンジ文庫から上梓。これがわりと好評だったようで(いずれも評価が良いみたい)、それに続いて刊行されたのが本作。こちらも評判が良いようなので手に取ってみた次第。

ちなみに、集英社オレンジ文庫は2015年創刊。 いわゆるライト文芸物のレーベルのひとつであるようだ。

あらすじ

月ヶ瀬和希は、俗世間とのかかわりのない生活を求めて、 離島の高校へと進学を決めた。かつての夢を諦め、 他者との交わりを極力避けて生活していた和希の前に、 ひとりの少女が現れる。神隠し、 マレビトの伝説が残る島の入り江に忽然と現れた少女は1974年 から来たのだと告げる。

学生寮モノの愉しみ

学生寮モノというカテゴリがある(よね?)。寄宿舎や学生寮、多少枠を広げてアパートなんかでもいい。家庭を離れ、 同世代の若者たちだけで生活を共にする、 訳ありの少年少女たちが、 聖域のような空間で過ごすひと時を描いた作品群だ。

古くは那州雪絵の「ここはグリーン・ウッド」、氷室冴子の「クララ白書」「アグネス白書」なんてあたりから、蒼樹うめの「ひだまりスケッチ」、恩田陸の「ネバーランド」「麦の海に沈む果実」、J・K・ローリングの「ハリーポッター」シリーズも、考えてみればそうだよね。数えだすと、このカテゴリの作品、枚挙にいとまがない。

家族の束縛から逃れ、閉鎖空間での団体生活を強いられるだけに、 登場人物個々人の距離は縮まらざるを得ない。 当初はぎごちなかった登場人物たちの関係性が、 さまざまな事件を通じて、 次第に親密なものに変容していく過程を見ていくのは、 このタイプの作品群の楽しみ方の一つだと思う。

言わないやさしさ

本作を読んで一番気になったのは少女の正体を「 島の人々は知っていたのか」という点である。島で生まれ育ち、 一時は島外へ出るものの、最終的には島内で職を得た彼女である。 いくら外観が少女であったとしても、 名前までわかっている状態で、 島の人間がその正体に気付いていないとはとても思えない。

しかしながら本編中ではその事実については触れられている形跡がない。わたしとしては、やはり高津さんや担任の教師をはじめとした島の人々は「知っていて言わなかった」 のではないかと思いたい。 彼らは彼女のその後の運命までも知りえているわけで、 おそらくはそれでもあえて「言わなかった」。 それは無関心とは違う、別次元の「言わないやさしさ」なのだろう。

いかにも「訳あり」 といった態でこの島にやってきた主人公に対しても、ガチャガチャと煩い、同級生たちと比較して、島の大人たちは余計な詮索をしないし、 知ったような説教もしてこない。つかの間の癒しの場として、 この点でも「言わないやさしさ」が機能しているのだと思う。こういう節度ある大人がいる話がわたしは好きなのだと思う。

ボーイミーツガール部分に言及してなかった

ああ、全然本筋のボーイミーツガール部分に触れずに終わってしまいそうだけど、個人的な琴線に触れたのはそっちの方だったのである。どうしても、ワカモノカップルたちよりは、大人たちの方に目線が向いてしまうのが、オッサン読者のサガであるのかもしれない。

ちなみに続編となる『また君と出会う未来のために』が刊行されており、こちらも既に読み終わっているので、いずれ感想を上げる予定。しばしお待ちを。

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)