ネコショカ

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佐々木丸美『風花の里』 「孤児」シリーズ4部作を読む(4)おまけ付


12月中旬には読み終わっていたのだが、年末年始企画を挟んでしまったので、感想をお届けするのが遅くなってしまった。『雪の断章』『忘れな草』『花嫁人形』と読み進めてきた、佐々木丸美の「孤児」シリーズ、最後の一冊である『風花の里』をご紹介しよう。

「孤児」シリーズ全てについてネタバレをしているので、未読の方はご注意頂きたい。

「孤児」シリーズの四作目

1981年刊行。 佐々木丸美の「孤児」シリーズの四作目。最初は単行本で講談社から登場。佐々木丸美としては九作目の作品となる。

佐々木丸美の作家活動は刊行年ベースで考えると1975年~1984年までの10年足らずなので、本作はその活動の中では、比較的後期に発表された作品と言えるだろうか。

風花の里 (1981年)

風花の里 (1981年)

 

講談社文庫版は1989年に登場。

風花の里 (講談社文庫)

風花の里 (講談社文庫)

 

その後、佐々木丸美の新刊が出なくなり、旧作はことごとく絶版に。1990年代後半にはなかなか読むことが出来ない作品となっていたが、2000年代に入ってから復刊の動きが始まる。

復刊についての事情は『花嫁人形』のエントリで言及したのでこちらをご参照頂くとして、まずブッキング(復刊ドットコム)版が2007年に登場した。

風花の里 佐々木丸美コレクション

風花の里 佐々木丸美コレクション

 

 続いて、、2009年に東京創元社版が刊行されている。

なお、ブッキング版では1981年刊行の単行本が、東京創元社版では1989年の講談社文庫版がそれぞれ底本になっている。ブッキング版と東京創元社版、かなり近い時期での再刊であったが、上記の前提をもとに、住み分けがなされていたわけだ。佐々木丸美は文庫化の際にかなりの加筆修正をするタイプの作家だったようなので、ファンとしては両方買ってしまいそうである。

風花の里 (創元推理文庫)

風花の里 (創元推理文庫)

 

「孤児」シリーズの中では、各巻、意味深長な表紙デザインが気になる東京創元社版だが、今回は雪景色の中、本作を象徴するアイテム、色風船をネコ(とら)が見つめている光景である。赤は飛鳥()、青は葵(あおい)、黄色は昭菜(あな)だろうから、残った白が、本作のヒロインである星玲子(れいこ)なのだろう。

あらすじ

幼くして両親事故で失った星玲子(れいこ)は、相棒のとらと、幼馴染の少年丈と共に、新たな生活を始めることになる。美しく成長した星玲子だったが、やがて自らの出生に関して、重大な秘密があることに気づく。祖父の残した遺産は本当に存在するのか?謎めいた暗号の示す意味は何なのか?

「孤児」シリーズでは異質なヒロイン星玲子(れいこ)

幼くして両親を失ったヒロインが、運命に翻弄されながら、幸せを掴むまでのお話。というのは、このシリーズ共通の要素なのだが、今回のヒロインは幼少期にこそ、多少苦労はしたものの、早々に北斗興産(禾田部長)の庇護に入ってしまい、その後は強烈なライバルも登場せず、護られた世界で生きているという印象が強い。

そのためか、シリーズの4ヒロインの中では、もっとも「拗らせていない」キャラクターと言える。特殊な環境下とはいえ、比較的良い人々に囲まれて成長したので、性格的にもあまりひねくれておれず、苛烈な感情表現に走ることも少ない。

 Twitter上でも指摘して頂いたのだが、シリーズ中、唯一、年上のイケメン青年と結ばれなかったヒロインでもある。本シリーズにおいて、年上のイケメン青年との恋愛は、さまざまな艱難辛苦を乗り越えなければ成就しない苦難の道なのである。星玲子は唯一、平凡ながらも身近にある市井の幸福を選択したヒロインと言える。

めぐりくる縁の楔の物語

シリーズも四作目ということで、過去三作で登場したキャラクタや設定が多数登場する。このシリーズをずっと追いかけてきた読者としては嬉しい一冊かもしれない。

ネコのとらがあまりに人間味たっぷりに登場するので、半分くらい読み進めるまで、「実はとらは人間」という叙述トリックなのではないかと本気疑っていたのはナイショである(笑)。

ただ、これで完結!という形には全くなっておらず、むしろ新たな疑惑も誕生し、ますます謎が深まった感じなのである。バルドソドルって何だったの?祖父の遺産はどうなったの?シリーズ全体の謎は解けなくてもいいから、せめて星玲子関係の背景事情くらいは明らかにして終わってほしかった。非常にもやもやとした読後感が残るのである。

星玲子は「代償」を支払ったか?

「孤児」シリーズでは、ヒロインが生涯の伴侶を得るために、大切な存在を喪失することになる。しかも、その彼らは全てが自ら死を選んでいるのである。『雪の断章』では史郎が、『忘れな草』では楊子が、『花嫁人形』では郁がその命を絶っている。

贖罪、諦念、運命への抗議、彼らの死にはさまざまな理由があるが、その死は、ヒロインたちの心を終生にわたって呪縛するだろう。いわば、「代償」を支払い、彼らの死を生涯の十字架として背負うことでヒロインたちは、伴侶の愛を勝ち取っているのである。

それは『雪の断章』『忘れな草』『花嫁人形』の、三作全てのラストシーンで、「代償」となった人々について言及されていることでも明らかである。

以下、三作のラストシーンを引用する。

雪がーー。

新しい雪が降ってくる。史郎さんの雪だと思った。

『雪の断章』より

彼に支えられて楊子さんのところへ行くとき、窓に猛る雪を見た。あれは楊子さんの情念、楊子さんの雪ーー。

『忘れな草』より

 幻は一瞬に消えた。雪はあとからあとから降ってくる。壮嗣さんの腕につかまって歩いた。見上げた雪がきれいだった。私はその一つを指さして言った。

あれは郁ちゃんの雪よーー。

『花嫁人形』より

振り続ける雪は、「孤児」シリーズを象徴する情景であり、物語の最後に、ヒロインたちは自身をこれからも呪縛するであろう「代償」に想いを馳せているのである。

翻って、本作『風花の里』ではどうだろうか? 同様にラストシーンを引用してみよう。

 ひゅうひゅうと海から届く春の風、ちらちらと母さんの微笑みの雪ーー。 

 『風花の里』より

物語の終盤、星玲子の愛猫である「とら」(二代目だが)が命を落としているが、ラストシーンでの「とら」への言及は無いのである。あれ?「とら」は何処に?

これはやはり、シリーズの前三作とは異なり、星玲子が年上のイケメン青年と結ばれることが無かったために、「代償」を必要としなかったためなのではないだろうか。唯一、身の丈に合った同世代の男性を伴侶と定めたことで、呪縛から逃れることができたのではないかと考えたい。ラストシーンで「祝福」としての雪が降るのは星玲子だけなのである。

おまけ(1)星玲子って?

ちなみに本作のヒロインのフルネームは小浜星玲子(おばま れいこ)である。決して星玲子(ほし れいこ)ではないので、要注意である。星玲子と書いて「れいこ」と読むのは、相当に難易度が高い。

何か元ネタはあるのだろうかと思い、「星玲子」でググっていたら見つけてしまった。長年、佐々木丸美ファンをされている方であればご存じなのかもしれないが、本作のヒロイン星玲子と同名の女優が存在するのだが関係はあるのだろうか?もっともこちらは星玲子(ほし れいこ)と読むのだが。

星 玲子(ほし れいこ、1915年1月2日 - 2003年10月24日)は昭和期の女優、歌手。本名:多田 琴子(ただ ことこ)。

星玲子 - Wikipedia より

 作者がファンだったのだろうか?またしても、新たな謎が増えてしまった。

おまけ(2)『ミステリーズ』のVol.29の佐々木丸美小特集がいい感じ

図書館で佐々木作品を調べていて、偶然発見したのだが、2008年に東京創元社から刊行されたミステリー雑誌『ミステリーズ』のVol.29では佐々木丸美の特集が組まれている。

刊行タイミング的に「孤児」シリーズ及び、「館」シリーズが東京創元社から復刊となったことを契機しているのであろう。せっかくなので併せて、ご紹介しておこう。

ミステリーズ! vol.29(JUNE2008)

ミステリーズ! vol.29(JUNE2008)

 

この特集では、佐々木丸美の主要作品の紹介や、未発表随筆3編(推理小説真髄、歴史、名作謹評)の掲載。そして、太田忠司による特別寄稿「それが運命」が掲載されている。

更に2008年に札幌の紀伊國屋書店札幌本店で実施された「佐々木丸美コレクション」の模様についてもレポートが掲載されている。

また「併せて読みたい!佐々木丸美と傑作ミステリ」と題して、以下の十二作が紹介されていた。

以下の作品は、佐々木丸美も読んだであろう、「館」シリーズの血肉になったと思われる、古典ミステリの名作群たち。

・仁木悦子『仁木兄妹長編全集①』
・福永武彦『加田伶太郎全集』
・S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』
・ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』
・イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』

精神分析とミステリの融合という観点からは、

・中島河太郎編集『日本探偵小説全集7』(木々高太郎の諸作品)

謎の美女と閉鎖空間というモチーフからは、

・ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
・サラ・ウォーターズ『半身』
・皆川博子『倒立する塔の殺人』
・シャーリィ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』

いずれの作家も佐々木作品を愛読していたというところから、

・津原泰水『ルピナス探偵団の当惑』
・桜庭一樹『赤朽葉家家の伝説』

などの、作品群が挙げられていた。

佐々木丸美作品に似たテイストのミステリを楽しみたい!という読み手にとっては、なかなかに良いチョイスだと思う。わたしはこれらの1/3も読めていないが、サラ・ウォーターズの『半身』は特におススメ。『忘れな草』好きであれば楽しめると思う。

「孤児」シリーズ、他作品の感想はこちらから

www.nununi.site