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『雪の断章』佐々木丸美の「孤児」シリーズ4部作を読む(1)

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佐々木丸美を知っているか?

佐々木丸美(ささきまるみ)は、昭和のリリカル文体の女王だと思っている。

1949年生まれで、20代後半でデビュー。活躍年代は1970年代の後半から80年代前半で、80年代半ば以降は作品を書かなくってしまった。そのため、90年代の終わり頃には既に幻の作家扱いだった。わたしは館シリーズ三部作でハマったクチだが、この三冊を古本で集めるのにもけっこう苦労した記憶がある。

プロフィールはこんな感じ。

佐々木 丸美(ささき まるみ、1949年1月23日 - 2005年12月25日)は、日本の小説家。北海道出身。北海道当別高等学校卒業、北海学園大学法学部中退。

1975年、「雪の断章」で二千万円テレビ懸賞小説佳作入選。同作は1985年に斎藤由貴主演、相米慎二監督で映画化された。

2005年12月25日、急性心不全のため死去。享年56。

2006年から作品が続々と復刊されはじめ、再評価の動きが高まっている。

2009年1月30日~3月1日、小樽文学館にて、企画展「雪の断章・佐々木丸美展」が開催された。

佐々木丸美 - Wikipedia より

彼女は残念ながら2005年には56歳の若さで亡くなってしまっているのだが、2006年以降、復刊ドットコムでのリバイバル刊行や、東京創元社での主要作品再刊行があって、往年の名作が手軽に読めるようになってきた。ありがたい話である。

デビュー作『雪の断章』

『雪の断章』は佐々木丸美のデビュー作である。二千万円テレビ懸賞小説に佳作入選。1975年に刊行されている。一連の「孤児」シリーズの最初の作品でもある。

雪の断章

雪の断章

 

最初の文庫化は講談社から。1981年に刊行されている。

雪の断章 (講談社文庫)

雪の断章 (講談社文庫)

 

講談社版は1990年代に入ると入手が困難となる。その後、ファンによる復刊活動が実を結び、ブッキング版が登場した。

ブッキング版の特典として、佐々木丸美のエッセイ「雪の街への憧憬」が収録されている。佐々木作品を理解するには、なかなか重要な文献なので、興味がある方は是非ご覧頂きたい。ブッキング版は、現在Kindle Unlimited対象作品なので、登録されている方はすぐチェックである。

雪の断章 佐々木丸美コレクション

雪の断章 佐々木丸美コレクション

 

佐々木丸美作品の復刊ムーブメントはその後も続き、2008年には創元推理文庫版も登場した。

雪の断章 (創元推理文庫)

創元推理文庫版はオリジナルの講談社文庫版にあった山村正夫の解説の他に、三村美衣の解説「孤児文学としての愉しみ」が入っている。この文章は東京創元社のHPでも読めるので、読みたい方はこちらをどうぞ。

ココからネタバレ

佐々木丸美の「孤児」シリーズとは?

「孤児」シリーズは、富裕な家庭に生まれながら両親を失い、孤児として生きることを強いられた少女たちの数奇な運命を描いた作品群だ。全四作。ヒロインたちは、とある巨大企業グループの継承権を有しており、その財産を巡ってさまざまな悲喜劇が繰り広げられていく。

全ての作品は世界観を同じくしており、登場人物もクロスオーバーして入り混じって出てくるので、続けて読んでいると、ああこの人がこんなところに!と、ニマニマしながら読めること請け合いである。

ちなみにわたしは、間違ってシリーズ二作目の「忘れな草」から読んでしまったので、思いっきりネタバレをくらってしまって、大失敗であった。キチンと刊行順に読みましょう。

読む順番は以下の通り。

  1. 雪の断章(1975年刊行) 
  2. 忘れな草(1978年刊行)
  3. 花嫁人形(1979年刊行)
  4. 風花の里(1981年刊行)

読み出したら止まらないノンストップ作品

デビュー作だけあって、まだ作風が固まる前だったのか、後の作品に比べるとリリカル度が控えめで、リーダビリティも高い。ファースト佐々木作品として読むにはうってつけの一冊と言えるかな。ツッコミどころは本当にたくさんあるのだが、読み始めたら、止まらない、ぐいぐい読ませる筆力がとにかく魅力の作品である。

ヒロインの飛鳥(あすか)は孤児として育ち、働き手として引き取られた先では虐待を受け、幸運にも出会った青年に引き取られ二人で暮らすことになる。10歳の年齢差の男女が、一つ屋根の下で暮らす。疑似的な親子関係が枷となって互いへの思慕をかたちにできずにいる二人。昭和のメロドラマ的な趣きがある。このなんとも、もどかしい距離感がどう縮まっていくのかが物語のキモとなる。

「孤児」シリーズの主人公はいずれもひと癖もふた癖もあるような、性格的に尖った女の子が多くて、わたし的にはそこも魅力の一つだ。本作の主人飛鳥は、人と打ち解けるのが苦手で、話せばすぐに解決しそうな問題でも、自分の中で考え抜いた揚句、煮詰まってしまい、セルフジャッジして暴走するタイプ。お前はオレか!というくらいの、ダメ思考パターンのキャラクターで、個人的にはとても親近感が持てた。いわゆる「いい子ちゃん」のヒロインが登場しないところは、読み手の好き嫌いが分かれる部分だと思う。

映画版斉藤由貴主演の「雪の断章 -情熱-」

世の中的にはこちらの方が有名かもしれないが、『雪の断章』には映画版が存在する。映像化されているのは、これが佐々木作品唯一かな?1985年に相米慎二の監督、斉藤由貴の主演で「雪の断章 -情熱-」のタイトルで上映されている。

せっかくなのでレンタルして確認してみた。映像で北海道独特の空気感を堪能できるのは良いところ。冬の豊平川に、本筋と関係なく飛び込まされる斉藤由貴がひたすら可哀そうな映画だったりする(笑)。あと、もっとガンガン雪降らせないとダメ。「雪の断章」感がちょっと足りない。

雪の断章?情熱?

雪の断章?情熱?

 

しかしながら長大な原作を100分に圧縮しているので、子供時代のエピソードがほぼカット。高校三年生時の一年間にすべてを詰め込んでいたり、各キャラクターの書き込みも薄くなっていて、原作ファン的には残念な仕上がりだと思う。本岡姉はともかく妹の方はわりと空気だし、飛鳥、祐也、史郎の関係性をもう少し描いてくれないと、終盤の展開に納得感が出ないのではなかろうか。

ちなみに、なぜか役名も映画オリジナルになっており謎感が深まる。小説とは別の話だよってことを言いたいのかな。実はこの時代「聖子」と名のつくキャラクターを悪役に出来なくて、芸能界的な忖度が行われたのかもしれない(邪推)。

小説版と映画版の役名対照表を作ってみたので参考までに。()内は演じている役者さんね。メインの3人のキャスティングは悪くなかったと思う。

倉折飛鳥 ⇒ 夏樹伊織(斉藤由貴)
滝把祐也 ⇒ 広瀬雄一(榎木孝明)
近端史郎 ⇒ 津島大介(世良公則)
本岡聖子 ⇒ 那波裕子(岡本舞)
本岡奈津子 ⇒ 那波佐智子(藤本恭子)
トキさん ⇒ カネさん(河内桃子)
西村刑事 ⇒ 吉岡刑事(レオナルド熊)

「孤児」シリーズ残り三作の感想はこちらから

ちなみに、佐々木丸美作品は全ての作品が電子書籍化されており、しかもAmazonの読み放題サービスKindle Unlimited対応となっている。こちらは初回30日間の無料お試しもあるので、興味のある方はチェックしてみて頂きたい。