ネコショカ

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佐々木丸美『忘れな草』 「孤児」シリーズ4部作を読む(2)


「孤児」シリーズの第2作

オリジナルの単行本版は1978年刊行。

本作は佐々木丸美の「孤児」シリーズと呼ばれる作品群の一つで、運命に翻弄される四人の少女たちの物語を綴ったもの。『雪の断章』に続くシリーズ二作目となる。本作の続巻に『花嫁人形』『風花の里』がある。

忘れな草

忘れな草

 

その後、1987年に講談社文庫版が登場している。

忘れな草 (講談社文庫)

忘れな草 (講談社文庫)

 

佐々木丸美の主な活躍年代は、1970年代の後半から80年代前半で、その後も50代半ばで早逝してしまったので、90年代の終わり頃には作品を手に入れるのがかなり困難になっていた。

しかし、皮肉なことに佐々木丸美が2005年に急逝すると、復刊の動きが加速化し、復刊ドットコムでのリバイバル版が2007年に登場。こちらは現在Kindle Unlimited対象作品となっているので、手軽に読むならこちらがおススメである。

忘れな草 佐々木丸美コレクション

忘れな草 佐々木丸美コレクション

 

続いて東京創元社文庫版が2009年に上梓されている。書店で現在見かけるのはこちらかな。牧野千穂による透明感のある表紙画がいい感じである。

忘れな草 (創元推理文庫)

忘れな草 (創元推理文庫)

 

なお、シリーズの後の巻では容赦なく既刊のネタバレがあるので、くれぐれも刊行順に読まれることをお勧めしたい。『雪の断章』⇒『忘れな草』(本作)⇒『花嫁人形』⇒『風花の里』の順である。わたしは、ウッカリこの作品から読み始めてしまい、『雪の断章』の結末を先に知ってしまい愕然とさせられた。

昭和のリリカル文体の女王

本作はデビュー後三年目の作品だ。

デビュー作にして、「孤児」シリーズの一作目でもある『雪の断章』の頃は、まだそれほどリリカル感の度合いはさほど激しくなかったのだが、本作では既に作風が固まってきたのか、詩的な表現が常態化するようになる。

試みに一節を引用してみよう。

季節の風は詩人の口笛。

歳月の水底で胎動する哀歓、それは妖しい言霊となって命を吹き込まれる。

人の縁、自然界の縁、無上の縁、生きとし生けるもの全宇宙の縁は涅槃からのメッセージ。人の世はしょせん心の網目、愛憎の命綱は頼りなく、信じることのはかなさはマッチに灯る炎のよう。しかし、それが人生ならば私は生きよう。北の都に咲くますらお精神、吹雪のように私の青春に花ひらけ。

佐々木丸美『忘れな草』より

時折こうした表現が登場する、というわけではなく、ほぼ全編を通してこのような流麗な文体が続くので、ダメな方には全く受け付けないと思う。
わたしもかつて二十代で読んだ時は、その濃厚なリリカルさ加減に辟易したものだったけど、オッサンになって再読してみるとコレが意外にイケルのである!ようやく佐々木丸美を、ワクワクしながら読めるようになったかと思うと、歳を取るのも悪く無い。

あらすじ

葵と弥生。孤児として育った二人の少女は対照的な人生を送ってきた。虐待され、憎まれながら育った葵、庇護され、愛されて育った弥生。そんな二人にはある秘密があった。二人のうちのいずれかが、大企業の継承権を持っているというのである。謎めいた屋敷に引き取られ養育されることになった二人。果たして真の継承者はどちらなのか。

シリーズ中もっとも苛烈なヒロイン

前作『雪の断章』のヒロイン飛鳥は、比較的成績が良く、ラスト数 か月のラストスパートで北大に現役合格できるほどの才媛だった。 いわば、知性派ヒロインと言っていいだろう。

翻って、本作の主人公葵は、口よりも先に手が出るタイプ。何か気に触ることを言われたら、相手につかみかかりに行っているという、 野生派タイプである。思い込みも激しく、ここまで喧嘩っ早いヒロイン像は、昨今あまり見られないのではないだろうか。

しかしこの野性味が良いのである。思考よりも感情が先に出る。豊かな情念の表出。野生の獣のような美しさがそこにはある。何をしでかすか予測のつかない危なっかしさは庇護欲を掻き立てられる側面も有り、まさ昭和のヒロインといった面持がするのである。普通の男性にはとうてい手に負えないタイプだとは思うが……。

対象的な二人のヒロインの運命は?

互いに孤児で、虐待されて育った激情家のヒロイン葵と、対をなす可憐で美しいライバルの少女弥生。謎の邸宅で養われ、半ば監禁されるように暮らす二人。性格は正反対とはいえ、幼少の頃から特殊な環境下で共に暮らし、苦楽を共にしてきた二人の少女。

利益相反関係にある二人だが、あまりに特別な環境で育っただけに、その身の上に共感できるのもお互いだけなのだ。少なからず共依存の関係に陥っている二人は、心の中では相手が自身の半身に近い存在であること悟っている。行間からにじみ出る、お互いへの信頼や、共感。いがみ合い、喧嘩し合いながらも、いつしか強い友情が二人の間に育っていることに、強い感銘を覚えるのだ。

半身を喪って初めて知ること

「孤児」シリーズ一作目の『雪の断章』はどちらかというと男女の愛情に寄せた内容だった。二作目である本作でも、もちろん恋愛描写はあるのだが、それよりも、葵と弥生の友情関係を描くことに重きを置いている。不思議な友情で結ばれた二人の運命が、最後にはどこに行きつくのか。愛するものを得るために、同じくらい愛したものを喪わなければならない。片方の翼をもぎ取られて、ヒロインは初めてその喪失感のあまりの深さに気づくのだ。弥生はその命を賭することで、ヒロインとその想い人の生涯に、消えることのない十字架を背負わせたのである。

続巻の感想はちょっと待ってね

「孤児」シリーズは、続巻の『花嫁人形』『風花の里』も再読を完了している。なんとか両方とも年内に感想を書きたいところ。もうちょっとお待ちください。

なお、シリーズ一作目『雪の断章』の感想はこちらから。

www.nununi.site

ホントに佐々木丸美は、もっと読まれるべき作家だと思うよ。