ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』阿部暁子 室町ファン感涙、コバルト文庫で南北朝時代!

本ページはプロモーションが含まれています


阿部暁子の第二作

2009年刊行。作者の阿部暁子(あべあきこ)は1985年生まれ。 かつて集英社のコバルト文庫で主催していた、今は亡きロマン大賞の出身者だ。

2008年に刊行されたデビュー作の『屋上ボーイズ』は公募賞であるロマン大賞の応募作なので、受賞後の第一作が本作ということになる。

室町少年草子 ―獅子と暗躍の皇子― (コバルト文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

室町時代を舞台とした物語がお好きな方。特に南北朝時代が大好きな方。特にこの時代なら南朝だぜ!という方。ゼロ年代のコバルト文庫作品に興味がある方。最初期の阿部暁子作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

希代の能楽師、観阿弥を父に持つ少年、鬼夜叉は、舞台を見に来ていた将軍足利義満に気に入られ、ふとしたことから行動を共にするようになる。しかし、義満を付け狙う刺客の存在を知ってしまった鬼夜叉の身に危険が迫る。事件の背景には、北朝と南朝、二つの朝廷の激しい抗争があるようなのだが……。

ここからネタバレ

コバルト文庫で南北朝時代!!

室町時代(もちろん応仁の乱以降は別だよ)は、創作の世界では、というか日本史の中でも不人気かつ、不遇の時代である。小説や、マンガ、アニメ、ドラマなどで取り上げられる事例がぐっと少なくなる。大河ドラマだって、ここ数十年で『太平記』や『花の乱』くらいでしか取り上げられていない。

であるにもかからわず、2009年の時点で、コバルト文庫からまさかの南北朝時代モノが登場なのである。しかも、観阿弥、世阿弥、足利義満くらいならまだしも、楠木正儀、細川頼之まで出て来るのだ!室町時代ファンのおっさん的には歓喜の一冊と言える。

今でこそ、新書「応仁の乱」「観応の擾乱」のヒットで、物凄く魅力的な時代であることは少しずつだけど知られるようになってきたと思うのだが、10年前とはいえ、よくぞこの企画が通ったなあ。

好きな話、好きな時代を書きました!

少年時代の世阿弥を軸に、将軍義満と、その側近柊、そして南朝の刺客である無王、この四人を中心に物語は展開していく。誌面の都合もあるのだろうけど、各キャラクターの書き込みに、少々深さが足りないところもあって、若書きの感は否めないのだけど、好きな話、好きな時代を書きました!といった清々しさがあって、その意気や良しなのである。

特に、喪われた南朝の皇子として登場する無王は、女装男子、強くて綺麗、出自の卑しさ故のコンプレックス持ちと、萌え属性満載の良キャラクターで、この一作で消えてしまうには惜しい程であった。どことなく氷室冴子の「あの作品」で登場した某君を思い起こしてしまう。 

成長の物語。人は変わるよ。変われるよ

南北朝の動乱で、大切な人を奪われてきた柊や無王。憎悪のために抱え込んだ鬱屈で、素直に前を向いて生きることが出来なかった彼らが、今回の事件を通じて恨みを捨て、新しい生き方に向き合うことが出来るようになっていく。

本作は、それぞれのキャラクターたちを呪縛していた「憑きもの」を落としていく物語だ。これは後の『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』でも、同様に登場する要素で、この作者はこういうお話が好みであり、得意なのだろうなと思う。人はより良い方向へ変わることが出来る。成長することが出来るのだ。

この点を確認することが出来た意味でも、阿部暁子の初期作品を読んでおいて良かったかな。もう少し、他の初期作品も読んでみるつもり。

その他の阿部暁子作品の感想はこちら