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『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈 成瀬シリーズ第二弾!高校3年秋~大学1年編

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成瀬あかりにまた会える!

本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』のその後を描いた続編的作品。

2024年刊行。5編の短編を収録。そのうち「やめたいクレーマー」は、新潮社の小説誌「小説新潮」の2023年5月号掲載。他の4編はすべて書下ろしとなっている。表紙及び口絵のイラストはざしきわらしによるもの。

成瀬は信じた道をいく 「成瀬」シリーズ

前作『成瀬は天下を取りにいく』の感想はこちらから。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

前作を読んで成瀬あかりに魅了された方。成瀬あかりの生涯を見届けたいと思った方。滋賀県が大好き!滋賀県ローカルの小説作品を読んでみたいと思っている方。ちょっと変わったヒロインが主人公の小説作品を読んでみたいと思っている方におススメ。

ただし、前作の『成瀬は天下を取りにいく』を先に読むことを強くお勧めします。

あらすじ

高校を卒業し、大学生になった成瀬あかり。幼馴染で親友の島崎みゆきとは離れ離れになってしまったが、今日も成瀬あかりの快進撃は続く。成瀬に憧れる小学生女子。娘の成長を見守る父親。バイト先のクレーマー主婦。びわ湖大津観光大使の同僚。そして島崎みゆき。五人の人物から見た成瀬あかり史を綴っていく連作短編集。

以下、各編ごとにコメント。

ここからネタバレ

ときめきっ子タイム

書下ろし作品。成瀬あかり、高校三年の秋。時系列的には前巻の最終エピソード「ときめき江州音頭」に続くお話。

滋賀県大津市内にある、市立ときめき小学校4年生の北川(きたがわ)みらいは、イベントで出会ったゼゼカラの成瀬あかりに憧れ、総合学習の時間(ときめきっ子タイム)の課題として取り上げることを決める。早速実物に遭遇したみらいは、成瀬のキャラクターに魅せられていく。

成瀬あかりの一番弟子北川みらいのお話。メンター、かくありたい自分、ロールモデルとしての成瀬あかり像。成瀬ファン的には、島崎とのいちゃいちゃぶりを愉しむお話かな。

北川みらいは、地元のイベント「ときめき夏祭り」で、失くした財布を成瀬のおかげで取り戻すことができた。それ以来、みらいは、すっかり成瀬の魅力にやられてしまっている。琵琶湖の絵コンクールで琵琶湖博物館長賞を受賞。夏休みの自由課題(絵画、作文、書道など)は全部出すスタイル。振り込め詐欺を事前に防止。ひったくり犯を捕まえた(これはガセネタ)。交通安全標語に採用などなど、地元とはいえ、ちょっと周囲を見回すだけ武勇伝がゴロゴロ転がっている成瀬がヤバい(笑)。

このエピソードの成瀬名言

何になるかより、何をやるかのほうが大事だと思ってる。

『成瀬は信じた道をいく』p26より

やりたいことをただひたすらに積み上げていくのが成瀬スタイル。「何になるか」はその結果に過ぎない。

成瀬慶彦の憂鬱

書下ろし作品。成瀬あかり、高校三年の冬。京都大学入試編。

京都大学を受験する成瀬あかり。父親の成瀬慶彦は、成瀬を見守るため京大受験に同行する。受験会場で出会った怪しい男子高校生を、自宅に泊めると言い出す成瀬。果たして成瀬の大学受験は無事に終わるのか……。

まさかの父親視点!心配性なパパ、成瀬慶彦(なるせよしひこ)から見た成瀬あかりの姿が描かれる。もうひとりの新キャラクターとして、貧乏高校生でYoutuberでもある、城山友樹(しろやまともき)が登場。高知県からヒッチハイクで受験に来て、京大構内にテント拍(出来るの?)しようとするあたり、さすが京大受験生とも言える変人ぶり。しかし、成瀬は初対面の城山を、いきなり自宅に泊めると言い出す。

これを普通に許容してしまえるあたり、さすがは成瀬の父親。娘の特異性に慣れきっている。面白いのは、どんな時でも塩対応気味の成瀬母、美貴子(みきこ)の存在だろうか。この人も相当に変わった人に思える。

やめたいクレーマー

初出は『小説新潮』2023年5月号。成瀬あかり大学1年の春。

滋賀県大津市内のスーパーマーケット、平和堂フレンドマート大津打出浜店。主婦の呉間言実は今日もクレーム活動に精を出している。言実は、アルバイト店員の成瀬あかりから、万引き犯を捕まえるために協力を依頼され戸惑いを覚えるのだが……。

自己肯定感と、他者からの承認のお話。長所と短所は裏表。自分では自分の良さに気付かないこともある。それにしても、アルバイト店員なのに、自分の倍以上、年齢が上の客に対して「君が呉間言実だな」って言っちゃう成瀬よ!

平和堂フレンドマートは滋賀県彦根市を中心に展開している、実在の小売店グループ。呉間言実(くれまことみ)は36歳の主婦。馴染のスーパーへのクレーム活動が辞められず、自己嫌悪に陥っている人物。自宅は、かつての西武大津店の跡地に建てられたレイクフロント大津におの浜メモリアルプレミアムレジデンス(実際する物件の名称はシエリアシティ大津におの浜)。

コンビーフはうまい

書下ろし作品。成瀬あかり大学1年の春。

祖母、母に続き、びわ湖大津観光大使に選ばれた女子大生、篠原かれんは、同僚となるもう一人の観光大使、成瀬あかりの個性に強烈なショックを受ける。言われるがままに大使になった自分と、望んで大使の地位を得た成瀬。ふたりの観光大使としての日々がはじまる。

篠原かれんは、成瀬より1歳上の大学二年生。地元議員の娘で、祖母も母もびわ湖大津観光大使という、いわゆる良家の子女的ポジションのキャラクター。既定路線として観光大使になったものの、この先特にやりたいことがあるわけでもない。このまま親のいいなりになって生きていくのか?

かれんには表向きは隠している鉄道愛好家としての側面がある。かれんは、成瀬と観光大使の時間を共有していく中で、自分がいかに自分のやりたいことに蓋をして生きてきたか気付かされていく。親に決められた生き方をしなくていい、好きなように生きていいんだ。自分のやりたいことに真っすぐ向かっていく成瀬の存在が、かれんの生き方をも変えていく。

ところで「コンビーフはうまい」は、どう語呂合わせしたら成瀬宅の電話番号になるのか、わかる人教えて~!

探さないでください

書下ろし作品。成瀬あかり大学1年の年末。

大晦日。久しぶりに大津に戻ってきた島崎みゆきだったが、訪ねた成瀬は不在。自宅には「探さないでください」の書置きが!行方を案じた父親と共に、成瀬の行方を追う島崎の旅がはじまる。はたして成瀬はどこに?何をしに行ったのか?

祝★成瀬あかり紅白歌合戦初出場w。けん玉の伏線がここで生きて来るとは。最終エピソードは親友の島崎あかり視点で締め。この巻に登場した各編の視点人物、北川みらい、成瀬慶彦、呉間言実、篠原かれんらが全て登場し、この巻の集大成的なお話となっている。成瀬探索班のグループLINEにわたしも入りたい。

さまざまな視点から成瀬あかり史を紡ぐ

前作『成瀬は天下を取りにいく』では、成瀬あかり本人の視点があったが、『成瀬は信じた道をいく』にはそれがない。『成瀬は信じた道をいく』では、前作以上に「他者から見た」成瀬あかり像を描くことに注力している。

裏表がない成瀬の性格は、それだけに、一緒にいる人間から見たら自分自身を映し出す鏡になる。やりたいことができない自分。ネガティブでめんどくさい自分。自己主張が出来ない自分。それぞれがうまく自覚出来ていなかったことが、成瀬といると見えてくる。そしてちょっとだけ、気が楽になり前が向けるようになっている。本シリーズを読む楽しさは、そんなところにもあるのではないかと感じた。