ブレイク目前の桜庭一樹、初の一般向けミステリ作品
2005年刊行。2003年のファミ通文庫『赤×ピンク』、2004年の富士見ミステリー文庫『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と、ライトノベルの世界でただものではない凄みを見せつけた桜庭一樹が、一般向けのミステリ作品として初めて書き下ろしたのが本作である。
ミステリ界への殴り込み一作目は東京創元社のミステリフロンティアシリーズからの登場だった。2006年版このミス国内部門第20位にランクインしている。
なお、創元推理文庫版は2007年に登場。解説は文芸評論家の杉江松恋(すぎえまっこい)が書いている。
タイトルの元ネタはP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ライトノベルから、一般文芸の世界に「越境」し始めた頃の桜庭一樹を読んでみたい方。地方の都市(下関周辺)を舞台とした少女の物語を読んでみたい方。タイトルが気になった方。ドラマ版を見て原作も読んでみたいと思った方におススメ。
あらすじ
本州の西の外れにある、とある小さな島。中学二年生の大西葵13歳は一年間で二人の人間を殺した。夏休みにひとり、それと冬休みにもうひとり。凶器は悪意とバトルアックス。殺人はまったく少女には向かない職業だ。その魂は本来殺人には不向きなのだ。でも、その機会はふいに訪れる。訪れてしまう。これは、ごくごく普通の少女の人殺しの記録。
ココからネタバレ
どこにも行けない少女の閉塞感
山口県下関市の彦島(橋で本州に地続きだけど)に住む少女の物語。GoogleMapで見てみるとこんな感じ。思っていたよりもかなり大きな島だ。
下関は行ったことがあるので、ちょっとだけ親近感。島と言ってもド田舎という訳でもなく、かといって都会ではもちろん無い。どこにも行けないわけでは無いけど、どこかに行けたとしてもたかがしれているという暗喩なのかもと邪推してみたり。閉塞感の表現が上手い。
桜庭一樹ならでは。ライトノベル時代から得意の饒舌な一人称語りがハマっていて、同時代的なザラザラとした生々しさを強く感じさせる。ローティーン少女の心のゆらぎを抉り込むように鋭く掘り下げる筆致の巧みさ。人を殺したその先には怒りも哀しみもなく、驚きと困惑だけが残る。少女が主人公でしか書けないタイプのクライムノベルを、キッチリ書き上げてきた。
「砂糖菓子」の別解として
13歳の大西葵は、二人の人間を殺害する。一人目は悪意で。二人目はバトルアックスで。そしてこの殺人には共犯者が存在する。それが宮乃下静香だ。ふたりはそれぞれに過酷な家庭環境下にあり、日々抑圧された生活を送っている。学校での葵は、賑やかし系のおちゃらけキャラなのに、私生活では言いたいことも満足に言えない内向的な子どもになってしまう。一方の宮乃下静香は学校では目立たない地味キャラだが、私生活ではゴスロリ服を着て島内を徘徊する不思議ちゃんだ。
事件はこの二人が出会うことが無ければ起きなかった。人生の障害を取り除きたいと思っていた人間に、たまたまその方法を知っている人間が出会ってしまった。宮乃下静香は大西葵に「完全犯罪」の実行を促す。もちろん女子中学生が考えた犯行方法が、「完全犯罪」になるわけもなく、最後はただ、なすすべもなく、ふたりは現実の前に膝を折る。
地方都市を舞台とした作品で、ふたりの少女が主人公、冒頭に結末が提示されている。この三つの要素が共通している桜庭一樹作品に『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』がある。同じ要素を用いながらも、『少女には向かない職業』ではまた異なる展開と結末を用意してきた。だが、子どもには世界は変えられない。「砂糖菓子の弾丸」では世界とは戦えない。この点では、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と作者の訴えたいことは変わらないように感じた。
ドラマ版もある
本作は2006年にGyaOのネット配信ではあるが、緑友利恵(みどりゆりえ、現友利恵)の主演でドラマ化されている。宮ノ下静香は田島有魅香(たじまゆみか、現田島ゆみか)が演じている。
全10話で420分以上あるので、腰が引けてしまい残念ながらわたしは未視聴。映像化にはあまり向いていないような気がする本作を、どのようにドラマ化しているのか。少し興味がある。 原作になかった「12年後」という設定があるようなので、このあたりが気になっている。でも配信でやっているところが見つからないんだよなあ。久しぶりにDVDレンタルにでも手を出してみる



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