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『なんて素敵にジャパネスク2』氷室冴子 人気を決定的にしたシリーズ最高傑作巻

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「なんて素敵にジャパネスク」シリーズ最高傑作

1985年刊行作品。前年に刊行された『なんて素敵にジャパネスク』の続篇。前作同様に表紙及び本文イラストは峯村良子によるもの。

なんて素敵にジャパネスク2

イラストが後藤星に替わった新装版は1999年に登場。表紙を飾っているのは鷹男(今上帝)。

2012年には小中学生向けのレーベル、集英社みらい文庫版が登場。こちらのイラストは佐嶋真実によるもの。

そして2018年には復刻版が登場。巻末には「破妖の剣」シリーズで知られる、前田珠子(まえだたまこ)による解説が収録されている。表紙及び、本文中のイラストはなし。

「なんて素敵にジャパネスク」シリーズは、刊行から40年近く経っても、未だに大きな書店に行けば全巻が揃って売られている稀有な作品だ。ただ、店頭に並んでいるのは1巻と2巻が復刻版で、3巻以降は新装版となっている。この点なんともチグハグなのだけど、なぜ3巻以降は復刻版は出なかったのだろう?

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

平安時代が好き!雅な時代を舞台とした物語を読んでみたい方。氷室冴子の最高傑作を体験したい方。刊行当時の懐かしい気持ちに浸りたい方。昔のコバルト文庫の看板作品を読んでみたい方におススメ!

と、言いながらも、この巻から読むのはまったくお勧めしません!必ず第一巻から読みましょう。

あらすじ

前左大臣の陰謀を退けた瑠璃姫には、彼女を気に入った帝からの誘いが引きも切らない。許嫁である高彬の手前もあり、言を左右にして宮中への参内を拒む瑠璃姫だったが、遂に断り切れなくなり、緊急避難として尼寺に駆け込む。しかし、寺にはなぜか憔悴しきった二の姫がいて、そして留守にしていた自宅の三条邸が何者かの放火によって全焼してしまう。事件の背後には意外な人物がいて……。

ここからネタバレ(前巻のネタバレも含むの途中から読む方は注意!)

本巻の登場人物

  • 瑠璃(るり)姫:本作の主人公。大納言家の姫。
  • 藤原高彬(ふじわらたかあきら):右大臣の四男。近衛の少将(左衛門佐から出世した)。瑠璃の婚約者。
  • 鷹男(たかお):今上帝
  • 吉野君(よしののきみ):瑠璃姫が吉野に住んでいた頃の幼馴染。瑠璃姫、初恋の相手。後に出家して唯恵(ゆいけい)と名乗る
  • 藤宮(ふじのみや):先々帝の第八皇女。先帝の異母妹。今上帝の叔母。当時の内大臣に降嫁するも現在は未亡人
  • 二の姫:兵部卿宮の姫。都でも評判の美女で和歌の名手
  • 藤原忠宗(ふじわらただむね):右大臣(大納言から出世した)。瑠璃、融の父
  • 融(とおる):瑠璃の弟。右大臣家の嫡子
  • 小萩(こはぎ):瑠璃付きの女房。

シリーズ最大の悲劇

シリーズ一作目の『なんて素敵にジャパネスク』は中短編を織り交ぜた作品集だった。打って変わって、第二巻は300頁を超える大長編となっている。前作で僅かに言及されていた吉野君が最重要キャラクターとして登場。氷室冴子作品でも屈指のドラマティックかつ、悲劇的な展開をとげる一作でもある。

吉野君は公表することのできない帝の子として生まれる。父親が誰なのか知らされず、吉野の地で寂しく過ごす。唯一愛した瑠璃姫を娶るにふさわしい身分が欲しい。ただそれだけの想いで、帝である父親との対面を果たす。しかし帝は政治的な配慮から、吉野君を認知することができない。虚しく仏門に入った吉野君だったが、血を分けた兄弟が、即位し、瑠璃姫を後宮に招こうとしていることを知り、冷酷な復讐者として自らの手を血に染めていく。

父帝による認知拒否。実弟である正良親王(前巻で前左大臣に担ぎ出された高男の弟)の落飾。そして瑠璃姫入内の衝撃。先帝にしろ、今上帝(鷹男)にせよ、致し方なく下した判断が裏目裏目に出て吉野君を追い詰めていく。唯一の悪役である前左大臣(大海入道)が、既に配流先で病没しているのも虚しい。

高彬が良い奴過ぎる

この物語でひときわ輝くのは高彬の献身だろう。自らも幼いころから想い続け、ようやく婚約にまでこぎつけた瑠璃姫。その初恋の相手、吉野君が、主君である今上帝に対して叛こうとしている。瑠璃姫の気持ちを考えれば吉野君に手荒なことはしたくない。しかし、よりにもよって帝から高彬に与えられた命令は吉野君を斬ることだった。

高彬はあえて致命の一撃は避けたのではないか。瀕死の重傷を負いながら逃亡を図った吉野君(しかも逃げる手引きをしたのは瑠璃姫だ)を、誤った初動捜査で見逃してしまう。この時の「これで気がすんだかい」と、ラストの「ぼくで我慢しなよ」のセリフには彼なりの万感の思いが込められているようでグッとくる。

一面の雪景色

『なんて素敵にジャパネスク2』はラストシーンの美しさも群を抜いている。心身ともに大きな傷を負った瑠璃姫は、都の喧騒を避け、吉野にやってきている。吉野は久しぶりの大雪。全てが白に塗りこめられた世界で、ただ、吉野君の生還を信じて待つ。瑠璃姫が着るのは、純白の十二単「氷の襲(かさね)」。あとからやってくる高彬も、白い直衣姿で現れる。

春になれば桜が咲き、夏には藤が、秋には紅葉の錦が映える。本来であれば色彩に溢れた美しい土地である吉野が、いまはただ純白の姿で、ただひとりの男の帰りを待っているのである。そして一面の雪景色は、瑠璃姫のとめどなく溢れる涙によって溶暗していくのだ。

氷室冴子作品の感想をもっと読む

〇「なんて素敵にジャパネスク」シリーズ

『なんて素敵にジャパネスク』 / 『なんて素敵にジャパネスク2』 / 『ジャパネスク・アンコール!』 / 『続ジャパネスク・アンコール!』 / 『なんて素敵にジャパネスク3 人妻編』 / 『なんて素敵にジャパネスク4 不倫編』 / 『なんて素敵にジャパネスク5 陰謀編』 / 『なんて素敵にジャパネスク6 後宮編』 / 『なんて素敵にジャパネスク7 逆襲編』 / 『なんて素敵にジャパネスク8 炎上編』 

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『白い少女たち』 / 『さようならアルルカン』 / 『クララ白書』 / 『アグネス白書』 / 『恋する女たち』 / 『雑居時代』 / 『ざ・ちぇんじ!』 / 『少女小説家は死なない! 』 / 『蕨ヶ丘物語』 / 『海がきこえる』 / 『さようならアルルカン/白い少女たち(2020年版)』

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『いっぱしの女』 / 『冴子の母娘草』/ 『冴子の東京物語』

〇その他

『氷室冴子とその時代(嵯峨景子)』