綾辻・有栖川復刊セレクションからの一冊
もともとは1988年に講談社ノベルズにて刊行された作品。作者の皆川博子(みながわひろこ)は1929年(もしくは1930年)生まれのミステリ作家。
2007年に講談社ノベルズ25周年記念「綾辻・有栖川コレクション」の一冊として復刊された。
同コレクションは、綾辻行人(あやつじゆきと)、有栖川有栖(ありすがわありす)の両名の選による十二作品。これまでに刊行されてきた講談社ノベルズの諸作品の中から、埋もれてしまった名作を発掘して再び世に問い直していこうという企画であった。
順番が前後するが、講談社文庫版は1994年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
1980年代の講談社ノベルスの雰囲気を味わいたい方。この時期の皆川博子作品に興味がある方。綾辻・有栖川復刊セレクションという響きに惹かれる方。閉鎖環境下での少女たちの物語を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
とある修道会によって孤島に建設された、少女のための更正施設。そこには窃盗、売春、恐喝、傷害、数々の犯罪を犯した少女たち31人が収監されていた。反抗的な彼女らに手を焼く大人たち。島を抜け出そうとして海に溺れた者が3人。ところが何度数え直しても少女達の数は31人と変わらなかった。隔絶した環境下で起きる異常事態の真相とは。
ここからネタバレ
閉鎖環境に集められた理由ありのこどもたち
当時の購入動機としては解説が恩田陸だったから。
閉鎖環境にいわくつきの少女達が集められている。なんとなく『麦の海に沈む果実』っぽいイメージではないか。とはいっても、同作に登場する残酷ながらもノーブルな子供達に較べると、こちらはかなり蓮っ葉な子たちだなという印象は拭いがたく、それぞれの個性も弱い。『麦の海に沈む果実』のようなものを求めて読んでいくと期待を裏切られる。200ページも無いような中編程度のボリュームなので、それぞのキャラクターを掘り下げる手間もかけられなかったかな。
斬新(当時としては)なトリックだった
復刊の理由として当時としてはこのトリックは斬新だった、ってあたりが評価されているようだ。しかし、いざ読んでみると冒頭の一章だけで、内容が予想出来てしまうのでちょっと厳しい。最近の皆川博子だったら、遥かにもっと上手く書けるだろう。
とはいえ、退廃的でエロティカルな空間。そこはかとなく滲み出てくるヒロインの異常性。次第に現実から乖離していく物語の横滑り感は現在の作風へとつながる部分かもしれない。
綾辻・有栖川復刊セレクションはこちらの十二作
おまけ。せっかくなので綾辻・有栖川復刊セレクションのラインナップ、全十二作をご紹介しておこう。1980年代前半~1990年代前半にかけて刊行された、バラエティに富んだ懐かしの名作の数々である(といっても、半分くらいしか読んでいないけど)。
わたし的なイチオシは何と言っても、井上雅彦の『竹馬男の犯罪』である。この話、ホントに大好き。ネタバレになってしまうので、具体的な感想は差し控えるが、本格ミステリ好きなら是非一度読んでいただきたい作品である。井上雅彦、時々でいいからこういうのもまた書いて欲しい。
辻真先『急行エトロフ殺人事件』
竹本健治『狂い壁 狂い窓』
連城三紀彦『敗北への凱旋』
都築道夫『新 顎十郎捕物帳』
戸川昌子『火の接吻 キス・オブ・ファイア』
多島斗志之『<移情閣>ゲーム』
皆川博子『聖女の島』
阿井渉介『列車消失』
中西智明『消失!』
江坂遊『仕掛け花火』
今邑彩『金雀枝荘の殺人』
井上雅彦『竹馬男の犯罪』