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『塩の街』有川浩(ひろ)のデビュー作と終末モノのお作法

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有川浩(ひろ)のデビュー作は 電撃ゲーム小説大賞受賞作品

2004年刊行。第10回電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作品。今をときめく有川浩(ひろ)のデビュー作である。現在は「有川ひろ」名義で活動されているのだが、本稿では刊行当時の名義「有川浩」にて記載させていただく。

実は刊行当時、イラストが微妙に好みに合わず、評判の良さは聞きながらも手を出すのを躊躇っていた作品なのである。しかしながら第二作である『空の中』の世間的評価が、本作よりも更に高かったので、このタイミングで二冊まとめて購入してしまった次第。

ちなみに『塩の街』には三つのバージョンが存在する。

最初は電撃文庫版である。電撃ゲーム小説大賞の受賞作なのだから、当たり前と言えば当たり前。ただ、デビューから15年以上が経過し、そろそろ有川浩の出発点が、ライトノベルレーベルからであったことを知らないでいる方も多い気がする。

この版では副題として「wish on my precious」がついている。

その後の有川浩のブレイクを経て、2007年に単行本版がメディアワークスから登場する。文庫が先行して、あとから単行本が出るケースはかなり珍しい。

塩の街

塩の街

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そして2010年にKADOKAWAより再文庫化された。この角川文庫版が現在流通している版ということになるだろう。

塩の街 (角川文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

有川浩の原点に触れてみたい方、終末の世界を描いた作品が好きな方、ラブラブ展開が大好きな方、電撃ゲーム小説大賞関連の作品を読みたい方におススメ。

あらすじ

突如人類を襲った大災厄。人体を蝕み、その組成を塩に変えてしまう謎の現象「塩害」。瞬時に数百万人が塩の柱と化し、社会基盤は崩壊。辛うじて生き延びた人々も、いつ訪れるとも知れない「塩害」感染への恐怖に怯える毎日を送っていた。両親を失った少女真奈と、成り行きから彼女を拾った秋庭。終末へと加速する時の中で、彼らが見ることになる様々な人間模様とは?

ここからネタバレ

終末モノだけど……

この話、前半と後半でガラリと雰囲気が変わる。前半は滅びの日を迎えつつある世界の中で、主人公たちの前を通り過ぎていく人々の最期の時間を描いた連作短編の形式を取っている。

オールドなエスエフファンとしては新井素子の『ひとめあなたに… 』や、

神林長平の短編「抱いて熱く」(『小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)』 収録)あたりを、

足して二で割ったような印象を受けた。先の見えない未来、閉塞感、やり場のなさ、終末小説大好きさんな自分としてはここまでは大満足。

まさかのハッピーエンド

これでどう落とし前をつけるのか、後半への期待は高まるところなのだが、なんとこの二人、世界を救うために自らの命を賭して運命に立ち向かってしまうのだ。あまりに健全過ぎる展開に激しく脱力した(当時)。なんじゃそりゃ!しかも作戦に成功して完膚無きまでに美しいハッピーエンドまで勝ち取ってしまうのである。マジか!完璧すぎるよ。

清く正しく美しく前向きに

それでも最後に秋庭が死んでしまうとか、真奈の掌が塩化!みたいな救われない展開があれば納得も行くのだけれども、物語はあくまでも清く正しく美しく前向きに完結。大部分の読み手に取ってはこれで正解なのだろうが、ひねくれ者のわたしとしてはこの展開は受け入れがたい。

前半の重苦しい閉塞感がたまらなく魅力的であっただけに物足りなさが強く残る。まあ、趣味が悪いと言ってしまえばそれまでなのだけど。終末小説のお作法としてはどうなのよと思ってしまうのであった。有川浩らしい展開と言ってしまえばそれまでなのだろうけど。

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