二作目にしてハードカバーで登場
2004年刊行作品。『塩の街』で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞した有川浩の第二作が本書である。電撃文庫デビューの作家が、なんと二作目でハードカバーで登場である。この作家のブレイク作品と言うと、一般的には『図書館戦争』シリーズなのだろうけど、わたし的には断然この一作である。
メディアワークスは、過去にも高畑京一郎の『タイムリープ』 みたいにここぞと決め込んだ作品はハードカバーで出してくることがあった。ただそちらはキャラクターのイラストを前面に押し出したカバーデザインであった。それに反して、本書は思い切りよく表紙にすらイラスト無し。ライトノベル色を完全に消してきたのである。
版元がメディアワークス(現在は統合されてKADOKAWAになっちゃったけど)ってことを除けば、一般の文芸書と見た目では全く区別がつかない程。帯の推薦者も恩田陸に橋本大二郎(当時の高知県知事)!とインパクト十分。これは勝負に出たねと、刊行当時は思ったのものである。
なお、角川文庫版は2008年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
ジュブナイルもミステリもエスエフの要素も全部楽しみたい方。『図書館戦争』以前の有川浩(ひろ)作品に触れてみたい方。特撮愛に溢れた小説を読んでみたい方。高知弁の響きが好きな方におススメ!
あらすじ
200X年。四国沖200キロの上空で起きた二件の航空事故。その真相は思いもよらぬものだった。高度20,000メートルの高々度世界で、人類は全長数キロにも及ぶ未知の知的生命体に遭遇する。事故によって父親を失った斉木瞬は、海岸に打ち上げられた不思議な生物を拾い家に持ち帰る。失意の底にあった瞬は、謎の生き物との交流を通じて次第に活力を取り戻していくのだが……。
ココからネタバレ
濃厚な特撮テイストが堪らない
未知の生命体と友情を育む少年と、未曾有の驚異に真摯に立ち向かうオトナたち。少し読んですぐに感じたのが濃厚に特撮テイストな雰囲気。あまり特撮は得意でない自分でも感じるくらいだから、その筋に詳しいひとなら琴線に触れる部分がたくさんあるのではないかと思う。この作品、特撮で見てみたくなる。
ジュブナイル、ミステリ、エスエフの要素が完成度高く融合
人智を越えた異種知性との邂逅を子供と大人の二視点で描きながら、ジュブナイル小説としての輝きや、ミステリ的な謎解きの面白さ、エスエフ的なセンスオブワンダーなワクワク感をも併せ持ち、更に破壊的に萌え度の高い武田三尉のようなキャラクターまで用意されている。これらの要素が互いを阻害することなく、渾然一体となって読み応えのある快作に仕上がっているのが素晴らしい。
ネイティブな高知弁の存在がこれまたお見事。この独特の言い回しだけで、瞬を取り巻く世界が瑞々しく活気のあるものになっている。モノクロの絵がいきなりカラーになったかのような鮮烈さ。本当に本人が全部読んだのかどうかは、嘘くさいが橋本大二郎が推挙したくなる気持ちも判るな。
ちなみに有川浩(ひろ)の一作目『塩の街』の感想はこちらから。