メフィスト賞受賞後、初の作品
2001年刊行作品。『煙か土か食い物』で第19回のメフィスト賞を受賞した舞城王太郎(まいじょうおうたろう)の第二作。「奈津川サーガ」と呼ばれる一連のシリーズの二作目でもある。
全貌が判りにくい「奈津川サーガ」
奈津川家の人々を描いた、「奈津川サーガ」と呼ばれる作品群は以下の通り。
・煙か土か食い物(2001年)
・暗闇の中で子供(2001年)
・世界は密室でできている。(2002年)
・駒月万紀子(2004年)
・イラストーリー「二郎」(2004年)
『煙か土か食い物』と『世界は密室でできている。』は文庫化されているのに、『暗闇の中で子供』はどうしたものか文庫化(電子書籍版もない!)されていない。何故なのか??
エグ過ぎるから?いやいや、そんなこと言ったら他にもヤバいのあるわけだし。売れないから?いやいや2003年頃、舞城王太郎に脚光が当たった時期に出せばそれなり売れたと思うし。作者の意向なのだろうか?
『駒月万紀子』『イラストーリー「二郎」』は単行本未収録作品と言うこともあり、「奈津川サーガ」の全貌は、現在ではなかなかつかみにくい状況となっている。残念な話である。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
前作『煙か土か食い物』が既読であること(いきなり『暗闇の中で子供』から読み始めるのは危険なのでやめましょう)。なおかつ、それでも続篇を読みたい!という強い気持ちがある方。そして入手困難なこの本が、既にお手元にある方。是非読んじゃってください!
あらすじ
連続主婦殴打生き埋め事件から程なく。奈津川家の三男坊にしてミステリ作家の三郎は奇妙な行動を取るユリオという少女に出会う。終息した筈の生き埋め事件の経過をなぞるように、マネキンを埋め続けるユリオ。彼女を保護した時から三郎の受難の日々が始まる。突然の襲撃。忽然と姿を消した昏睡状態の母親。相次ぐ怪事件は失踪中の兄、二郎が起こしたものなのか。
ここからネタバレ
奈津川三郎が主人公
前作の主人公四郎の兄、奈津川三郎が今回は主役を務める。引き続いて講談社ノベルズではあまり見られない段組無しの構成。このおかげでページ数がいたずらに増えているのは間違いの無いところ。異常に改行を入れようとしない舞城文体に合わせた措置と考えられなくもないけど、実際のところはどうなのだろうか。
内向的な三郎のキャラクター
ろくでもない人間しか居ないのではないかと思われる奈津川家。直感に優れ、旺盛な行動力を持っていた四郎と違って、三郎のキャラクターは内向的。破天荒なふるまいを見せながらも強引に真相に迫っていった四郎と違って、三郎は自分の中での思索に籠もりがち。ともすればその思索は妄想の世界へとどっぶりと浸かっていくので、次第にこの話、なにがなんだかわけが判らなくなってくる。
物語の奔流に身をゆだねるしかない
結局楓の存在はなんだったんだろう。最初に出てくる妊娠話も謎だが、終盤近くになっての結婚話からの流れは唐突に本編のトーンが転調したようで、まるで別の話のようだった。最後に出てきた奴は誰なんだろうとか、そもそもあんな風になっちゃって三郎大丈夫なのかよ(大丈夫なわけねえ)とか、謎は尽きない。
続きが出れば判るのかと思い続けて幾星霜。エネルギッシュで圧倒的な物語の奔流に浸れただけでも満足か。