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『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』アマル・エル=モフタール、マックス・グラッドストーン


ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞、四冠!

2021年刊行作品。オリジナルの米国版は2019年に登場。原題は『This is how you lose the time war』。本作は女性作家アマル・エル=モフタール(Amal El-Mohtar)と男性作家マックス・グラッドストーン(Max Gradstone)の共著となっている。

アマル・エル=モフタールは1984年生まれ。両親はレバノン出身のカナダ人作家。一方のマックス・グラッドストーン1984年生まれのアメリカ人作家。

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

本作は2019年~2020年にかけて、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞の四賞を獲得。英米圏では高い評価を受けた一作である。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

二人の女性が主人公の作品に興味のある方。英語圏、欧米圏の文学に通じている方。歴史改変系。壮大な世界観を持った物語を読んでみたいと思っている方。あまり長くない(300ページ以下)海外エスエフ作品を探している方。海外で評価の高いエスエフ作品で読んでみたい方におススメ。

あらすじ

宇宙の覇権をめぐり対決する二大勢力。エージェンシーとガーデン。時と空間を超えて戦いは続く。レッドとブルー。それぞれの陣営を代表する凄腕の工作員は、出会い、互いをライバルとして認識し、やがて密かに交流を持つようになる。さまざまな手段で<手紙>を交換し、互いへの想いを募らせていく二人だったが、彼女たちの交流はやがて組織の知るところとなる。

ココからネタバレ

英語圏における文学の素養

いきなり話が逸れるが、松本侑子版の『赤毛のアン』をご存じの方はおられるだろうか。村岡花子版をはじめとして、多くの邦訳が存在する『赤毛のアン』だが、松本侑子版の特徴は原著に散りばめられている聖書や、シェイクスピア作品などの引用にたいして、しっかりと注解を加えている点にある。松本侑子版を読んだ当時、わたしは何度も読んできた『赤毛のアン』の、ごくごく一部しか読み取れていなかったことを痛感したものである。

英語圏の作家が当たり前のように、著名な文学作品を引用し、読む側もそれを当然のものとして楽しむことが出来る。『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』も、そうした作品の一つである。この作品の中には、数多くの文学、詩歌、哲学、歴史に由来する引用がそこかしこに盛り込まれているのだ。

解説で訳者の山田和子も指摘しているが、本作の魅力は英語圏、欧米圏であれば十分伝わるものなのだと思う。ただ、日本語に訳した時にその魅力のかなりの部分は、そぎ落されてしまう。これは訳の問題というよりは、受けとめる側の素養の問題なのだと思う。

 

ということで、わたしは本作の魅力の、いちばん肝心な部分をきちんと咀嚼出来ていない。しかし、それだけで本作を諦めてしまうのはちょっと勿体ないのだ。以下、他にもある本作の魅力について書いてみたい。

理解者の存在が世界を変える

エージェンシーのレッドとガーデンのブルーは、各陣営きってのエリート工作員である。連戦連勝。百戦錬磨。その実績は数知れず。しかし彼女たちは、味方陣営の中では孤独だった。レッドとブルーは数多の時空間を超え出会いを繰り返していく中で、これまでに会うことが出来なかった、自分に匹敵する卓越した知性の存在を知る。

レッドとブルーは地球のみならず、宇宙空間のさまざまな時間と場所に出現することできる。それは時に、砲弾はじけ飛ぶ独ソ戦の最前線であったり、古代ローマのシーザー暗殺場面であったり、遥か未来の宇宙艦隊戦であったりとバリエーションに富んでいて、歴史好き、歴史改変エスエフ系が好きな方なら楽しめるのではないだろうか。

本作のほとんどのパートは、レッドとブルーの手紙のやり取りで構成されている。レッドとブルーは、それぞれの陣営上層部に厳しく監視されている。そのため二人が連絡を取り合うのは極めて難しく「手紙をいかにして相手に届けるか」の工夫の数々も、奇想天外な方法が多数取られていて読み手を楽しませてくれるのだ。

ぎごちなく始まった二人のやり取りは、次第に熱を帯びたものとなり、やがてお互いの存在がかけがえのないものになっていく。二人の交流はやがて上層部の知るところとなり、その関係性にも危機が訪れる。このピンチに対して二人がどんな答えを出したのか。最後にタイトルの意味が見えてくると、読む側としてはニヤニヤしてしまいそうになるのだ。

欧米文学の引用を散りばめた知的な構成に、時空間を飛び越える壮大な世界観、それでいて基本的な物語の骨子は、シンプルなガールミーツガールなのである。この点が本作を良作足らしめているの根っこの部分なのではないかとわたしは考える。

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