ネコショカ

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『時砂の王』小川一水、初の時間SF


時間モノの醍醐味を堪能できる一作

2007年刊行。本作『時砂(ときすな)の王』は文庫書き下ろし作品だった。

どうしてJコレクション枠で出なかったのが謎である。小川一水はハヤカワからは既に『第六大陸 』『復活の地』を上梓しており、ブレイクモードに入っていた。この時期の小川一水なら、単行本から売り始めても十分結果が出せたと思うのだけど。

時砂の王

あらすじ

2598年。人類は正体不明の機械生命体の来襲より存亡の淵にまで追い詰められていた。地球本星は壊滅。海王星の衛星トリトンにまで後退した人類は、最後の切り札として時間を遡って全ての過去を書き換える奇策に打って出る。メッセンジャーと呼ばれる強化人間たちは地球の様々な時代で過酷な戦いを挑んでいく。そして決戦の地は、紀元248年の邪馬台国となるのだが……。

過去を変えることで人類を救う

現在の絶望的な危機を回避するために過去を変える。それじゃ、歴史が変わっちゃうじゃん。というツッコミのために、この話では時間枝の概念が持ち込まれている。過去が変わった時点で時間の枝には新たな分岐が起きる。もともとの時間枝に暗い未来しかなかったとしても過去のどこかの時点の人類が勝利した世界が存在すれば、そこで枝分かれした未来では人類は救われる。それで良しとする考え方である。

時間遡行者たちの孤独な戦い

敵となる謎の機械生命体にも時間跳躍能力は備わっており、彼らは時間を遡っては凄絶な死闘を繰り広げる。しかしながら突然現れた人間に「僕たちは未来からやってきました。このままでは人類は滅びてしまいます。さあ、僕らと一緒にエイリアンと戦いましょう!」なんて言われて、その時代の政府首脳たちが素直にハイと言えるわけもなく。その時代の人々の協力を上手く得ることが出来ずに、メッセンジャーたちはひたすら負け続ける。負けた場合は更に時間を遡ってリベンジとなる。というわけで、この戦いの決着は簡単にはつかない。

昔の小川一水だったらこの設定だけで三冊は書いていたと思うのだけど、今回はやけにあっさりしている。正直勿体ないと思うなあ。連合軍と枢軸軍が呉越同舟でエイリアンと戦う第二次大戦編なんて、本気で書いたら相当面白くなったと思うだけにかなり残念だ。この設定は『導きの星』のような、複数巻の大長編で読んでみたかったよ。

最後の勝負は邪馬台国!

そして負け続けたメッセンジャー側が、乾坤一擲の大勝負に出るのが卑弥呼時代の日本なのである。燃える設定を用意することにかけては小川一水、今回も実に冴えている。しかも本作のヒロインは日本史上最古の女性有名人卑弥呼なのだ。

この話、ちょっとさすがに短すぎて少々説得力に欠ける面が無くも無いのだが、「だって卑弥呼だし」で全てが許されてしまう。卑弥呼ならそれくらいするでしょ。と、読み手がついつい納得させられてしまう。実在した人物のキャラクター力をブースターにした幕の引き方はずるいなとも思ってしまうけど、卑弥呼の可憐さが半端無く素敵なのでアリってことで。ラストはバレバレなんだが、それでも燃えた。時間モノの醍醐味はこれだよな。

時砂の王

時砂の王