方向模索中の本読みBlog

書評Blogの予定だけど、現在方向性模索中。基本ネタバレありなので注意してね。

高野史緒「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」

今週のお題「リラックス」ということで、ひと息つけるタイトルを上げてみる。さくっと読めて、いい感じの読後感。

高野史緒の最新作はAmazon Publishingから

グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行 (Kindle Single)

グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行 (Kindle Single)

 

高野史緒(たかのふみお)は1966年生まれ。『ムジカ・マキーナ』が第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。1995年刊。2012年「カラマーゾフの妹」では第58回江戸川乱歩賞受賞している。『ムジカ・マキーナ』以来のファンだけど、作家としてのキャリア、もう二十年越えてるんだね。なんだか感慨深い。

本作は2018年刊行。Amazon Publishingから出ているので、現時点では電子書籍のみで出されている作品かと思われる。これからはプロの作家でもこういうのが増えていくのかな。Amazon記載によると、紙の本換算で50ページとのこと。短編というには少しボリュームがあるので、中編という立ち位置か。

あらすじ 

1929年8月茨城県土浦、霞ヶ浦海軍航空隊基地に世界最大クラスの飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」が寄港した。90年後、母の生地である土浦を訪れていた高校生の夏紀には、幼いころに見た飛行船の記憶がある。それは本当の記憶なのか、それとも故人の残留思念なのか。量子コンピュータに接続された拡張現実装置を身に付けた夏紀が垣間見る、時空を超えた人々の記憶とは……。

時間も空間もずらしてくる、重ねてくる魅力

高野史緒作品は『ムジカ・マキーナ』とか『カント・アンジェリコ』なんかでもそうだけど、歴史的な世界観の中での物語と思わせておいて、読み進めていくと「なんだか違う」。細かな違和感が積み重なって、やがて決定的な違いが明らかになり、ああ、このお話はいまある世界とは異なる歴史を辿っている、仮想歴史の世界なんだなと腑に落ちる。歴史改変小説ならではの微妙なズレやブレ、滲み出るパラレル感がこの作家の持ち味というか、得意技なのだと思う。

拡張現実(AR)がつなげる時間と空間

本作では主人公が「史実とは異なる記憶を有している」というところが切り口となっていて、量子コンピュータというエスエフ的なガジェットを使いながら、その世界認識のずれを情感豊かに拡散して展開していく構成となっている。

飛行船って空を飛んでいると小さく見えるから、あまり実感できないけど、実はかなりでかい。特に戦前のツェペリン号は全長200メートルを優に超える。超特大サイズと言っていい。遠いところから飛来する、未知の巨大ななにかを迎える体験は、当時の日本人に鮮烈な印象を残したであろうことは容易に想像がつく。

かつて生きていた人々が抱いた興奮と感動、そして懐かしい記憶を共有する喜び。呼び起こされる当時の街並みの姿が美しい。拡張現実がつなげる時間と空間、一瞬の光芒と、つながる記憶。広がる多層世界の可能性を垣間見せてくれた、なかなかの良作かと。暖かな気持ちで、心地よく読了。SFだし、これくらいの長さの作品もいいかもね。

さて、この作品、いかにも続きがありそうなお話だけど、続きは出るのかな?