高野史緒の三作目
1997年作品。著者の高野史緒(たかのふみお)は1966年生まれ。1995年に刊行された『ムジカ・マキーナ』が第6回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞し小説家としてデビュー。翌1996年に第二作である『カント・アンジェリコ』を上梓。
そして三作目となるのが本作『架空の王国』である。
前二作は新潮社から出ていたが、本作は中央公論社(新社)からの刊行。その後の1998年『ヴァスラフ』、2000年~2001年にかけて登場した「ウィーン薔薇の騎士物語」シリーズまでは、いずれも同社からのリリースであった。
『架空の王国』は文庫化されず、長らく入手が難しい状態が続いていたが、2006年にブッキング版が刊行され、2013年には電子版も登場。いつでも手軽に読めるようになっている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
歴史、特に西洋史が好きな方、かつて空想上の自分だけの王国を脳裏に思い描いていたことのある方、とにかくヒロインがモテるお話が好きな方におススメ。
あらすじ
ヨーロッパの小国ボーヴァル。首都の王立サンルイ大学を受験するためこの国を訪れた瑠花だったが、担当教授のトゥーリエが謎の死を遂げる。その死をきっかけとして、瑠花は次期王太子ルメイエールの聖別を巡る陰謀に巻き込まれていく。ボーヴァルに隠された恐るべき秘密とは何なのか。瑠花に託された<ゼッカーソン文書二十八番>がその鍵を握る。
ココからネタバレ
史学への愛に満ちた作品
仮想西欧史+音楽への溢れんばかりの愛が前二作のコンセプトだっとすると、今回本作で注ぎ込まれているのは史学への愛。さすがは西洋史専攻。
虚実取り混ぜながら、まるで見てきたかのような嘘が巧みに描かれていく。舞台となるボーヴァルはフランス、ドイツ、スイスに囲まれた小国。『ムジカ・マキーナ』に登場したサンクレールのパイプオルガンは、この国の首都サンルイのステラ・マリス大聖堂にある。さりげない絡め方だが、続けて読んできた読者にはちょっぴり嬉しい仕様となっている。
主人公の女の子が年齢の割には頭良すぎたり、出てくる男性キャラが片っ端からこの子に好意的だったり、そもそもなんで日本人でなきゃならないのかと、突っ込み所は豊富にありながらも、緻密に設定されたボーヴァル王国の書き込まれぶりが素晴らしい。華麗なる架空の王国を現出せしめた筆力は評価すべきだろう。
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