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『白い病』カレル・チャペック コロナ禍の今だから読みたい疫病下の世界


疫病が蔓延する世界を描いた戯曲

『白い病(Bílá nemoc)』は、チェコスロバキア(当時)の作家カレル・チャペック(Karel Čapek)が1937年に発表した戯曲である。

岩波文庫版には2020年9月とごく最近の登場である。内容的にコロナ禍の昨今、世に送り出すには適切であると判断されたのかもしれない。

白い病 (岩波文庫)

作者のカレル・チャペックは、現在のチェコ出身の作家で、この国を代表する国民的な人物である。1920年発表の戯曲『ロボット』は、現在広く使われている「ロボット」という言葉の元になったとされる。

ロボット (岩波文庫)

ロボット (岩波文庫)

 

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

パンデミック(感染症)関連の創作作品を読んでみたい方、カレル・チャペックの戯曲に興味のある方、コロナ禍の現在、教訓となるような物語を読んでみたい方、極限状態の人間がどのようになるのか知りたい方におススメ!

あらすじ

とある国を襲った深刻な感染症。それは<白い病>と呼ばれ、45歳~50歳以上の人間のみが発病する。皮膚に大理石のような白い斑点が広がり、最終的には全身が敗血症となり死に至らしめる。貧しい町医者ガレーンは、この疫病の特効薬を発明したと主張する。しかし彼は、その使用に対して思わぬ条件を突きつける。戦争の足音が近づく世界で、人々はどのような決断を下したのか。

ココからネタバレ

第二次大戦直前に書かれた作品

 独裁者。濃厚な戦争の気配。戦意旺盛な国民たち。1937年に上梓された本作は、ナチスドイツが躍進する、暗い時代の雰囲気を強く反映している。カレル・チャペックの住むチェコスロヴァキアは、1939年にはドイツによって解体され国家として消滅してしまう。

カレル・チャペックはナチスとヒトラーを厳しく批判し続けた作家として知られる。幸いというべきかは何とも言えないところだが、彼は1938年に亡くなっており、ナチスによって処断されることはなかった(但し、兄のヨゼフ・チャペックは殺害されている)。

この物語は三幕に別れている。それぞれの幕では、医師であり枢密顧問官を務める「ジーゲリウス教授」、武器商人である「クリューク男爵」、独裁者として登場する「元帥」が主要な役割を果たす。

死の病を前にしてどう生きるか

罹患したらほぼ確実に死んでしまう<死の病>を前にして、三人の権力者たちはそれぞれの判断を下す。

世俗の栄達にこだわる「ジーゲリウス教授」。死に怯えながらも名誉と体面を重んじる「クリューク男爵」。戦争への道を突き進みながら、死の恐怖に屈する「元帥」。回避しえない死に直面した際に、人間の本質的な部分が見えてくるのである。

民衆への不信感

町医者ガレーンは、特効薬の提供と引き換えに不戦の誓い、戦争の停止を要求する。戦争を開始した「元帥」も、最終的には自らが死から免れるためにその要望を受け入れる。

ここで、カレル・チャペックは何とも皮肉な結末を用意している。「元帥」の命を救おうとしたガレーンは、「元帥」を支持する民衆たちによって虐殺されてしまうのである。ガレーンの死により特効薬は永久に失われ、国家は指導者である元帥を失い、戦争の行方は暗澹としている。希望の光は民衆自身の手で粉砕される。

第二次大戦下では、枢軸国の独裁者たちを民衆は熱狂的に支持した。しかし、その報いが、いずれ彼ら自身にも訪れたことを考えると実に暗示的なラストである。

わずかな救いとして、理性的な判断が下せる、元帥の娘と、男爵の息子が知識人の側として描かれているのとは対照的である。知識人カレル・チャペックとしての、民衆への強い不信の念を感じずにはいられない結末なのである。

コロナ禍の今、世に出た理由は?

本作に登場するは<白い病>は中国(ペイピン=北京)で初めて発見された伝染病であるとされ、強い感染力を持つが若者は感染しない。現在、世界に蔓延している新型コロナウイルスを想起せざるをえない特徴を有している。

新型コロナウイルスは極めて厄介な病気である。重篤な症状が出る事例は高齢者ほど多くなる。感染拡大が進む世界において、世代間の分断を加速してしまうのである。感染被害を軽視する勢力も依然として多く、今後も予断を許さない状況が継続するであろう。それだけに、『白い病』がこの時代に、改めて世に出されたことには意義があるのではないかと思われる。

本作と同じように、ガレーンを殺してしまうような時代にならないことを、読み手は強く念頭に置いておく必要があるだろう。

白い病 (岩波文庫)

白い病 (岩波文庫)

 

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