「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの一作目
2018年刊行作品。第55回メフィスト賞受賞作品。「閻魔堂沙羅の推理奇譚(えんまどうさらのすいりきたん)」は木元哉多(きもとかなた)のデビュー作である。イラストは望月けいが担当している。
一昔前であれば、メフィスト賞受賞作と言えば講談社ノベルスからの登場が多かったが(これはという作品はハードカバーで出ていたけど)、昨今はソフトカバー版で刊行されたり、本作のように講談社のライト文芸レーベルである、講談社タイガから刊行されたりと、作品の内容に合わせて展開方法が変えられているようだ。
- 「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの一作目
- 「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズは既刊6冊
- おススメ度、こんな方におススメ!
- あらすじ
- 「死者復活・謎解き推理ゲーム」システムの大勝利
- 実はやさしい沙羅ちゃん
- 今秋NHKにてドラマ化!
「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズは既刊6冊
『閻魔堂沙羅の推理奇譚』は好評のためかシリーズ化され、現時点(2020年7月)までに計6冊が刊行されている。2018年にはなんと4冊もの新刊を出している!多少はデビュー前の書き溜め分があったのかとは思われるがすさまじい執筆ペースである。この業界、やはり筆が早いのは正義だねえ。
ラインナップは以下の六冊。
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚(2018年3月)
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室(2018年5月)
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット(2018年8月)
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚 点と線の推理ゲーム(2018年12月)
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎(2019年4月)
- 閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し(2019年10月)
最新第七巻も、まもなく感想を上げていく予定なのでしばしお待ちを。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
気軽に読めるライトなミステリ作品を楽しみたい方、自分でも推理してみたい!と思う方、ドラマ版が始まる前に原作も抑えておきたい方におススメ。
あらすじ
夜の学校で絞殺された女子高生。会社の冷凍庫で凍死した冴えないサラリーマン。失踪した息子の行方を気にかけながら老衰死した女。ヤクザに撲殺された暴走族の元総長。現世に未練を残して死んだ彼らに、閻魔大王の娘、沙羅が提案したのは「死者復活・謎解き推理ゲーム」。謎を解けば生き返ることが出来る!霊界で繰り広げられる生と死を賭けたゲームの行く末は……。
ココからネタバレ
「死者復活・謎解き推理ゲーム」システムの大勝利
閻魔沙羅は(p297で君嶋世志輝に上の名前はと聞かれて「閻魔」と答えているので、フルネームは「閻魔堂沙羅」ではなく「閻魔沙羅」ではないかと思われる)、閻魔大王の娘である。
霊界では世界大戦以降の死者の増加を受け、人手不足のために閻魔大王の血族にも業務が割り振られるようになっている。現世から送られてくる死者たちに対して、天国行か、地獄行きかを裁定するのが沙羅の役目である。
しかし死者たちの中には天寿を全う出来た者ばかりではなく、時として殺人事件の被害者も含まれている。そんな彼らに対して、沙羅が持ちかけるのが「死者復活・謎解き推理ゲーム」である。「自分を殺した犯人を当てられたら」死者復活!なんと生き返ることが出来るのだ。但し当てられなければ問答無用で地獄送りという怖ろしいシステムである。
本シリーズでは、閻魔沙羅を現世で起こる事件に関与させず、霊界の裁定者としての役割に留めている。結果として本編は自由に物語を作ることが出来、いくらでもお話が増やせる構造となっている。
また、謎を解く手がかりは、被害者が死ぬ前にすべて提示されており、読者も被害者と同じ目線で推理することが出来るのだ。このシステムは上手いなあ。大発見だと思う。
では、以下各編ごとにカンタンにコメントしていこう。
緒方智子 17歳 女子高生 死因・絞殺
勉強も部活も恋愛も中途半端な女子高生緒方智子(おがたともこ)が被害者。
容疑者の皆さんは以下の通り。
- 相沢未唯南(あいざわみいな) :智子の友人
- 茂木直人(もぎなおと):未唯南の彼氏
- 立原令一(たちはられいいち):智子の彼氏
- 染谷(そめや):令一の友人
- 馬場克彦(ばばかつひこ):担任教師、ソフト部顧問
- 棚沢(たなざわ):理科教師、智子死亡時の宿直
登場人物も少なく、ページ数も少ないので用意されている手がかりの違和感には気づきやすいかも。
浜本尚太 27歳 会社員 死因・凍死
何事も誠実で一生懸命だけど、凡ミスが多くて怒られてばかり。鶏肉専門会社「鶏心(とりしん)」に勤める、冴えないサラリーマン浜本尚太(はまもとしょうた)が被害者である。
容疑者の皆さんは以下の通り。
- 鹿子木富次雄(かのこぎふじお):浜本の上司、営業所所長
- 岩田優斗(いわたゆうと):浜本の後輩。
- 天野京香(あまのきょうか):浜本の同期。「ミス鶏心」の高嶺の花。
- 千原和馬(ちはらかずま):浜本の同期。エリアマネージャ。出世頭。
どう考えても千原が怪しすぎるので、逆にミスリードなのではと疑ってしまいそうになるが、ここは素直に考えてオッケー。「フリクション」みたいな特徴的なアイテムが出てきたときには要注意。
門井聡子 82歳 無職 死因・老衰
高円寺の老舗呉服店「門井」に嫁いで60余年の老婆、門井聡子(かどいさとこ)が主人公。シリーズ三編目でいきなりの変化球。聡子は老衰死であり、殺人事件の被害者ではない。ただ聡子には生き別れた息子がおり、その消息が彼女の心残りになっているという設定である。
登場するキャラクターは以下の通り。
- 門井誠司(かどいせいじ):聡子の息子。演劇の道に進み行方不明。芸名、扉順平。
- 小山重太郎(こやまじゅうたろう):聡子の夫の妹の孫。高校時代は聡子の家にホームステイ。
- 門井亮(かどいりょう):誠司失踪後に迎えられた養子。
- 門井秋穂(かどいあきほ):亮の妻。
- 青山清澄(あおやまきよと):聡子をオレオレ詐欺から救った若者。
このエピソードに限っては、犯人を当てるのではなく、失踪した誠司がどうなったかを当てる設定になっている。時々ゲームの趣向を変えてくるのは、読み手を飽きさせない工夫として良いのではないかと。
君嶋世志輝 20歳 フリーター 死因・撲殺
悪名高き暴走族練馬紅蓮隊の元総長、君嶋世志輝(きみしまよしき)が被害者。ここでヤンキーマンガの主人公かよ!という濃いキャラクターが登場する。各編の主人公のキャラがイイ感じに立っているのがこの作品の良いところだよね。
容疑者リストは以下の通り。
- 君嶋光輝(きみしまこうき):世志輝の兄。フリージャーナリスト。
- 西里由宇(にしざとゆう):隣人。世志輝の幼馴染。外語大の女子大生。
- 井熊千郷(いくまちさと):西里由宇の親友。
- 村瀬蓮二(むらせれんじ):練馬紅蓮隊の元副総長。ITリテラシーが高い。
っていうか、この中に犯人いないけど(笑)。ヤクザに寄ってたかって撲殺されているので、ネタ的にはバレバレなお話。
実はやさしい沙羅ちゃん
今回登場した緒方智子、浜本尚太、門井聡子、君嶋世志輝の四人はいずれも沙羅とのゲームに勝利し現世への復活を果たす(聡子はもう寿命だけど)。復活に際して、沙羅は本人が気づかずにいた自身の欠点や、見過ごしていた点、反省すべきポイントを指摘してくれる。
生き返った際には沙羅とのやりとりの記憶は消去される仕組みなのだが、潜在意識化には残っているみたい。臨死体験を経ることで、各人の人生が復活後はより豊かなものに変わっていくのである。
どのエピソードも読後感が爽やかで、後味が悪くないのもシリーズとして長く続いている理由の一つではないかと思われる。
今秋NHKにてドラマ化!
『閻魔堂沙羅の推理奇譚』は今秋、NHKでのドラマ化が決まっている。沙羅役は中条あやみとのこと。全八回。どのエピソードが使われるのかが楽しみ。
まずは、残りの五冊を早く読んでしまわないと!