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『青の数学』王城夕紀 その数式(まほう)が君の青春を変える


王城夕紀の三作目

2016年刊行作品。『天盆』『マレ・サカチのたったひとつの贈物』に続く、王城夕紀(おうじょうゆうき)の第三作である。王城夕紀はこれまで中央公論新社からの作品刊行が続いていたが、本作では新潮社の新潮文庫nexレーベルからの上梓となった。表紙イラストはとろっちが担当している。

「本の雑誌」による『おすすめ文庫王国2017』にて、オリジナル文庫大賞を受賞している。

青の数学 (新潮文庫nex)

続篇として『青の数学2 ユークリッド・エクスプローラー』が刊行されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

数学や、数の世界が好きな方。数学に憧れるけど、さっぱりわからない。でもなんだか憧れる!という方。特殊なジャンルを扱った、熱いバトルモノを読みたい方。個性豊かなキャラクターたちが織りなす群像劇を愉しみたい方におススメ!

あらすじ

数学オリンピックの覇者、京香凛との出会いが栢山の人生を変えた。彼女は問う「数学って何?」。栢山の前に次々と現れる若き天才たち。数学マニアたちが集うウェブサイト「E2」での決闘に明け暮れる日々。国内屈指のエリート校偕成高校の数学研究会「オイラー倶楽部」メンバーとの戦い。更なる高みを目指す栢山の成長を描く青春小説。

ココからネタバレ

数学が好きだ!

理科系科目が絶望的にダメで、高校一年生の時点で理系を諦めた私立文系人間のわたしだが、声を大にして言いたい「数学が好きだ!」。高校時代の担任が数学の教師で、数学の問題はエレガントに楽しく解けることを教えてくれた。しかし、残念ながらわたしには数学の素養が無く、大学受験レベルの数学すら理解が及ばなかったが、数学が出来る人間は今でも無条件に尊敬してしまうのである。

何だかわからない数学の難問をスラスラと解けてしまう人間は、一般人から見れば魔法使いに等しい。ある一定レベルから先の数学は、選ばれたものたちの世界なのである。どんなに情熱があって、解きたいと思っても、一般人が立ち入ることを許されない領域がある。

本作は、いわば「魔法」とも言える領域に足を踏み入れることを許された人間たちの物語である。

少年少女たちの成長物語

数学と言う特殊なジャンルを舞台としながらも、一方で、本作は普遍的な成長物語の側面を強く持っている。『青の数学』では、未熟な若者が、数々の戦いや挫折、学びを通じて成長する姿を描いていくのだ。

物語の序盤、主人公の栢山(かやま)は数学は好きだが、基本的な問題の解法すら知らない人間として登場する。そんな栢山が、同年代最強の数学オリンピック覇者、京香凛(かなどめかりん)と出会ったことから変貌を遂げていく。情熱の赴くままに問題を解き、ネット上の数学バトルの場「E2(実際にはEの二乗)」で決闘を繰り返す。

続々と登場する数学オタクたちとの戦いが楽しい。勝利至上主義者の庭瀬(にわせ)。早く解くことを至上とする新開(しんかい)。数学を戦いの場にすることを厭う五十鈴(いすず)。エレガントに美しく解きたい三枝(さえぐさ)。そして偕成高校数学研究会「オイラー倶楽部」を統べる皇大河(すめらぎたいが)と、個性的なキャラクターが次から次へと登場し飽きることが無いのである。

バトルシーンの表現が巧い

王城夕紀は、対決シーンの描写が巧い作家である。デビュー作では将棋風の架空の盤上遊戯「天盆」を取り扱い、迫真の戦いを表現してのけた。

今回は「天盆」よりも、更に抽象度が高い「数学」がテーマである。絵面は地味にならざるを得ないし、具体的な解法を示したところで一般人には理解できない。このきびしいな条件設定の中で、それぞれの対決場面をしっかり描き分け、キャラクター個々の特性を見せていくのは難しいことだが、王城夕紀はそれをあっさり成功させている。この筆力は凄い。

ちっともわからないのに面白い

作中に登場する問題をいくつかご紹介しよう。

A、B、Cの3人は同じ一連の試験を受けた。各試験では、x点がひとつ、y点がひとつ、z点がひとつあった。ここで、x、y、zは異なる正の整数である。すべての試験の後、総得点はAが20点、Bが10点、Cが9点だった。もしBが代数で一番であったなら、誰が幾何で2番だったか。

『青の数学』p250より

x2±(x+y+z),y2±(x+y+z),z2±(x+y+z)がどれも有理数の平方であるような正の有理数x,y,zを一組求めよ。

『青の数学』p254より ※2は(累乗を表す)

解法以前に、何を問われているかすらわからない(笑)。しかし、これらの出題が作中に組み込まれ、登場人物がさまざまなアプローチから解法にたどり着く過程は、読んでみると実に面白いのである。魅力的な謎の提示と、その鮮やかな解決という意味では、数学はミステリ的な要素を多分に含んでもいるのだろう。

たとえ届かないとしても

人間の能力には向き不向きがあるし、努力である程度解消できるにしても、それでも才能の壁は厳然として存在する。どんなに好きで、どんなに頑張っても届かない世界は確実に存在するのである。

この物語で特に気になったのは七加(ななか)の存在だ。軽音楽から絵画、バトントワリングまで器用にこなし、多芸でどんなジャンルでもそこそこ上達してしまう七加だったが、本当に好きな数学の世界では一般人の壁すら越えられない。E2に参加しても跳ね返される。凄い人間がどうして凄いのかすらわからないことは、当該ジャンルを愛する人間にはとても辛いことなのだろう。

「好きっていうのは本人にはままならないものなんです」

七加のこの台詞は多くの読み手に、自分の中にある壁の存在を思い知らせた筈である。如何ともしがたい壁にぶつかった時に、そこで立ち止まるのか。そこで止めてしまうのか。これはあらゆる分野で、どんな人間にも起こりうる問題であろう。

数学の超人ばかりが登場する本作にあって、七加という一般人代表のキャラクターを設定したのは、作者のバランス感覚の現れなのではないかと思われる。

 

青の数学 (新潮文庫nex)

青の数学 (新潮文庫nex)

 

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