「ヴェロシティ」の最終巻!
2006年刊行作品。名作『マルドゥック・スクランブル』の前日譚だ。『マルドゥック・ヴェロシティ1』『マルドゥック・ヴェロシティ2』に続く、三冊毎週刊行(当時)の中の最終巻である。
新装文庫版は2012年に登場。現在読むことが出来るのはこちらの版である。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
能力バトル、異能バトル系のお話が好きな方。集団VS集団の壮絶な戦いを堪能したい方。既に『マルドゥック・スクランブル』を読んでいて、ボイルドやウフコックの過去を知りたい方。冲方丁のものすごい悪文(体言止めが乱発されている)を愉しみたい方におススメ。
あらすじ
クリストファーは誘拐され、ナタリアは姿を消した。遂に全面対決の時を迎えた「09」と「カトル・カール」。全ては周到に仕組まれた罠なのか。巨大な陥穽に落ち込んでしまったボイルドたちは次第に追いつめられていく。次々に命を落としていく「09」のメンバーたち。残されたボイルドが選択した驚愕すべき決断とは。ウフコックとの訣別の時が近づいていた。
ココからネタバレ
集団バトルが燃える
さあ、遂にラストである。のっけから「09」VS「カトル・カール」の壮絶な集団バトルが燃える。読み手のテンションを否応なく高めておいて、もの凄い勢いで人員整理。崩壊していく「09」。ああ、この情け容赦の無い皆殺し劇はさすが冲方丁。予想されていた結末とはいえ寂しい。いくらでも読者の涙を搾り取れそうなシーンでも、この作家はクールな描写に徹する。これはあくまでもクールでタフな男ボイルドの物語なのだから、もったいないけど、らしいと言えばらしい展開。それでもオセロットの最期には泣けたけどね。
「スクランブル」から逆算した感じ
ラストは「スクランブル」を読んでいないと意味不明かもしれない。これ単体で読ませることを考えると余計だった。「スクランブル」の後から書いた前日譚なので、どうしても後付け感が漂ってしまうのが惜しい。ボイルドってこんなキャラだったっけ?あの人物が生きている以上、ボイルドが安易に死を望むとはちょっと考えがたいんだけど。
絢爛たる異形のものたちの戦いがあまりに楽しすぎるので、ついつい忘れがちになるけど、本筋としてのミステリ部分の構成も非常に良く練られていた。流行りのSF的なガジェットの取り込み方もバランスが取れていて良かったと思う。賛否両論あると思うけど、ありえないくらいの体言止めの超絶多用文体も、途中から気にならなくなったし(笑)。もう少し普通の文体で書いても良かったと思うけどね。
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