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サラ・ウォーターズ『荊の城』は読み始めたら止まらない徹夜必至本

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『半身』に続く二年連続「このミス」海外部門第一位の作品

2004年刊行。オリジナルの英国版は2002年刊行で原題は「Fingersmith」。「このミス2005」海外部門第一位の作品である。

作者のサラ・ウォーターズ(Sarah Waters)は1966年生まれのイギリス人作家。

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

サラ・ウォーターズは「このミス2004」では『半身』で一位を取っているのでなんと二年連続一位の大偉業となる。ちなみにイギリス本国では、英国推理作家協会賞の歴史ミステリ部門、エリス・ピーターズ・ヒストリカル・ダガー賞を受賞している。

『半身』の感想はこちらからどうぞ。

www.nununi.site

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)

イギリス、特にヴィクトリア朝時代を舞台とした小説作品を読んでみたい方。とにかく面白いエンターテイメント小説を読んでみたい方。最後まで先の読めないスリリングな展開を堪能したい方。サラ・ウォーターズはどの作品から読めばいいの?と悩んでいる方におススメ!

あらすじ

19世紀のロンドン。泥棒一味の中で育てられた女掏摸スゥは詐欺師「紳士」の片棒を担ぎ、田舎貴族の娘モードを誘惑し全財産を巻き上げる計画に加わることになる。侍女として首尾良くブライア城へ潜り込むことに成功したスゥだったが、根っからの悪に染まりきれない彼女は次第にモードへの同情の念を深めていく。「紳士」の計画は?そしてスゥ、モードの運命は?

ココからネタバレ

ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台とした物語

面白すぎる。850頁を一気読みさせる筆力に愕然とした。『半身』同様に、今回もヴィクトリア朝時代のイギリスが舞台となっている。『半身』でなかなか作品の世界に入り込めず読了までにかなり時間がかかってしまったのとは対照的に、こちらはスイスイ読めた。主人公のキャラクターの違いだろうか。

暗黒街で育ったスリの少女スゥ

ヒロインのスゥは17歳の少女。絞首刑で処刑された殺人犯の母親を持つ。その後は「かあちゃん」と慕うサクスビー婦人によって育てられ、盗品売買を裏家業とするイッブズ親方、粗暴な犬殺し家業のジョン、ちょっと「足りない」けど気はよい女掏摸のディンティらと共に暮らしている。サクスビー婦人は暗黒街の住人でありながら、スゥにだけは優しく、おかげでスゥは悪党になりきれないまま現在に至っている。

陽のあたる世界の住人令嬢モード

そして本作にはヒロインがもう一人存在する。スゥが暗黒街のヒロインであるならば、ブライア城の令嬢モードはさしずめ陽の当たる世界のヒロインというところか。モードには両親は亡く、伯父が一人。両親が残した莫大な財産の相続権を持っているが、その権利は結婚するまで有効にならないという設定である。

スゥのヒロイン像が魅力的

物語はスゥとモードの二人を軸にして展開していく。全体は三部構成になっていて、まず第一部はスゥの一人称視点で進められていく。直情径行型の彼女の、下町言葉での元気のいい語り口が物語に活気を与えていて、これが楽しいこと楽しいこと。慣れない上流階級の暮らしの中でドギマギしながら役割を果たそうとする姿、次第に騙される側のモードに肩入れしてしまい煩悶する姿がとにかくカワイイのだ。

序盤からものすごい超展開

詐欺師「紳士」の計画はいよいよ実行段階に入るのだが、この時点でまだ全体の1/3。ここでいきなりものすごい大どんでん返し。序盤からこれほどの大技を繰り出すか。この作品にはいろいろなサプライズが仕掛けられているのだけど、インパクトはこのシーンが最大だった。よく読み返してみると伏線はたくさん貼ってあるのに、まったく気づけなかったよ。

令嬢モードに隠された秘密

そして第二部。今度はモードからの視点に切り替わる。何の不自由もなく育った令嬢に見えたモードだったが、それがまるで違っていたことが判明する。財産は自由に出来ず、変態きわまりない伯父の、マニアック趣味(これホントにスゴイよ!)の手伝いをさせられる日々。

抑圧された毎日を過ごしていたモードの乾坤一擲の大勝負とは何だったのか。いわば、第一部の謎解き編ともいうべき内容となっている。第一部で一度描写された場面の裏側を、再度読み直していく構成なので、この部分はやや冗長というか、くどく感じてしまうのがちょっと惜しい。もう少し端折ってしまってもよかったと思う。

読み始めたら止まらない第三部

最終章となる第三部では再びスゥ視点のお話になる。絶体絶命の窮地に陥れられたスゥがいかにしてピンチから逃れていくのか。元気のいい語り口が戻ってきたこともあって、ここからテンポも良くなり、ラストまではまさにノンストップ。この作品を読むときは絶対に十分な読書時間が確保出来る時に読むべきだと思ったね。スゥの出生にまつわる秘密。全ての仕掛けを操っていた黒幕の存在。逆転する光と影。息をもつかせぬ怒濤の終盤の見事さには、ただひれ伏すしかない。

大ラス。嵐のような喧噪が去り、残されたスゥは再びモードに会う決意を固める。静寂に包まれたブライア城で再会する二人。えー、ここから先はなにせサラ・ウォーターズなので、百合系の展開がNGな人はダメかもしれない。けど、自分的には全然オッケー。こういう話の畳み方をするとは思わなかった。思わぬ形で芸が身を助ける形になってしまったモードには笑ったけど、いちおう大団円と呼んでいいのかな。

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

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荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

 

BBCのテレビドラマ版もおススメ

本作の映像化としては、まず本家イギリスBBCが作成したテレビドラマ版が存在する。映像でこの時代の雰囲気を味わえる楽しさは格別で、小説版にハマった方には確実にお勧めしたい。3時間を超える長編大作だが、ダレることなく最後まで行ける筈である。

荊の城 [DVD]

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韓国版が存在していた!

恥ずかしながら、本エントリを書くのに調べて初めて知った。2016年に韓国で劇場版が製作されている。タイトルは『お嬢さん』。こちらは、物語の舞台を日本統治下の朝鮮半島に置き換えるというアクロバティックな換骨奪胎がなされていて、かなりアレンジが入っている模様。 

2016年のカンヌ国際映画祭で、コンペティション部門に出品されている程なので、それなりに評価もされているようだ。今後機会を見つけてチェックしてみる予定である。

お嬢さん <スペシャル・エクステンデッド版&劇場公開版>2枚組 [Blu-ray]

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ヴィクトリア朝時代が舞台のおススメ作品まだまだあります!