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『後宮の烏2』白川紺子 深まる謎と寿雪の決意

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※2022/05/06追記 最終巻『後宮の烏7』の感想を書きました。

『後宮の烏』シリーズの第二弾

2018年刊行作品。同年に刊行され、好評を博した『後宮の烏』の続編である。一年も経たないうちに第二巻を出してくるとはさすがはライトノベル系作家。筆が早い。

後宮の烏 2 (集英社オレンジ文庫)

あらすじ

後宮にありながら決して伽をすることのない奇妙な存在、烏妃(うひ)。前王朝の末裔として生まれ、烏妃の役割を継承した少女寿雪。彼女は誰とも交わることなく孤独に暮らしていたが、皇帝夏高峻との出会いから運命が変転していく。その身体の裡に秘められた烏妃の秘密とは?突如現れた、謎めいた術を使う男、宵月の正体は?

深まる烏妃の謎

皆殺しにされた前王朝唯一の生き残りとして、生来の銀髪を黒く染め出自を隠し、いつ秘密がバレて殺されるのかと怯えながら、孤独の中で暮らしていたヒロインが、前巻では帝の信頼を得て、初めて心安らかに生きていけるようになる。

これで、いい感じに物語が終わっているかに見えたのだけど、幸いにして人気が出たようで、めでたく続巻が登場した。本作では、前巻では描かれなかった、烏妃の存在理由、その裡に秘められた真の姿に迫っていく。

以下、各編ごとに簡単にコメント

本作は、四編の物語を収録している。各編は独立した物語だが、通して読むと、烏妃の秘密が次第に明らかになってくる連作短編形式を取っている。

では、今回も、各エピソードごとにコメントしてみよう。

青燕

主に喜んでもらいたい一心で、後宮では御法度の殺生の禁を冒してしまい、斬首に処せられた子供の宦官のお話(中華系ファンタジーは刑罰も厳しい)。寿雪チームに新キャラ衣斯哈(イシハ)登場の巻。この作品、男性キャラのほとんどが宦官なのもエグイ。さすがは中華ファンタジー。

処置するとか、宦官を作るとか書いているけど、具体的なところには言及しないのはせめてもの配慮なのだろうか。本エピソードでは、温螢の出自も明らかになる。皇帝の命令で寿雪の護衛に入ってる形だけど、彼もすっかりチーム黒烏宮に入ってる感がある。

この巻での最大の重要人物宵月がさりげなく登場。また、具体的かつ物理的?な烏妃のデメリットが判明する。新月の夜になると、烏漣娘娘は暴走し、宿主である寿雪に激しい苦痛をもたらす。烏漣娘娘は、実体を持たない概念的な存在(信仰の対象みたいな)なのかと思っていたが、実害をもたらすことのできる、超自然的な力を持ったなにものかであるようだ。

水の聲

見下していた分家筋の娘が後宮に入ることになり、子供を産めず婚家から出された女が、複雑な気持ちで侍女として仕える。やがて娘は失意のうちに死を選ぶが、死後、娘の声が水底から聞こえるようになる。悔恨と恐怖。しかしそれは、女の罪悪感が生み出した幻聴であったというお話。

メインストーリーと並行して、冬官を統べる薛魚泳と、先代烏妃麗娘との関係性が明らかになる。麗娘の幼馴染であり、少なからず恋愛感情もあったのではないかと思われる薛魚泳。麗娘は生涯を孤独な烏妃として生き、他者と交わることなく死んでいった。しかし当代の烏妃たる寿雪の周囲が次第に賑やかになっていき、皇帝の寵愛まで手に入れようとしていることに、薛魚泳は拭いきれないわだかまりを覚えていく。

麗娘は14歳で烏妃に選ばれ、22歳で実際に烏妃となった。また寿雪は6歳で選ばれ、14歳で烏妃になった。いずれも8年で烏妃になっている。8は聖数なのですと薛魚泳はうそぶくが、ここに何らかの秘密があるのだろうか。

仮面の男

布作面を被ると怪しい男の影が見える。夜の静寂に溶けていく琵琶の調べ。五弦の琵琶を奏でる冠絶した才能を持ちながら、強すぎる自負心と、音楽への歪んだ執着故に身を滅ぼした男のお話。

このシリーズでは、夜間に事件が起きることが多いせいか、音(死者の声や琵琶の音)や、香り(想夫想や血臭)といった、目に見えない要素を、意図的に作中に取り入れているように思える。これらは絶妙な読後の余韻をもたらしていて、夜の物語としての『後宮の烏』雰囲気づくりに一役買っている。

寿雪はどうして他者を救おうとするのか。幽鬼を払うのは、どこにも行けない自分を顧みて、せめて彼らだけでも救いたいのだと寿雪は語る。これまでの人生で自己主張をしなかった寿雪が、次第にその気持ちを周囲の人々に語すようになっていく。それは人としての成長ではあるのだが、烏妃としての禁忌に近づく可能性も含んでおり、今後の展開に暗い影を投げかけそう。

想夫香

亡き兄を想うあまりに、人として立ち入ってはならない領域に踏み込んでしまった女の悲劇。この巻の最初から登場していた想夫香の香りと、夥しい血の臭気が全編に漂う凄惨な一編。謎の男、宵月が本格的に敵役として登場。手引きをしたのが薛魚泳であったというのが、これまた切ない。

宵月は、神の住む国、幽宮(かくれのみや)の 葬者部(はぶりべ)で烏の兄だという。烏は岬部。そして、この国は流刑地であるらしい。宵月が従える星烏、斯馬盧(スマル)と、寿雪に寄り添う星星、哈拉拉(はらら)。いずれもただの鳥ではないなかったみたい。

いきなり新情報目白押しでさっぱりわからない(笑)。星星がメチャメチャ役に立ったのも驚き。単なるマスコットキャラかと思ってたよ。

寿雪の中に潜む、烏漣娘娘には前王朝から残る根深い因縁が隠されている様子。初代の烏妃である香薔と、欒王朝の皇帝欒夕との間に何が起こったのか。帝の体に残った痣がどうなるかも気になるところである。

前に進む決意を見せた寿雪

自分は幸せになっていいのか。愛してくれる人、愛すべき人たちを得てもいいのか。戸惑い、迷いながらも、寿雪を慕い取り囲む人々は増えてきた。愛するものを得る喜びは、しかし失う時の哀しみもまた共に連れてくる。

苦悩し続けて来た寿雪だが、本巻のラストでは、琴孝敬に亡き娘の死を悼む手紙を送り、傷ついた高峻の魂をも救おうとする意志を見せた。それは、愛すべき人たちと共に生きようとする寿雪の決意の表れなのだろう。

寿雪は変わることを選んだ。しかし、烏漣娘娘を裡に抱え込んだ寿雪にそれは許されるのか。そろそろ物語が暗転してきそうな気配だけに、ひたひたと迫ってくる悲劇の予感が切ない。

後宮の烏 2 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 2 (集英社オレンジ文庫)

 

続編の『後宮の烏3』の感想はこちらからどうぞ。

『後宮の烏4』の感想はこちらからどうぞ。

第五巻『後宮の烏5』の感想はこちら から。

第六巻『後宮の烏6』の感想はこちら から。

最終巻『後宮の烏7』の感想はこちらから。