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『後宮の烏4』白川紺子 寿雪が探す4つの「失せ物」

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※2022/05/06追記 最終巻『後宮の烏7』の感想を書きました。

シリーズ累計50万部突破!

2020年刊行作品。『後宮の烏』『後宮の烏2』『後宮の烏3』に続く、『後宮の烏』シリーズの四作目にあたる。

後宮の烏 4 (集英社オレンジ文庫)

4巻の帯によるとなんとシリーズ累計で50万部を突破したとのこと。スゲー。オレンジ文庫の稼ぎ頭になるまで盛り上がってきたとは。

シリーズ累計50万部突破を記念して、『後宮の烏』の特設ページも出来ていた!書下ろしイラストや、書籍にしか載っていなかった地図まで掲載されていてこれはありがたい。

そして、特筆すべきは、寿雪以外のキャラクターのビジュアルがあることだろう。高峻の線の細さに驚く。顔もちっちゃい!薄幸感も強いな。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

中華系ファンタジーが好きな方、友達以上恋人未満の関係進展が気になる方、後宮モノが好きな方、人と人との関係構築に悩んでいる方におススメ。

あらすじ

泊鶴宮から消えた蚕の繭。殺された宦官と奪われた金の杯。洪濤殿(こうとうでん)書院の失われた古文書。宮中の失せ物を探し出し、後宮での影響力を高め、崇拝者を増やしていく寿雪。一方、賀州からは沙那賣(さなめ)家の当主、朝陽が都を訪れる。隠されていた烏漣娘娘(うれんにゃんにゃん)の秘密が、次第に明らかになっていく。

後宮の烏 4 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 4 (集英社オレンジ文庫)

 

ここからネタバレ

四巻のテーマは「失せ物探し」

本作は四編の短編作品を収録した、連作形式となっているが、今回は各編共通で「失せ物探し」の要素が取り込まれている。「失せ物探し」は、スピリチュアルな能力を持つ者に、持ち込まれる依頼としてはオーソドックスなものである。それらを探し当てて行くなかで、烏妃としての影響力が強まっていく過程が本編では描かれる。

それでは、例によって、各編ごとにコメント。

蚕神(さんしん)

泊鶴宮の蚕室で盗まれた繭と、出没する幽鬼のお話。この世界での養蚕の重要性と、品質の高い蚕を持つ、賀州、沙那賣(さなめ)一族の実力者朝陽(ちょうよう)の優位性が示される。朝陽が賀州からわざわざ宮中にまで出向いて、高峻、寿雪らとの対面を果たすのは、本巻の重要イベントの一つである。

一族の存続が最重要事項。そのためであれば家族ですらも犠牲にして厭わない朝陽。寿雪の秘密(髪が実は白い)を父、朝陽に密告した鶴妃こと晩霞(ばんか)の葛藤が重い。晩霞は、羽化することなく、繭の中で腐って解けていく死ごもり繭に自分を例える。

彼女がここまでの罪悪感を覚えるのは、実はもう一つ、寿雪に対して負い目があるからなのだけど(四章を読むとわかる)、この感情はいずれ彼女を追い詰めていきそうな気がする。

枝エピソードながら、かつて蚕好きが過ぎて命を失った妃の存在が、長い年月を経て蚕神として、信仰をあつめるまでに変容していく過程は面白い。神とはこうして作られていくものなのかもしれない。

金の杯

内侍省の宦官牧憲が死に、金の杯が奪われ、過去に関係のあった淡海に嫌疑がかかる。このエピソードでは淡海の過去がクローズアップされる。それにしても、関係者が宮中に集まりすぎでは?という気がしないでもないけど、そこはスルーで。

淡海を連行しようとする、勒房子(ろくぼうし)である漆雕坤(しっちょうこん)に対して、「わたしの宦官」とまで主張してそれを阻止する寿雪の決意にじんわりさせられる。

祟るとされる「金の杯」をめぐる因縁話。没落する実家をどうすることも出来ず、従姉を見殺しにした自責の念が淡海の生き方を決めてしまった。それはかつて、母を見殺しにした寿雪の悔恨の情と重ねられていく。

かつて「助けて欲しい」のひとことが言えずに孤独の中で生きてきた寿雪を、高峻の言葉が救った。そしてその言葉は、今度は寿雪から淡海へと繋がっていく。「願ってよいのだ」と。ここ、メチャメチャ泣けるシーンであると共に、寿雪の成長と覚悟を示す場面でもある。淡海はもうこれで、生涯寿雪に付いていきそう。ただ守るものが増えれば増える程、寿雪はもう後戻りが出来なくなる。

あと、本筋じゃないけど、ちょっといいシーン。

第三巻で実は腹違いの兄妹であることが判明した、衛青と寿雪。「正しくありたいとは思わない 外の正しさは関係ない」と主張する寿雪を、「身を滅ぼしますよ」と本当に心配し始めている衛青が興味深い。衛青ようやくデレてきた(笑)。高峻以外に大切なものなどなかった衛青の変化もこれから愉しみなところである。

墨は告げる

洪濤殿(こうとうでん)書院の失われた古文書を巡る怪異譚。歴史好きとしては「紙背文書(しはいもんじょ)」が登場して歓喜!

紙が貴重だった時代、使用済みの紙を裏返して使うことが日常的に行われていた。この「裏」の部分に、実はものすごく貴重な資料が眠っていることがあって、数々の歴史的な発見につながっていたりする。律令時代の公文書が反故紙として東大寺で使われたことで、現在まで奇跡的に残ることができた正倉院文書なんかが特に有名。こういうネタを拾ってくるセンスが好きだな。

と、話が逸れた。

この物語的に重要なところは、烏漣娘娘(うれんにゃんにゃん)と鼈(ごう)の神に関する古文書が発見されたことである。物語の核心にようやく迫ってきたかな?

一方で、朝陽との対面を果たした高峻は、「陛下はなぜ、烏妃さまを生かしてらっしゃるのですか」と迫られる。朝陽は寿雪が前王朝の遺児であることを知っている点まで話してしまってるけど、これけっこう危険なカードの切り方だよね。高峻がその気になったらその場で斬られてもおかしくない。朝陽は一族の生存こそが最優先事項で、中央での権力を望まない人物かと思っていたけど、このあたりは、他に理由があるのかもしれない。

禁色(きんじき)

最終エピソードは「墨は告げる」で明らかになった、烏漣娘娘と鼈の神の伝承について迫っていく展開。巫術師、封一行(ほういちぎよう)も再登場。

寿雪VS白雷の直接対決が遂に実現!朝陽の招きに従者も連れずにのこのこ出向いていく寿雪は相当なものだけど、それだけ「負けるわけがない」って自負心が強いのかな。半身とはいえ神宿ってるからな。

朝陽の暗躍もあって、後宮内での影響力を高めつつあった寿雪への信仰が思わぬ形で暴発する。これで、今後は表立って動くことを寿雪は封じられた感があって、この先の朝陽との対決構造が気になるところ。朝陽の息子、晨(しん)の恋愛フラグを立ててしまった気もするよね。

そして、晩霞の懐妊発覚は本編最大のビックリエピソード。このシリーズが後宮ものだってことをすっかり忘れてたけど、高峻やることちゃんとやってたのかよ?そりゃまあ、高峻の係累はほとんど描かれないし、王朝たるもの子孫を残してナンボだから、何もしてないわけないんだろうけど。影響力のある外戚を作らないように努めていた、高峻が、何故沙那賣家の姫と関係を持ったのか。気になるところではある。

そして何よりこの事実を知った、寿雪の反応を知りたい。

喪われた烏漣娘娘の半身は取り戻せるのか?

四巻のテーマは「失せ物探し」であると書いた。四つ目のエピソード「禁色」で、最大の失せ物が、東海に沈んだ「烏漣娘娘の半身」であることが明らかになる。

烏漣娘娘の半身は東海に沈んでいる。それ故に本来の力を使えないでいる。喪われた半身を取り戻すことで、烏漣娘娘に呪縛された寿雪を救うことが出来るのではないか?

しかし、その封印を解くためには三人の術者が必要である。寿雪、封一行、そして白雷。敵対関係にある白雷がこれからどう関わってくるかも見逃せないところであろう。

 

後宮の烏 5 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 5 (集英社オレンジ文庫)

 

「後宮の烏」シリーズ既刊分の感想はこちらから!

第一巻『後宮の烏』の感想はこちらから。

第二巻『後宮の烏2』の感想はこちらから。

第三巻『後宮の烏3』の感想はこちらから。

第五巻『後宮の烏5』の感想はこちら から。

第六巻『後宮の烏6』の感想はこちら から。

最終巻『後宮の烏7』の感想はこちらから。