方向模索中の本読みBlog

書評Blogの予定だけど、現在方向性模索中。基本ネタバレありなので注意してね。

宇月原晴明に外れなし「黎明に叛くもの」(中央公論新社)も期待にたがわぬ傑作

三冊めは松永久秀!

黎明に叛くもの (中公文庫)

黎明に叛くもの (中公文庫)

 

2003年刊行。宇月原晴明三作目。美しい装丁に惚れ惚れ。このハードカバー版が出て、わずか三ヶ月後に四分冊のノベルズ版が出ている。これって当初からの予定通りだったのか?ノベルズ版はC-NOVELSから出ているので、ラノベテイストなカバー絵が笑える。久秀爺さんの美爺ぶりにときめいてもらうでござる。現在では文庫版も出ているのでこちらが一番入手が容易だろう。

平蜘蛛の妖し夢―黎明に叛くもの〈1〉 (C・NOVELS)

平蜘蛛の妖し夢―黎明に叛くもの〈1〉 (C・NOVELS)

 
堕天の明星―黎明に叛くもの〈2〉 (C・NOVELS)

堕天の明星―黎明に叛くもの〈2〉 (C・NOVELS)

 
風林火山を誘え―黎明に叛くもの〈3〉 (C・NOVELS)

風林火山を誘え―黎明に叛くもの〈3〉 (C・NOVELS)

 
本能寺の禍星―黎明に叛くもの〈4〉 (C・NOVELS)

本能寺の禍星―黎明に叛くもの〈4〉 (C・NOVELS)

 

あらすじ

大永二年。京の街に野望に燃える二人の若者がいた。青年庄五郎と少年久七郎は後の世の斉藤道三、松永久秀となる。戦国の日輪足るべし、天下を二分せんと誓い合った二人は、権謀術数を駆使して時代の濁流を果敢に乗り切っていく。しかし若き天才織田信長の台頭が彼らの人生に陰を落とす。天下を取れなかった男の妄念が妖しくも美しく蠢動する。

魔人にして怪人、そして妖人の松永久秀がとにかくすごい!

長い、長いぜの588ページ。個人的に神認定している宇月原晴明なんだけど、勿体なくてなかなか新しい作品が読めないでいるのだった。

主人公は戦国きっての妖将松永久秀。信長をして、この老人は余人をもって替えがたい三つの偉業(将軍足利義輝弑殺、主家三好家に叛逆、東大寺大仏殿焼亡)を成し遂げたとリスペクトされていた凄い武将だったりする。物語は、生まれも定かでない松永久秀が、同じく戦国の梟雄であった美濃の蝮こと斉藤道三と、実は異教の暗殺教団の兄弟弟子であったという設定で始まる。この二人、暗殺術の奥義を全て受け継ぎ、直接戦闘はもちろん呪術、妖術の類も無敵クラス。それでいて歌舞音曲にも通じ、そしてなによりも二人とも凄絶な美少年というものすごいアリアリ設定だ。伝奇小説たるものやはりこれくらいの無理を押し通して欲しいもの。

天下を二人で分け合おうと誓って、かたや畿内の三好家、かたや美濃の土岐家にそれぞれ奉公し、もってうまれた才能で底辺から這い上がっていく。屍山血河の果てに、国持大名にまで成り上がるが、その時彼らは既に壮年に至っていた。そして尾張には若き天才、時代の寵児織田信長が現れる。久秀らは自らが戦国の世の日輪たらんと若き日を過ごすのだが、いずれ自身が日輪ではなく、数多ある星の一つでしかないことを思い知らされていく。真の日輪(信長)の登場に対し、明けの明星にたとえられた久秀が、日輪(黎明)の登場に際しても、なおも消えずに輝きを放とうとするさまがタイトルに込められた意味となっている。無性に燃える展開だよなあこれは。

兄弟子、道三は信長の登場で、あっけなく自身の限界を悟る。娘を信長に娶らせ、美濃一国の譲り状まで書いてしまう。しかし、兄道三の悟りを理解できない久秀(還暦越えた爺さん)は「兄者はオレのことだけ見ててくれなきゃ嫌嫌嫌嫌!!」とだだをこねまくる、とにかくこねてこねてこねまくる。というのが物語の要旨。いい年こいて、どんだけ道三ラブなんだよ久秀よ。

と、あらすじだけぶっこぬくと身も蓋もないお話に見えてしまうのだけど、これが宇月原晴明的伝奇フィルターを通すと、あら不思議、血湧き肉躍り、浪漫と幻想に溢れる妖かしのお伽絵巻になってしまうんだからスゴイ。金髪碧眼、少女の姿を持つ傀儡「果心」を操る久秀。これを室町末期、伝説の妖術師果心居士の伝説と被せてくる力業。そして松永久秀と言えば平蜘蛛の茶釜。この戦国超重要アイテムを、異教の記憶改竄装置として仕立て上げていく奇想が素晴らしい。

大器信長の太っ腹ぶりがこれまた良いのだ。何度叛かれても、既成観念破壊の先駆者としてリスペクトしている久秀爺さんを許してしまう信長。あの冷酷な信長が、どうして久秀だけには甘かったのか。空想の翼を広げてみるとこんなお話しになりましたというのがこの物語。換骨奪胎しまくっているけどいちおう史実ベースに、枝葉をつけた内容なので、多少なりとも戦国時代の知識があるとより楽しめるかと。なお、外伝作品『天王船』が出ているのでこちらもおススメ。こちらはノベルズ版に収録されていた短編をまとめたものなのだ。