方向模索中の本読みBlog

書評Blogの予定だけど、現在方向性模索中。基本ネタバレありなので注意してね。

「信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」(新潮社)宇月原晴明、衝撃のデビュー作

本日も宇月原晴明の素晴らしさを語る

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)

 

第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。作者はデビューまでに第六回三田文学新人賞を受賞。永原孝道名義で、詩歌、評論などに著作がある。宇月原清明としては本作が処女作。第二作『聚楽太閤の錬金窟』も名作なので、後日ご紹介予定。作品数の極めて少ない作家で、現時点でも7作しか著作が無い。さいきん新刊が出てないのでちょっと心配である。

あらすじ

1930年。ベルリン。アントナン・アルトーの前に現れた、謎めいた東洋人は自らを総見寺と名乗った。異色のローマ皇帝ヘリオガバルスに傾倒するアルトーに、総見寺は日本の戦国武将、織田信長との奇妙な符合について語り始める。共に暗黒の太陽神を崇拝し、そして両性具有であったと。次第に明らかになる信長の真実の姿とは……

振り切れた妄想の心地よさ

小説書きたるもの、いかにして見てきたような嘘をうまく書くかが勘所だと思うのだが、本作に関してはそんな既成観念は吹っ飛んでいると言っていい。妄想振り切れ気味。ある意味見事なまでのバカ本と言ってもいいだろう。信長が両性具有だったというだけで既にビックリだが(タイトルが超ネタバレ!)、畳みかけられる驚きの真実の数々に最後まで魅せられっぱなしなのだ。

ヨハネの黙示録を実践する信長。道々の輩と野合する信長。バール神と牛頭天王の符合。桶狭間合戦から本能寺に至るまでの史実に隠された意外な真相の数々。いくらなんでもそれはないだろうというネタがここまで惜しげもなく投入されてくると、次第に次はどんなエピソードが読めるんだろうかと楽しみになってくる。

戦国時代と20世紀を行きつ戻りつしながら物語は佳境へ。終盤の仕掛けは来るぞ来るぞとわかってはいても見事な切れ味。顕現する地獄の道化師。黒服の男たちの怒号。この酩酊感はただごとではない。信長は天界へと去り、総見寺もまた舞台を去っていく。至上の存在に置き去りに去られた秀吉やアルトーはただ狂うしかなかったのかもしれない。得難い作品を読み終えてしまった読者もまた同様に……。