角川⇒講談社⇒角川と版元が変わった作品
本作に関しては、まず最初に、1992年にカドカワノベルズ版(←懐かしいレーベル!)が刊行されている。
続いて1997年に何故か講談社から文庫版が登場 。
その後更に、2006年に角川書店から再文庫版が登場と、角川と講談社の間を行ったり来たりしている不思議な作品である。わたしが読んだのは、角川の再文庫版である。
解説の法月綸太郎(のりづき りんたろう)の指摘にもあるように、新本格系の作家として1988年にデビューした歌野晶午(うたのしょうご)が、非本格寄りのミステリ作品を書き始めた頃の作品となる。素人探偵モノとしては後の出世作『葉桜の季節に君を想うということ』の遠いルーツになっているのかもしれない。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
初期の新本格作品から、変化し始めた頃の歌野晶午作品を読んでみたい方。誘拐モノ、特にスマホや、携帯電話が無かった時代のものについて読みたい方。1990年代の雰囲気を思い出したい方などにおススメ。
あらすじ
夫の愛情を確かめるために狂言誘拐を依頼する女。夫はコーヒーチェーン店の経営者。そして報酬は100万円。犯行を依頼された便利屋は見事に計画を成し遂げるが、部屋に戻ると女は死んでいた。果たしていったい何が起きたのか。不本意ながらも死体の処理をせざるを得なくなってしまった便利屋は真相を解き明かすべく動き始める。
ココからネタバレ
1990年代の雰囲気が楽しめる誘拐劇
肝心の本編は誘拐モノとその変奏曲となっている。テーマがテーマだけに時代の影響を大きく受ける分野で、携帯電話の無い時代の誘拐は本当にいろいろ大変だった(笑)。巨大な自動車電話を持ち運んでの犯人交渉がなんだか微笑ましい。というか、今となっては涙ぐましい。伝言ダイヤルとか、ダイヤルQ2とかも懐かしいなあ。
終盤は適度にひねりアリ。どんでん返しもアリで、大きな驚きは無いものの、まずまずの一作ではないかと。『ROMMY 越境者の夢』と同様に、歌野晶午の脱新本格という流れの中に位置づけることが出来そうな作品である。
20世紀の誘拐モノとしてこちらも
ちなみに、携帯電話が無かったころの誘拐が大変だったという点では、以前に紹介した岡嶋二人『99%の誘拐』もおススメである。