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『ざ・ちぇんじ』氷室冴子 男女入れ替わりモノの古典的名作


氷室冴子、もうひとつの平安朝コメディ

前後編の二巻構成で、前編が1983年1月刊行、後編が同2月刊行。氷室冴子としては10冊目、11冊目の単著ということになる。ちなみにこの作品の前に刊行されたのが『雑居時代』、続いて刊行されたのが『シンデレラ迷宮』である。

1983年版の書影はこちら。よく見ると『ざ・ちぇんじ』の題字で、「ざ・ぇ・じ」がゴシック体。「ち・ん」が明朝体になっていて、この作品のごちゃ混ぜ感をよく表している(今さら気付いた)。

ざ・ちぇんじ(前編) ざ・ちぇんじ(前編)

その後、1996年にリライトされたSaeko’s early collection版が書かれている。こちらも二巻構成だが、前編はAmazonでも取り扱いが無いらしく、書影は後編分のみ貼っておく。

ざ・ちぇんじ!〈後編〉 (Saeko’s early collection〈volume.2〉)
 

更に、氷室冴子の没後、2012年に未発表作品であった「月の輝く夜に」とのカップリングで、『ざ・ちぇんじ』は再文庫化されている。こちらはSaeko’s early collection版を底本としている。

この版は電子書籍化もされているので、現在でも容易に読むことが出来る。

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

  • 作者:氷室 冴子
  • 発売日: 2012/08/31
  • メディア: 文庫
 

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

コメディタッチの恋愛モノを読んでみたい方、平安朝に憧れる方、『なんて素敵にジャパネスク』ファンの方、男女入れ替わり系コメディが好きな方、氷室冴子ならではの職人芸を堪能したい方におススメ!

あらすじ

権大納言・藤原顕通には深刻な悩みがあった。女として生まれながら活動的で、文武の才に秀でた姉。男として生まれながら見目麗しく、病弱故に姫として育てられた弟。うり二つの容貌を持ちながらも、男女逆に育ってしまった姉と弟。姉の”綺羅君”は、とうとう男として朝廷に出仕することが決まってしまう。果たして”綺羅君”は周囲を欺き通すことが出来るのか?

ここからネタバレ

平安時代の古典「とりかへばや物語」を大胆に翻案

本作のサブタイトルは「新釈とりかえばや物語」である。"新釈"とあるからには、元ネタが存在する。オリジナルの「とりかへばや物語」は平安時代に成立した作者不明の物語である。男女入れ替わり系作品の元祖ともいえる怪作である。

「とりかへばや物語」の詳細はWikipedia先生を参照のこと。

 

氷室冴子の『ざ・ちぇんじ!』は「とりかへばや物語」の物語としての骨格を活かしながらも、大胆に換骨奪胎してみせた作品である。

「ジャパネスク」の方が先に書かれている

文庫本としての刊行は『ざ・ちぇんじ!』が1983年。そして平安モノの大ヒット作品『なんて素敵にジャパネスク』は1984年刊行である。

そのため『ざ・ちぇんじ』の方が先に書かれたように思えてしまうのだが、『なんて素敵にジャパネスク』収録の一作目「お約束は初めての接吻での巻」の初出は1981年の『小説ジュニア』なのである。『なんて素敵にジャパネスク』の方が、本当は先に世に出ているのだ。

『なんて素敵にジャパネスク』の文庫版(旧版)のあとがきには、こう書かれている。

さらに言うと、この小説は『ざ・ちぇんじ!』の習作として、書いてみた作品でもあります。
ご存じ『ざ・ちぇんじ!』も平安朝コメディですが、なんせ、あれは長い話です。何の準備もなく書き始めて、うまくいくとも思えない。
実際、書き始めてみて四百枚で討ち死にしてしまいました。どうも時代とコメディが嚙み合わないんですね。

『なんて素敵にジャパネスク』(旧版)あとがきより

つまり『なんて素敵にジャパネスク』(第一巻相当分)が平安朝×コメディの習作として機能し、この結果として『ざ・ちぇんじ!』がめでたく世に出たことになる。

個人的には長いこと『ざ・ちぇんじ!』は、『なんて素敵にジャパネスク』の先駆的な作品かと思い込んでいたのだが実際はその逆であったようだ。お恥ずかしい。

ちなみに『なんて素敵にジャパネスク』は基本的には瑠璃姫の一人称で書かれているが、『ざ・ちぇんじ!』は三人称で書かれている。氷室冴子作品での三人称は、この時点では『白い少女たち』などの最初期作品以来の試みである。こうした部分でも『ざ・ちぇんじ!』は特別な作品であったのかもしれない。

男女入れ替わりモノとしての面白さ

本来の性別とは逆の育ち方をしてしまった姉”綺羅君”と弟"綺羅姫"。姉の方が遂に、男として帝に仕えることになってしまい悲喜劇が始まる。出来るだけ目立たぬように、控えめにひっそりとしていよう。そんな姉の想いとは裏腹に、持って生まれた美貌と才能、高貴な身分がそれを許さない。

本当は女なのに妻を持たされ。しかもその妻が何故か妊娠してしまう!さらに弟は、尚侍(ないしのかみ)として帝に召し出されることになってしまい……。と、最初の嘘を貫き通そうとするあまりに、次から次へと無理難題が降りかかってくる展開が抜群に面白い。

最後は綺麗に物語が閉じる

姉の”綺羅君”を男として懸想してしまう宰相中将。女である”綺羅君”に嫁ぐことになってしまった三の宮。北嵯峨の地で実はお互いに一目ぼれしている帝と”綺羅君”。"綺羅姫"として内裏に入った弟と、恋仲になる女東宮。

性別が入れ替わっているだけでもややこしいのに、登場人物たちの織りなす恋愛模様はかなり複雑で、これだけもつれにもつれた人間関係をどう片づけるつもりなのか?読者としてはハラハラしながら展開を見守るのだが、これが最後の「ざ・ちぇんじ」で綺麗に片付いてしまうのだから凄い!

氷室冴子ならではのストーリーテリングの妙味だが、これは相当に苦労したのではないだろうか。初期「ジャパネスク」での習作の試みが、長編作品として見事に結実しているのである。

 

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