ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『廃遊園地の殺人』斜線堂有紀 廃園に追い込まれたテーマパークで再び起きる惨劇

本ページはプロモーションが含まれています


廃墟を舞台とした殺人事件

2021年刊行作品。作者の斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)は2017年のメディアワークス文庫『キネマ探偵カレイドミステリー』がデビュー作。以後、コンスタントに作品を上梓してきたが、2020年の『楽園とは探偵の不在なり』が、この年のミステリ系ランキングで軒並み上位にランクイン。一躍、注目のミステリ作家となった。

廃遊園地の殺人

そのためなのか、2021年の斜線堂有紀は、本作に加えて、『ゴールデンタイムの消費期限』『神神化身 壱 春惜月の回想』『愛じゃないならこれは何』の計四作を発表。ご本人的には充実の一年だったのではないだろうか。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

廃墟を愛する方。特に遊園地の廃墟は大好き!と思っている方。斜線堂有紀の本格ミステリ作品を読んでみたい方。キャラクター名の可読性が低くても耐えられる方におススメ。

あらすじ

オープン前に起きた銃乱射事件により、廃園に追い込まれたテーマパーク、イリュジオンランド。20年の歳月が過ぎ、かつての関係者たちがこの地に招かれる。「宝を見つけたものにイリュジオンランドを譲る」。荒れ果てたこの土地を買い取った謎の資産家、十嶋庵の狙いはどこにあるのか。廃墟マニアの眞上永太郎は、そこで思いもよらぬ事件に巻き込まれる。

ここからネタバレ

キャラクター一覧

本作に登場する主な人物の一覧から。

  • 眞上永太郎(まがみえいたろう):主人公。廃墟マニアのコンビニ店員
  • 藍郷灯至(あいざとともし):作家。「廃墟探偵」シリーズで知られる
  • 常察凛奈(つねみりんな):廃墟マニアのOL
  • 主道進(すどうすすむ):旧イリュジオンランド経営陣
  • 渉島恵(しょうじまめぐみ):旧イリュジオンランド渉外担当
  • 売野海花(うりのうみか):旧イリュジオンランド売店店員
  • 成家友哉(なるいえゆうや):旧イリュジオンランドスタッフ
  • 鵜走淳也(うばしりじゅんや):旧イリュジオンランドスタッフ
  • 編河陽太(あむかわようた):「月刊廃墟」編集長
  • 佐義雨緋彩(さぎさめひいろ):十嶋財団のスタッフ
  • 籤付晴乃(くじつきはるの):二十年前の銃乱射事件犯人
  • 十嶋庵(としまいおり):イリュジオンランドを所有する謎の資産家

本作では一見すると、どう読んでいいのかわからない、珍しい苗字のキャラクターばかりが登場する。作者の意図としては、主道進が、かつてのイリュジオンランドの経営陣であったり、売野海花が売店の店員であったりすることから、作中の役割に配慮した名前表記なのではないかと考えられる。多数の登場人物が出てきても、確かにこれならキャラクターの属性を把握しやすい。今村昌弘の『屍人荘の殺人 』シリーズなどでも使われている手法だ。これ、流行ってるのかな。

とは、思うのだが、『廃遊園地の殺人』のキャラクター名は、少々凝り過ぎで「読めない」ストレスを過剰に読者に与えているようで、その点は残念。

廃墟の魅力

廃墟マニアという世界がある。本来の役割を終え、朽ちるままに静かに眠る建造物たち。廃墟には、悲しみがあり、寂しさがあり、そして世の無常さが漂う。故に、一部の好事家たちにとって堪らない魅力をもって映るようで、廃墟を取り扱った写真集やムック本の類は、これまでにけっこうな数が出版されている。

『廃遊園地の殺人』で登場するテーマパーク、イリュジオンランドは、正式稼働を目前に控えたプレオープンイベントで、銃乱射事件が発生。ただの一度も、本来の役割を果たすことなく廃園となってしまったいわくつきのスポットである。その後は解体、整理されることもなく、荒れ果てるままに二十年の歳月が経過している。

イリュジオンランドの建設にあたっては、過疎化に悩んでいた地元天衝(あまつき)村での、誘致をめぐる村内対立があった。誘致派が勝利し、天衝村は消滅と引き換えにイリュジオンランドを受け入れることになるが、銃乱射事件ですべて水泡に帰してしまう。この地は、リュジオンランドだけでなく、天衝村の墓標でもあるわけだ。

故郷喪失者としての眞上永太郎

『廃遊園地の殺人』で探偵役を務める眞上永太郎は、廃墟マニアのコンビニ店員である。廃墟に対する異常なこだわりと、不思議なまでの自己肯定感の低さが印象的な人物だ。彼の秘密については物語の後半で明かされる。

眞上の父親は、全国を放浪した末に、燕石ヶ丘空中庭園事件で大量殺人の罪を犯す。この事件が、眞上の人間形成に大きな影を落としたであろうことは想像に難くない。眞上の自己評価が低いのも、この事件が影響が大きいのだろう。

故郷を失った人物という点で、眞上は天衝村の人々と共通項を持つ。この点で、眞上が探偵役を買って出た理由があるようだ。しかしながら、眞上親子の話はあまりに唐突に持ち出されるので、読み手としては違和感を禁じえなかった。シリーズものの途中の巻から読んでしまったのでは?と思ってしまったくらいだ(この作品の前作ってないよね?あったらゴメン)。

十嶋庵が謎過ぎる

眞上以上に謎の人物が十嶋庵だ。謎めいた大富豪、十嶋庵はどうして二十年以上も経過してから、このような企画を実行に移したのか。十嶋庵のキャラクターは、藍郷灯至と佐義雨緋彩に分割して投影されていたように見える。だが、最終パートで、十嶋庵は人間ですらない魂だけの存在なのだと、更に謎めいた事情が仄めかされる。

いかにも続編が出そうな終わり方ではあるのだが、続きが出ることはあるのだろうか。

廃遊園地の殺人

廃遊園地の殺人

Amazon

斜線堂有紀作品の感想をもっと読む