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2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

2021年に読んで面白かった小説11選

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2022年もすでに二週間が経過してしまい、やや時機を逸してしまった感が無きにしも非ずだが、恒例の「〇〇年に読んで面白かった小説10選」をお届けしたい(10冊に絞れなかったので今年は11冊だけど)。

特に順位などは無し。また、「2021年に刊行された作品」ではなく、「2021年に読んだ本」が対象なので、その点はご容赦ください。

このページに関してはネタバレなし(各感想の詳細リンク先はネタバレアリ)なので、気軽に読んでいただければと。

これまでの10選記事はこちらから。

三体3 死神永生(劉慈欣)

『三体』『三体2 黒暗森林』と続いてきた「三体」シリーズが遂に完結。未知の存在との接触。そして戦いへ。エスエフでなければ実現しなかった特異な世界観。人智を超えた頭脳戦の魅力。人類とは。宇宙とは。物語のスケールの大きさと、広げまくった大風呂敷を綺麗にたたみ切った力業に痺れた。

三体Ⅲ 死神永生 上 三体Ⅲ 死神永生 下

「三体」シリーズ三部作は、各部それぞれに面白さのツボが違って、そしてどの作品も抜群のセンスオブワンダーに溢れているという稀有な作品。最終の『三体3 死神永生』は、おいおいどこまで行くんだよという読者の戸惑いをぶっちぎって、想像を超えた結末まで一気に駆け抜けていった。

『三体3 死神永生』の詳しい感想はこちらからどうぞ

火星へ(メアリ・ロビネット・コワル)

『宇宙(そら)へ』の続編。実際の歴史よりも10年早く、1950年代から宇宙開発が始まった設定の歴史改変系エスエフ。この巻で目指すのはタイトルからわかるとおり「火星」。時間軸的には1960年代の初頭。この時代ならではの人種差別問題や、ジェンダーの問題が色濃く反映されているのが特徴。

火星へ 上 (ハヤカワ文庫SF) 火星へ 下 (ハヤカワ文庫SF)

火星までの道のりは遠く。この時代の技術では地球との往復に三年を要する。閉鎖環境下でのストレスのかかる生活。次々と襲い掛かってくるトラブル、アクシデント。息詰まる展開と、困難を乗り越えた先のカタルシスは読みごたえ十分。更なる続編も出るようなのでこの先が楽しみ。

『火星へ』の詳しい感想はこちらからどうぞ

タタール人の砂漠(ブッツァーティ)

若き軍人ジョバンニ・ドローゴが、ド田舎のバスティアーニ砦勤務を命じられ、何の変化もない無為な毎日を過ごすことで、次第に人生をすり潰していく物語。こんな筈ではと思いながら、日常に押し流されていく主人公の内面描写が、読む側のメンタルをも削っていく。

タタール人の砂漠 (岩波文庫)

このままではダメだと思いながらも、自分から積極的にアクションするのは勇気がいる。流されるままに受け身に生きていく危うさと。容易には抜け出せない、平穏な日常の重力。現状の自分に不安を抱いている方には教訓として読んでいただきたい一冊。本当に身につまされる。

『タタール人の砂漠』の詳しい感想はこちらからどうぞ

黒牢城(米澤穂信)

米澤穂信の新作はまさかの歴史ミステリ。信長に叛き、籠城を続ける荒木村重が主人公。村重は城中で起こる様々な事件に対して、囚人となっている黒田官兵衛の知恵を借りて事態を乗り切っていく。密室、アリバイ崩し、ホワイダニット、お馴染みのミステリ的ガジェットも、戦国時代に持ち込まれるととたんに新鮮に見えてくるから不思議。

黒牢城 (角川書店単行本)

「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」全てで第一位。加えて第十二回の山田風太郎賞を受賞。実質五冠を達成し、2021年のミステリ界を席巻してしまった一作。

作風がマニアックすぎて、こんなにメジャーなランキングで評価されるとは思っていなかったので驚いた。名実ともに米澤穂信は現代ミステリ界を代表する作家になってしまった。

『黒牢城』の詳しい感想はこちらからどうぞ

人ノ町(詠坂雄二)

終末モノの一種。人類文明崩壊後の世界を行く「旅人」の物語。盛時を過ぎ、衰退を続ける人類文明。乾いた世界観。トリッキーな展開。僅かな希望。詠坂雄二作品らしい、一筋縄ではいかない捻り具合が好き。文庫版の表紙もイイ!

人ノ町(新潮文庫nex)

詠坂雄二作品は毎回、手を変え品を変え、読み手の想像を裏切った物語展開をやってのけるので目が離せない。全作品読まねばと決めている作家のひとりだったりする。ミステリからエスエフまで、イマジネーションの引き出しの豊富さが堪らんのですよ。

『人ノ町』の詳しい感想はこちらからどうぞ

青の数学(王城夕紀)

数学に青春を賭けた少年少女たちの物語。文系人間のわたし的には、数学的なネタはさっぱりわからないのだけれども、それでも数の世界の魅力がビンビン伝わってくるから素晴らしい。

青の数学(新潮文庫nex) 青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

王城夕紀作品は、どのお話も作中に込められた熱量が圧倒的で、読むものを惹きつけてやまない。なにかに夢中になれることの素晴らしさ。没頭できる存在がある幸せ。自分も頑張ろうと思わせてくれる。

最近新作が出てこないのだけど、もう書いてないのかなあ。

『青の数学』の詳しい感想はこちらからどうぞ

洋食セーヌ軒(神吉拓郎)

昭和の直木賞作家、神吉拓郎(かんきたくろう)による、珠玉のグルメ短編集。中年男女の揺れ動く心の機微を丁寧に描いていく。2016年に光文社文庫で復刊を遂げている。濃厚な昭和感、バブル期の空気が、特定年代には刺さる。

洋食セーヌ軒 (光文社文庫)

十七の短編(というか掌編)が収録されており、どのお話から読んでもオッケー。各編ともに短いのでささっと気軽に読めるところもイイ。登場する食べ物がとにかく美味しそうなので、空腹時に読むのは禁物である。

『洋食セーヌ軒』の詳しい感想はこちらからどうぞ

向日葵を手折る(彩坂美月)

都会から、山形に転居してきた少女の成長を綴った青春ミステリ。2013年~2014年にかけて連載されていた作品が、2020年になってようやく刊行された(ずいぶん時間がかかったよね)。

向日葵を手折る

毎年行われる「向日葵流し」のイベントが作中で重要な役割を果たす。山形県出身の作者なだけに、地元農村の情景描写が鮮やか。土地の名産や、習俗も巧みに織り込まれていて、抒情性豊かに主人公の少女時代が描かれていく。

『向日葵を手折る』の詳しい感想はこちらからどうぞ

同志少女よ、敵を撃て!(逢坂冬馬)

第二次世界大戦、最悪の戦場となった独ソ戦を舞台に、志願して狙撃兵となった少女の戦いを描いた物語。生きることと殺すこと。女として最前線に立つこと。重いテーマを取り扱いながらも、高いエンターテイメント性をも併せ持った稀有な一作。最終章の怒涛の展開と、まさかのタイトル回収には愕然とさせられた。

同志少女よ、敵を撃て

第一作にして、いきなりの直木賞候補作。年末に発売されて、一気に話題をかっさらってしまった感のある一作。逢坂冬馬は、本作がデビュー作とは信じられないほどのクオリティで、果たして、デビュー作での直木賞受賞はあり得るのか?

『同志少女よ、敵を撃て!』の詳しい感想はこちらからどうぞ

この夏のこともどうせ忘れる(深沢仁)

いつもだったらつき合うことのない。話すこともないようなタイプのキャラクターと過ごす「特別な夏の時間」を描いた短編集。「どうせ忘れる」つかの間の関係性は、それだけに濃密な体験となる。

この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)

きっと「生涯忘れられない」夏の記憶になる。誰もが持っているであろう、読み手それぞれの「特別な夏」の思い出をも、想起させてくれる点でも得難い作品だと思う。個人的には、夏の終わりころに読むのがおススメ。

『この夏のこともどうせ忘れる』の詳しい感想はこちらからどうぞ

九度目の十八歳を迎えた君と(浅倉秋成)

2021年は、浅倉秋成作品のほとんどを読んだ。いずれも良作揃いで、一作に絞るのは悩んだのだけれども、オッサン読者的には『九度目の十八歳を迎えた君と』を選んだ。本作は「青春時代の呪いを解く」物語。十代の頃のトラウマを拗らせたまま、オジサン、オバサンになってしまった読者には刺さる内容なのではないか。

九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)

『六人の嘘つきな大学生』がヒットし、2021年は浅倉秋成にとって飛躍の一年だったと。『教室が、ひとりになるまで』とあわせて、この三作が浅倉秋成のベスト3だと思う。2022年、更なる飛躍を期待したいところ。

『九度目の十八歳を迎えた君と』の詳しい感想はこちらからどうぞ

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