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『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』辻真先 ミステリランキング三冠!


〈昭和ミステリ〉シリーズの第二弾

2020年刊行作品。「このミステリーがすごい!2021年版」国内編、「週刊文春2020ミステリーベスト10」国内部門、「ハヤカワ・ミステリマガジン ミステリが読みたい!」国内篇いずれも1位の三冠を達成。2020年を代表するミステリ作品となった。 

戦前戦後の名古屋を舞台とした辻真先(つじまさき)による、〈昭和ミステリ〉シリーズの第二弾である。

たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説

なお、本作には前日譚である『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』が存在する。『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』よりも12年前の時代設定を持つ物語で、那珂一兵(なかいっぺい)や、別宮操(べっくみさお)、犬飼刑事らが登場する。

『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』は単独で読んでももちろん楽しめるが、出来うるならば『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』を先に読むことを強くお勧めする。

 

ミステリランキング三冠!

ちなみに、ミステリランキング三冠を達成したのは本作を含めて四作家、五作品しか存在しない。以下、その一覧。

作者の辻真先(つじまさき)は、1932年生まれで受賞時ではなんと88歳!もちろん歴代最高齢である。これはすごい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

ミステリランキング三冠!の実績に惹かれて読んでみたいと思った方。青春小説の側面を強く持つミステリ小説を読んでみたい方。名古屋近郊にお住まいの方。100メートル道路が出来る前の名古屋を知りたい方。戦後の風俗について知りたい方におススメ!

なお、大事なことなのでもう一回書くけど、前日譚である『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』を先に読むことを強くお勧めする。

あらすじ

ミステリ作家志望の風早勝利は、推理小説研究会に所属する新制高校の三年生。修学旅行代わりの小旅行として訪れた温泉地で、彼は奇妙な密室殺人に遭遇する。殺害されたのは地元でも有名な評論家だった。そして夏休み最後の日、彼はふたたび殺人事件に巻き込まれる。バラバラ死体として発見された市議会議員。二つの事件を解く鍵はどこにあるのか?

戦後の名古屋を舞台とした物語

『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』は戦前の華やかなりし時代の名古屋を舞台とした作品だった。そして、本作『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』では、その12年後、戦後間もない頃の名古屋が舞台となっている。第二次世界大戦の度重なる空襲で名古屋の街は灰燼に帰し、復興の兆しはあるものの、市内にはそこかしこに瓦礫や、廃墟が残っている。

前作ではマンガ家志望の那珂一兵が主人公であったが、今回の主人公は高校三年生の風早勝利(かざはやかつとし)である。

風早勝利は旧制中学に在籍していたが、戦後のGHQによる学制改革で、新制高校の三年時に編入される。これまで日本の学校教育は男女別学を旨としていたが、これもGHQの意向で改められ、急速な共学化が推し進められる。

勝利たち三年生は、既に存在した男子校の興亜学園と、女子校の貞淑女学院が合併して出来た東名学園に編入されている。この物語では、わずか一年限りの、男女共学の高校生活が瑞々しいタッチで描かれていくのだ。

キャラクター紹介

取り急ぎ、登場する主なキャラクターを整理しておこう。実際の名前とあだ名が混在して描かれるので、ちょっと最初は戸惑うかもしれない。

  • 風早勝利(かざはやかつとし):推理小説研究会。あだなはカツ丼
  • 咲原鏡子(さきはらきょうこ):上海からの引揚げ者。あだなはクーニャン。
  • 大杉日出夫(おおすぎひでお):映画研究会。あだ名はトースト。
  • 薬師寺弥生(やくしじやよい):磊落した元子爵令嬢。あだ名は姫
  • 神北礼子(かみきたれいこ):推理小説研究会。成績優秀。あだ名は級長
  • 別宮操(べっくみさお):研究会顧問。あだ名は巴御前
  • 那珂一兵(なかいっぺい):映画館の看板描き。探偵役として登場

ココからネタバレ

第一の事件(密室殺人の謎)

第一の事件は密室殺人事件の謎である。主人公らが訪れたのは奥三河の温泉地、湯谷温泉である。鉄オタの素養がある勝利の道中描写が楽しい。名鉄と飯田線の平行運転区間は鉄オタなら燃えるスポットである。

彼らが乗車した名鉄の3400系はこんな車両。これはレトロ格好いい!素敵なデザインである。1937年に導入され、なんと2002年まで現役であったらしい。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/ba/Meitetsu_imomushi_3400.jpg

名鉄3400系電車 - Wikipediaより

そして、湯谷温泉はこちら。

現地で、勝利らは、戦後に作られた建売住宅(民主1号)の中で、評論家の徳永信太郎(とくながしんたろう)が殺害されているのを発見する。内部は密室状態になっており、徳永がいかにして殺害されたのか分からない。

第二の殺人(解体殺人の謎)

続いての事件は解体(バラバラ)殺人事件である。

文化祭の出し物として、映画研究会が廃墟となった旧施設内で撮影を行う。この時代に高校生が動画を撮影するような財力は無いので、静止画写真のつなぎ合わせてで代用しようとする発想が驚く。この時代には一般的に行われていたのだろうか。

事件の被害者は、市議会議員の郡司英輔(ぐんじえいすけ)。郡司はバラバラに解体された状態で発見される。犯行現場に出入り出来た者は限られており、しかも短時間に限られている。とても成人男性をバラバラに切り刻むような時間的余裕は無い。第一の事件が空間的な不可能犯罪であるとするなら、第二の事件は時間的な不可能犯罪となっている。

魅力的な青春小説として

辻真先の〈昭和ミステリ〉シリーズは十代の若者たちを主人公とした物語である。本作では風早勝利の高校三年生のひと夏の思い出が描かれる。上海帰りの転校生、咲原鏡子に惹かれる勝利だったが、彼女への片思いは成就しない。

 

貧困の中、病床にある父のために体を売っていた鏡子。17歳の少女に与えるには重すぎる境遇だが、この時代だからこその設定ではあるのだろう。ただ、鏡子は運命に打ちひしがれるだけの弱々しい存在としては描かれない。自身で運命を選択し、新たな境遇に飛び込む勇気を持っている。文化祭での、鏡子の歌唱シーンが実に印象的である。

カバー絵に描かれているのは、「修学旅行」の夜、河原で語り合う、勝利と鏡子の姿を描いたものだろう。勝利は鏡子への想いを自覚しながらも、口に出せないでいる。鏡子も勝利の好意を自覚している。しかし鏡子は既にパートナーを選んでしまっているがために、勝利の気持ちに応えることが出来ない。青春時代の甘酸っぱい思い出が凝縮されたような場面で、本作の中でも出色のシーンと言えるだろう。カバー絵にチョイスしたセンスが素晴らしい。

ミステリとしての切れ味

密室殺人と解体殺人。それぞれのトリックは、少々というかかなり強引に思え、これ成功する確率そうとう低いだろう。と、思わざるを得ないのだが、そこはまあご愛敬ということで………。

本作の最大のウリは「最初の一ページで、すぐ犯人を紹介する!」点である。本格ミステリの問題点として、作者は登場人物の大杉日出夫の言葉で、こんな課題を提示して見せている。

その伏線てヤツが面倒臭いんだよ。一〇〇ページも二〇〇ページも読者に道草させてから、やっと犯人をばらすなんて、民主的じゃねえ

『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』p5より

冒頭の勝利の台詞、「犯人はお前だ!」を、多くの読者は読み飛ばしてしまうだろう。これが最後の最後になって効いてくるから驚きである。前作『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』では別宮操は主要登場人物として活躍している。前作を知っている読者としては、別宮操は旧知の人物であり、「探偵側のキャラクター」と捉えてしまいがちである。作者は、そんな読者の思い込みすらも使って罠を仕掛けてきている。いかにもな犯行動機を持つ、咲原鏡子の存在がしっかりミスリーディングを誘っているのも巧い。

 

そして成長小説として

「書くんだよ」別宮操のこの言葉に突き動かされて、勝利は初めての推理小説を脱稿する。はじめての失恋を経験し、大切な存在である操をも失い、それでも書くことを選んだ勝利の成長を感じる瞬間である。「自分の恥も他人の恥もひっくるめて書くといい」。操の台詞は書く側に覚悟を迫る言葉でもあり、勝利を呪縛する言葉にもなっただろう。

そして最後に再び、「犯人はお前だ!」が登場し、物語は円環的に幕を閉じる。冒頭のシーンでの勝利の台詞「それだけ時間をかけたから、読者は快感をおぼえるんだよ、『お前が犯人だ!』って探偵の口上に」が俄然、生きてくる。

「その伏線てヤツが面倒臭いんだよ」とのニーズに答えを出しつつも、時間をかけたからこそ得られる読者の快感をも、最後にしっかり併せて示してみる。これは、辻真先ならではの熟練のテクニックと言える。ミステリランキング三冠は伊達ではない。老大家の面目躍如とはこのことであろう。お見事。

たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説

たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説

  • 作者:辻 真先
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Kindle版
 

〈昭和ミステリ〉シリーズの感想はこちらから

ネタバレ記事を読んだあとかもしれないけど、『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』を先に読んだ方がいいと思う。

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