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『ぼくのキャノン』池上永一 旧日本軍の残したカノン砲が信仰を集める世界

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池上永一の六作目

2003年刊行。作者の池上永一(いけがみえいいち)は1970年生まれ。『バガージマヌパナス』で第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。本作は、『バガージマヌパナス』『風車祭』『あたしのマブイ見ませんでしたか』『レキオス』『夏化粧』に続く六作目の作品になる。

文春文庫版は2006年に登場。 

2010年には角川文庫版も登場している。

ぼくのキャノン (角川文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

南の島が好きな方、民俗学的なネタが好きな方、沖縄の歴史に興味がある方、ちょっと変わったファンタジーを読んでみたい方、池上永一作品を読んでみたいと思っていた方におススメ。

あらすじ

沖縄のとある村落。この地には未だ旧日本軍のカノン砲が残され、人々の信仰を集めていた。戦後まもなくから始まるマカト婆による神権政治は数々の危難を乗り越え、未だ健在であった。秘密結社「寿隊」「男衆」。天才的盗人チヨ。そして闇の暗殺者樹王。独自の政権を築き上げてきたマカト婆であったが、村には決して知られてはならない恐るべき秘密があった。

ココからネタバレ

池上永一のオキナワモノ

今回もお得意のオキナワファンタジー。舞台としてはいちおう現代の日本のようだけど、戦時中に残されたキャノン砲を「キャノン様」として信仰の対象にし、敵対者は「寿隊」の色仕掛けで骨抜きにし、それでもなびかぬとみれば暗殺者樹王の力で命を奪う。『レキオス』のハチャメチャぶりに較べるとややおとなしめだが、それでも設定はかなりぶっ飛んでいる。

生き残るために犠牲にしたもの

コミカルな部分とシリアスな部分の匙加減が微妙。というか、今回はコミカル部分が軽すぎて「オキナワ」の歴史的重さと釣り合いが取れていない。バランスとしてどうかと思った。 終盤明らかになる、オキナワ戦の惨禍と、戦後村が生きるために踏みにじってきたもの。重いテーマなんだけど、それを何も知らない小学生の純粋な想いだけで背負わせてしまうのは、美しくはあるのだけど無理矢理感が漂う。

実力行使に出てきた敵に対して、キャノン様が取った手段はやっぱり実力行使。この作家的に、自衛のための武力の行使はありってことなんだろうな。

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