ネコショカ

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グイン・サーガ外伝26巻『黄金の盾』円城寺忍デビュー作


栗本薫亡きあとのグインサーガ外伝四作目

栗本薫亡き後の「グインサーガ」は、まず外伝作品からリスタートした。久美沙織による『星降る草原』牧野修による『リアード武俠傳奇・伝』宵野ゆめによる『宿命の宝冠』と続いて、本日ご紹介するの円城寺忍による『黄金の盾』である

本作は2014年刊行作品。最前の三作は全て今岡清のプロデュースによる『グイン・サーガ・ ワールド』に掲載されていたものだったが、こちらは少し毛色が違う。

黄金の盾 (ハヤカワ文庫JA)

作者の円城寺忍は年齢非公開。グインサーガトリビュートコンテストに応募した「アムブラの休日」が優秀賞に選ばれ、その後、本作『黄金の盾』を自主的に書きあげ早川編集部に持ち込み出版にまでこぎつけたという猛者である。

出版までの詳しい経緯はハヤカワオンラインのこちらのページも良かったらどうぞ。

www.hayakawa-online.co.jp

あらすじ

幼くして両親を失ったヴァルーサは、双子の弟ヴィマルと共に、曲芸団の一員として日々を過ごしていた。ある時、快楽の都、クムのタイスを訪れたヴァルーサは、そこでフロルスとガンダル、二人の剣闘士に出会う。それは後に豹頭王グインの愛妾となる彼女の、数奇な運命の始まりだった。

グインの相似形としてのガンダル

ヴァルーサに関しては外伝1巻の『七人の魔導師』以来長らく登場せず(最近やっと出番があったが)、クム出身の踊り子という程度の設定しかなかった。これに対して、円城寺忍は想像を膨らませて、ヴァルーサはクムの大闘王ガンダルの想い人であったという「なんだってー!」級の後付設定をぶち込んできた。

アモンとの戦いの結果として記憶を失うことになったグインが、旅の大道芸人グンドとしてタイス入りした際に登場するのがガンダルである。本作で登場するガンダルは、グインと共通する要素が多数盛り込まれている。以下、具体例を挙げてみよう。

・大灰色猿(グレイエイプ)と戦うことになる
・大灰色猿との戦いでピンチに陥った際に、助けが入る
・大灰色猿との戦いで助けてくれた男はその後非業の死を遂げる
・顔面を兜で覆い素顔を晒さなくなる
・初めて愛した女性とは不幸な別離を迎える

ここまで共通していると、さすがにこれは狙って書いているのであろう。かつてガンダルを愛したヴァルーサは、やがてグインを愛するようになる。グインの相似形としてのガンダル像が提示されることで、ヴァルーサの劇的な運命もより際立ってくるわけだ。

ちなみに全身を鎧で覆ったガンダルのビジュアルはこんな感じ。わたし的にはフルアーマーガンダムと呼称していた。

グイン・サーガ116 闘鬼

グイン・サーガ116 闘鬼

 

正伝の隙間を綺麗に埋める

でもちょっと待って?ガンダルはグンド(グイン)に殺されているのだから、ヴァルーサにとってグインは仇なのではないか?と、誰もが思うところだろう。作者は当然このツッコミを予想して、育ての父であるフロルスのキャラクター造形を怠りなく仕上げているのだ。

ガンダル同様に、剣闘士として死を迎えるフロルスは、かねてより剣闘士が剣闘士として正々堂々と戦い、その結果として死ぬのであればそれは名誉なことなのだから、決して相手を恨んではいけないとヴァルーサに告げていた。

フロルスの死に際しては、ヴァルーサはその言葉を素直には受け入れられなかった。しかし五年余の歳月と幾多の試練を経て、彼女はようやく養父の遺志を受け止めるが出来るようになる。これは、十代の頃にガンダルの好意を素直に受け取れなかった悔恨とも相まって、ヴァルーサの成長を垣間見ることが出来る部分である。

また、何故、ガンダルは素顔を晒さなくなったのか、グンド(グイン)の対戦時にヴァルーサが登場しなかった理由、そしてクム出身のヴァルーサはどうしてサイロンのまじない小路に流れ着いたのかなどなど、本作では正伝では描かれなかった隙間エピソードをきっちり埋めてきており、かゆいところに手が届く気の遣いようも、古参のグインサーガファンとしては嬉しい所だろう。新人でこれだけ書けるのは凄いよね。

円城寺忍はもう書かないの?

 ちなみに、円城寺忍は本作を書いたきり、その後は一作も書いていない。経歴を見ると東京大学大学院工業系研究科博士課程修了とあるので、本業が忙しく、作家業をやっている暇はない方なのかもしれない。

ただ、デビュー作でこれだけ書けた方なので、このまま埋もれてしまうのは正直勿体ない。正伝の執筆者として入ってもらっても良いのではないかと思うのだが、いかがだろうか?

黄金の盾 (ハヤカワ文庫JA)

黄金の盾 (ハヤカワ文庫JA)