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『こわれもの』浦賀和宏 終盤の怒涛の展開に驚かされる一作

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浦賀和宏の初徳間作品

2002年刊行作品。 デビュー作の『記憶の果て』以降、主として安藤直樹シリーズを中心に執筆活動を続けてきた浦賀和宏(うらがかずひろ)だが、2001年の『眠りの牢獄』『彼女は存在しない』あたりから、非安藤モノも書くようになってきた。『こわれもの』は、非安藤シリーズとしては三作目の作品となる。

文庫化されたのはかなり後のことで、徳間文庫版は2013年になってやっと刊行された。

浦賀和宏は2020年の2月に脳出血のため41歳の若さで早逝されている。このためかどうかは不明だが、2020年の6月には徳間書店から、新装版が登場している。

こわれもの (徳間文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

講談社系以外の浦賀和宏作品を読んでみたい方。浦賀和宏の安藤シリーズが生理的に無理だった方、意外な展開と怒涛の展開、とにかくラストでビックリしたい方、ミステリ愛好家であればどなたでもおススメ!

あらすじ

売れっ子漫画家の陣内龍二は最愛のフィアンセ里美を交通事故で失う。自暴自棄となった陣内は自らの描く人気作品のヒロインを作中で殺してしまう。殺到するファンからの抗議。しかしその中には里美の死を予言するかのような不気味な投書が紛れ込んでいた。差出人は48歳の中年女性神崎美佐。神崎は予知能力者なのか?次々と予知を的中させていく神崎の行動に陣内は巻き込まれていく。

ここからネタバレ

非講談社系としては二作目

トクマ・ノベルズのための書き下ろし作品である。

浦賀和宏はメフィスト賞出身なので、デビュー以降しばらくは講談社からの作品刊行が主であった。しかし2001年の幻冬舎『彼女は存在しない』を皮切りに、他の出版社からも作品を出すようになる。本作は非講談社系の版元としては二社目、徳間書店からの登場であった。

作品の幅を広げつつあった浦賀和宏

デビュー作の『記憶の果て』はアンチミステリ的なテイストを濃厚に含む作品だった。それ故なのか、講談社から出ていた安藤シリーズはミステリとしてかなり特殊な内容のものが多かった。ところが、非講談社系の浦賀作品ではその殻を破ろうとしていたのか、意図的にこれまでのスタイルとは違った作品を出してきているのである。

徳間書店はこの当時、ミステリ系のコンテンツを増強する方向性を打ち出していたように記憶している。版元の意向であったのか、作家本人の意向であったのかは定かではないが、期せずして浦賀和宏の新しい作風が世に出たわけで、ファンとしては喜ばしい限りなのであった。

ふつうのミステリも書ける!

安藤シリーズでは、ミステリの枠からあっさり飛び出してしまった浦賀和宏だが、この類の作品ばかりを書いてるわけにもいかないだろうし、今後どうなるのかとちょっぴり不安に思っていたりもしたわたくし。

それだけに、『彼女は存在しない』に続いてしっかりとしたミステリ作品が書けることを、本作で証明してくれたのは嬉しい限り。広い層の読み手に訴求できるミステリ作家に浦賀和宏は成長しつつあったのである。リーダビリティも明らかに向上してたよね。

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