遅々として進まない氷室冴子作品の全作感想だが、本日は第三作『クララ白書』について語りたい。書いているうちに、どんどん長くなってしまったので、今回は目次付きである。おまけで、クララ舎鉄の掟と、時事ネタ解説も付けておいたのでお楽しみに。
- おススメ度、こんな方におススメ!
- 氷室冴子、初のヒットシリーズ
- 続編、シリーズ化の壁を越えた作品
- 愛蔵版と再文庫版
- あらすじ
- クララ舎での一年間を綴る
- 外伝作品もある
- クララ舎鉄の掟
- 時事ネタ解説
- 映画版もある
- その他の氷室冴子作品の感想
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
女子校寄宿舎モノが好きな方、氷室冴子ファンの方、ドタバタコメディが好きな方、70年代の女子高生生活を懐かしみたい方におススメ!
氷室冴子、初のヒットシリーズ
本作は1980(昭和55)年に刊行されたものである。なんともはや40年近く前の作品になってしまった。
氷室冴子としては『白い少女たち』『さようならアルルカン』に続く三作目であり、最初のヒットシリーズである。本作のヒットが無ければ、後の「ジャパネスク」シリーズもジブリアニメにもなった「海がきこえる」も存在していなかったかもしれないのである。少女小説の歴史上でも、きわめて重要な位置づけにある作品と言えるのではないだろうか。
カバーイラストには草創期の「an・an」にイラストを提供し、70年代~80年代にかけて絶大な人気を誇ったイラストレータ原田治が起用されており、版元側の力の入りようが伺える。原田治って誰?という方は、こちらの画像検索結果を見て頂ければ、一つくらい記憶にあるのではないだろうか?
本文中のイラストもぱーとIでは原田治が手掛けているのだが、売れっ子を連続起用するのは難しかったのか、ぱーとIIでは表紙のみとなり、本文イラストは杉村ひろみが担当している。
続編、シリーズ化の壁を越えた作品
『クララ白書』は1980年の4月に、そして『クララ白書ぱーとII』は同年の12月に刊行されているが、ぱーとIIは簡単に世に出せたわけでは無かった。氷室冴子責任監修による『氷室冴子読本』には以下の本人コメントが残されている。
『クララ白書』を書いたあと、「まだ続編が書きたいなー」と思ったのですが、当時はシリーズ化とか続編という発想じたいが、この業界にまだなかった。「続編が書きたいんですけど」といってもダメで、しこしこ『クララ白書ぱーとII』を書いたあともオクラ入り。『クララ白書』のあとに『恋する女たち』が出て、ようやくオクラ入りの『クララ白書ぱーとII』が日の目をみました。
『氷室冴子読本』p196より
今では、ヒット作の続編、シリーズ化は当たり前のように思えるが、当時は版元側としてもそのような意識は無かったというのである。
つまり、本作はライトノベル作品の続編刊行、シリーズ化の先駆とも言える作品なのである。
愛蔵版と再文庫版
1996年に単行本サイズの愛蔵版が登場している。Wikipediaによるとかなりの加筆修正が施されているようだ。
Saeko's early collection(愛蔵版) - 上記加筆修正版
クララ白書I (1996年05月)
クララ白書II (1996年07月)
(インターネット検索をするなど現代風に書き換えられている。また聖子ちゃんやマッチといったオリジナル版発売当時のアイドルの名前が取り除かれている。話の本筋に変更はない。氷室は、あとがきで、今の作品として初めての方にも読んでもらうため、あえて大幅に手を入れたと述べている。)
クララ白書〈1〉 (Saeko’s early collection〈volume.3〉)
- 作者: 氷室冴子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1996/05/24
- メディア: 単行本
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クララ白書〈2〉 (Saeko’s early collection〈volume.4〉)
- 作者: 氷室冴子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1996/07/26
- メディア: 単行本
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さらに2001年にはコバルトの新装版まで登場。こちらには、更に現代風のアレンジが施され、なんと携帯電話やメールの概念まで登場しているらしい!
なお、新装版ぱーとIの解説は桑原水菜、ぱーとIIの解説は榎木洋子という豪華さである。
コバルト文庫新装版 - イラスト:谷川史子 - 愛蔵版をさらに加筆修正
クララ白書I (2001年06月)
クララ白書II (2001年07月)
(オリジナルや愛蔵版にない携帯電話やメールの描写がある。)
新装版についても長らく、絶版状態であったが、2014年にKindle版が登場し、電子書籍ではあるが、入手しやすい環境になっている。しかし、このしーのビジュアルはもはや別人の趣きである……。
あらすじ
徳心学園中学三年の"しーの"こと桂木しのぶは、父親の転勤に伴い、学園の寄宿舎であるクララ舎に入ることになる。編入生に課せられたのは食糧庫と調理室に潜入し、在舎する45人分のドーナツを揚げて振る舞うという過酷な試練だった。しーのは同期編入の、マッキ―、菊花と共にこの難題に立ち向かうのだが……。
ここからネタバレ
クララ舎での一年間を綴る
本作では、ぱーと1が、中学三年の四月から秋の文化祭まで、ぱーと2で文化祭後から、冬休み明けまでの期間のエピソードを収録している。しーの、マッキ―、菊花たち三人のクララ舎での一年間の体験が綴られているわけである。
なお、クララ舎は中等部の寄宿舎で、高等部の寄宿舎はアグネス舎である。
では、今回も各エピソードごとにツッコミを入れていこう。
ぱーとI:第一章 ドーナツ騒動
掴みのエピソードとしては完璧。ヒロインの桂木しのぶ、鉈ふりマッキ―こと紺野蒔子、おしゃべりな佐倉菊花。三人それぞれの性格紹介と、特異な空間としての女子寄宿舎暮らしの面白さが凝縮された一編である。
レギュラー格の登場人物である、クララ舎長の有間皇子こと有間美貴子や、生徒会長の三巻、アグネス舎五年の相沢虹子なども既にこの話から登場している。
施錠された食糧庫と調理室に潜入し、45人分のドーナツを揚げるというのは無理ゲーに近い要求であるかに見える。しかし不慣れな編入生を新しい環境に馴染ませるための、シスターまでも抱き込んだ特別イベントであったことが最後にわかり、綺麗にオチがついている。
ぱーとI:第二章 ストレインジャーI
第二章は、マッキ―こと紺野蒔子の紹介エピソードである。旭川の酒蔵、男道酒造の社長令嬢。中等部屈指の美人で、おっとりしているように見えて、切れると何をするかわからない鉈ふりマッキーの魅力が余すところなく描かれた一編である。
とは言いながらも、鶏やら愛犬についてのエピソードは、あまりにもアレすぎて、書かれた当時でもドン引きであったかもしれないが、現在では完全にアウトである。
ぱーとI:第三章 下級生登場+1(プラスワン)
ツンデレ下級生鈴木夢見登場回である。
このシリーズの絶妙なところは、ふつうであれば、中学一年から物語がスタートするところを、物語の冒頭からしーのたちを中高一貫校の中学三年生に設定していることだろう。最初から下級生もいれば、上級生もいるわけで、物語にグッと奥行が増してくるのである。
夢見の従弟とで、しーののボーイフレンド(もう最近はこの表現使わないよね)になる寿家光太郎も、このエピソードからの登場となる。
ぱーとI:第四章 ストレインジャーII
三人組のもう一人、うどん屋チェーン讃岐屋の社長令嬢、佐倉菊花の紹介エピソードである。普段はおしゃべりで、なんでもあけすけに話す菊花に、どうやら秘密があるようだ。しかも、夜な夜な、お隣の高等部アグネス舎の先輩の下に通っているらしい!
煽るだけ煽ってからの意外な結末は、氷室冴子の真骨頂とも言えるお話の作り方である。同級生の中に、早くも将来を見据えた行動をしている者がいる。親友が偉く見えてしまう瞬間というのは、誰にも覚えがあるのではないだろうか。
ぱーとI:第五章 その前夜(イブ)
文化祭回。高等科の古典文学研究会の演劇企画に駆り出されるしーの。ここできらめく虹子女史やら、奇跡の高城(たかしろ)さん、実は残念美人だった白路さんなどのアグネス勢が本領を発揮。濃いキャラクターを持つ上級生が居ると学園モノは盛り上がるのである。
文化祭エピソードだが、描かれるのはその前夜(イブ)まで。不安とときめきと決意を秘めて更けていく文化祭前夜、ただ劇のセリフを連ねていくだけなのになんでこんなに面白いのだろう。祭の前の高揚、非日常感、ワクワク感が余すところなく描かれた良エピソードなのである。ミュージカル『ウエストサイド物語』の「トゥナイト」とか、『レ・ミゼラブル』の「ワンデイモア」とか、BGMで流すと浸れそうな気がする。
ぱーとII:第一章 ラブレター大作戦
文化祭で目立った甲斐があってか、なんとしーのにラブレターが!
「みんな祝ってちょうだいよ、あたし、誰かに好かれちゃった 」
このテンションマックスのしーののセリフに、ほのぼのしてしまう高齢読者なのであった。それは確かに嬉しい。
初デートでの話題は?服装は?何を注文すればいいの?70年代的な恋愛観が良くわかる。緊張感を高めていって、最後はドタバタコメディで落とすという、氷室冴子お得意のパターンがしっかり決まっている。
嗜みとして読んで起きたい小説作品として、モンゴメリの『赤毛のアン』が出てくるのは判るけど、半村良の『妖星伝』や、星新一の『ボッコちゃん』が出てくるあたりに時代を感じる。
もっとも、しーの愛読書は、更に以前に活躍した、吉屋信子や、大林清、西條八十、北条誠あたりなわけで、相当に渋いセンスと言ってよいかと思われる。
ぱーとII:第二章 幻猫ユリウスの怪
高等部の生徒の寄宿舎破り。そして中等部の後輩たちにも新たな疑惑が?自分が口外したら、後輩が退学になってしまう。ハラハラドキドキモードから、ギャグオチで締める、お得意のパターン。前のエピソードもそうだったけど「緊張とその緩和」、お話の型がしっかり出来ているので、結末も想像できてしまうのだが、それでも楽しめてしまうのはさすが。
ぱーとII:第三章 クリスマス・ラプソディ
文化祭に並ぶ学園のメジャーイベント、クリスマスバザーにまつわるお話。今回は恋する乙女モードのマッキ―中心のエピソード。美人は意外に美男子を選ばない。
女子寄宿舎独特の家庭教師制度(上様!)とか、ミッション系ならではのバザーイベントが楽しい。手作りグッズを作って出品しないといけないとは、女子高の世界はやはり大変なのである。
ちなみに作中に登場するポールタウンは札幌の地下街のこと。
ぱーとII:第四章 菊花危機一髪
菊花のマンガ家デビュー目前。ところがその秘密が、大のマンガ嫌いである父親にバレそうになってしまい……。というところから、どんどん話が転がっていく、勘違いから始まるドタバタ展開が笑える。
思い込みの強い主人公が、謎のセルフジャッジからドンドン暴走していくのは、後々の氷室ヒロインに共通する要素で、原形はもうこの時点で出来上がっていたのだなと実感できるのである。
外伝作品もある
なお『クララ白書』では、作中で異彩を放った上級生三人、相沢虹子(あいざわにじこ)、加藤白路(かとうしろじ)、高城濃子(たかぎのうこ)をメインに据えた番外編が存在する。雑誌「Cobalt」に載ったっきり、微妙な分量であったためか、その後文庫などに収まることが無く、なかなか読めずにいたのだが2012年刊行の『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ』内に収録され、晴れて読むことができるようになった。
クララ舎鉄の掟
ここからはおまけ。
前作『白い少女たち』の感想でも少し触れたが、女子寄宿舎は、部外者の想像を絶した異世界である。氷室冴子は『白い少女たち』を書いてみて、女子寄宿舎の独特のルール、習慣が小説のネタになりうることを実感したのではないだろうか。
ここでは、クララ舎(アグネス舎含む)のルール、習慣についてまとめてみた。
クララ舎の門限と生活時間
女子寄宿舎での生活時間は厳しく管理されている。特に中等部(クララ舎)は厳しめのようである。
第一門限:16時 帰宅部生
第二門限:17時30分 図書館に残る場合。図書館責任者の証明書が必要
文化祭時:19時30分 文化祭前だけの特別門限
夕食:18時
黙学室で勉強:19時半 会話基本禁止。クララ舎のみ(高等部は自室で勉強できる)
消灯:22時 早っ!
延灯:1時半 高等部の1、2年は届を出すとこの時間まで勉強できる
受験生消灯:3時 高等部の3年はここまでオッケー
シスターの夜巡視:10時、12時、2時の三回
上級生の洗濯物の上に自分の洗濯物を干してはいけない
下着類を干す際には、そのまま干してはダメで、ハンカチやエプロンを上に被せておくのが乙女のたしなみであるらしい。
上級生に失礼があったら花を届ける
上級生に無礼を働いてしまった場合、謝罪として一定期間花を毎日届けなければならない。花の種別、届ける期間はその罪状によって変動する。
平日は他生徒の部屋を訪問してはいけない
休日のみオッケーらしい。高等部(アグネス舎)と中等部(クララ舎)間の行き来は禁止されているが、あまり守られていない模様。
ちなみに、クララ舎は四人部屋、二人部屋がメインで、舎長(有間皇子)だけ一人部屋が許される。アグネス舎は二人部屋メインで、一人部屋も多数。
毎月の報告書が親元に届く
成績やら素行についての報告書がシスター経由で、毎月親元に届けられるらしい。恐ろしい世界である。
届いた手紙は検閲される
事前に申請(入学前の調査書で、係累のある人を書かされる)し承認された家族、親戚以外からの手紙は即開封され、検閲される。名前を騙ったとしても、消印レベルでチェックされ疑わしい場合は開封。
男性からの手紙は開封されるばかりか、音読させられシスターに説教までされてしまう。
家庭教師を呼ぶのはアリ
14~5人の生徒が男性の家庭教師をクララ舎内に呼んでいる。もちろん自室へ入るのはNGで、寄宿舎入口に近い「ガラスの部屋」と呼ばれる、内部が丸見えの状態で指導を受ける。大奥に入ることが出来る数少ない男性という意味合いから、彼らは「上様」と呼ばれている。
時事ネタ解説
本作は1970年代に書かれた作品ということで、現在では首をかしげてしまうような、時代感のある描写が随所に含まれている。以下、判る限りで解説してみよう。
なお、こちらは改訂版以降では改訂、削除されている可能性がある。
快楽のイチジク浣腸
物語の冒頭から、「勝負が決まらない」としーのが悩んでいるが、便秘解消の市販薬がイチジク浣腸である。相応に効果はあるのだと思うが、やはりその使用形態的に、なかなか十代女子は手が出しにくい。
最近ではあまりやらなくなったが、かつてはテレビCMがバンバン流れていた。お通じの悩みは、今も昔も変わらないのだ。こちらは、稀少な山下達郎バージョンのCM動画。便秘解消のメタファー的な見せ方がすごい。
「ボタン戦争は終わった」
「ボタン戦争」とはボタン一つ押すだけで核ミサイルを発射することが出来た、冷戦時代の核開発競争を揶揄した言葉……、ではなく(そういう意味もあったけど)。ここでは1970年代後半に、メーカー各社がしのぎを削った、電卓の小型化、薄型化競争を指す言葉である。
シャープが1978年に発売した、物理ボタンを排したタッチボタン式の薄型電卓LC-8030、LC-8130のキャッチコピーが「ボタン戦争は終わった」であった。本作の発表は1980年であり、既に物理ボタンの無い電卓は一般化していたのであろう。中等部の生徒会では既に使われていた模様。
画像はこちら参照のこと。
もっとも、電卓の使い勝手的に物理ボタンの存在は捨てがたいものがあり、現在ではやはり物理ボタンを有するタイプの方が、多数派になっているのではないかと思われる。スマホのアプリなんかだと、もちろん物理ボタンなんて無いけど。
交換ノート(日記)
菊花が5年の向井さんと謎のノート交換をしている現場が目撃されている。
友人、もしくは異性間でノートを共有し、相互にメッセージを書き込んで交換を繰り返す行為を指す。80年代~90年代はけっこう流行っていた実感があるけど、実はまだ現役?LINEや各種SNS全盛の時代に、どれだけ使われているか疑問だが、意外に小学生あたりだと未だ需要があったりするのだろうか。
シャワレット
アグネス舎に入り浸る菊花を指して、「アグネスのトイレにはシャワレットでも取り付けてあるわけ?」という疑問が呈されている。
シャワレットとはもちろん温水洗浄便座のことである。1980年はTOTOからウォシュレットが発売された年だが、まだまだ一般層への浸透はしておらず、十代女子にとっては羨望のアイテムであったに違いない。
ミナトのヨーコ
1975年にリリースされた、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』に由来する。「アンタ、あの娘のなんなのさ」のキメ台詞と共に、大流行した。
ラジカセにテープ
配信が主流になっている現在では、もはや考えられないかもしれないが、当時のワカモノが手軽に音楽を聴く手段と言えばラジカセであった。ちなみに、ウォークマンは1979年に登場しているが、未だ一般の中高生に手が出せるものではなかった(クララの生徒はお金持ちの子女が多いから買えたかもだけど)。
そして音声を記録するメディアがカセットテープ。これをガチャガチャととっかえひっかえ、ラジカセにセットして音楽を聴いていたのである。
クララ白書 ぱーと2 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52D)
- 作者: 氷室冴子,原田治
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1980/12/10
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『クララ白書』の高等部編『アグネス白書』の感想はこちらからどうぞ
映画版もある
映画版もネタバレするので注意!
1985年にアイドルグループ少女隊の主演で映画版が作られている。監督は河崎義祐。
内容的にはいかにもな昭和のアイドル映画だが、1980年代の雰囲気を感じることが出来て、同世代人としては懐かしく見ることが出来た。
最大の見どころは「ドーナツ騒動」直後の全体ダンスシーン。これメチャメチャ楽しい。年取ってから見ると、若さって素晴らしい!と思ってしまう。
キャスティング
- 桂木しのぶ:安原麗子 ※少女隊
- 佐倉菊花:市川三恵子 ※少女隊
- 紺野蒔子:藍田美豊 ※少女隊
- 三巻順子:菊地陽子
- 鈴木夢見:浦西真理子
- 寿家光太郎:大村波彦
- ミスター・アン:樹木希林
- 高城濃子:大原真紀子
- 有馬美貴子:宮野亜希子
- 加藤白路:家入未知
- ドナミ・玲子:岡安裕美
- 桂木洋介:宝田明
- 桂木芳子:佐藤オリエ
- 桂木利恵子:松本伊代
- 桂木健一:谷村隆之
- 佐倉源蔵:東八郎
- 佐倉スミ子:日色ともゑ
小説版との違いは以下の通り
舞台が東京になっている
冒頭、北海道の転勤先へと赴く家族たちをしーのが見送るシーンがある。これにより舞台が北海道ではないことが明確にわかる。
直接的な描写はないのだが、光太郎の通う大学が「武蔵野美術大学」となっており、おそらく、映画版の舞台は東京なのではないかと思われる。
メインの三人の設定が微妙に違う
桂木家
愛称がしーの→しーこに。
姉の利恵子(松本伊代だ!)と弟の健一が居る。父親は小説版ではサラリーマンだったが、映画版では警察学校の校長先生に。また、母親は少年鑑別員の指導官との設定になっている。
佐倉家
愛称が菊花→きーこに。
小説版ではうどん屋チェーンの社長の末娘だったが、映画版では八百屋の三人きょうだい(妹と弟がいる)の長女に。
紺野家
愛称はマッキーそのまま。
実家の設定は変わらないが、マッキーの将来の夢が「ミュージカルスター」に。文化祭では本番直前で高城さんが過労で倒れ、マッキーが代役を務めることに。
鉈振りマッキー伝説や、愛犬殺しネタはさすがにカットされ、異常性がだいぶ控えめに描写されている。アイドル映画だしね。
全然役割が変わってしまった人も
細かな違いから、抜本的な部分までかなり手が入っている。
小説版では中等部生徒会長だった三巻がクララ舎長に。その反動なのか、小説版ではクララ舎長であった、有馬美貴子はなんとアグネス舎長にされてしまっている。結果として本来アグネス舎長であった相沢虹子の存在が映画版では抹消されている。
奇跡の高城さんは健在。白路さんも同様だが、こちらはキャラクター属性が小説版の楚々たる佳人キャラから、秀才キャラに変更されている。
全体の尺の問題か、寿家光太郎の出番は大幅にカット。呼び名も「すけさん」に変更されている。
鈴木夢見は映画版でも登場し、しっかり例の騎馬戦シーンもあるのだが、落馬したしーのが上半身丸見えになるシーンはカットされている。アイドル映画だしね。
ドナミ・玲子のキャラ立ちがすごい
この映画版は原作『クララ白書』『アグネス白書』とされているが、エピソードの大部分は『クララ白書』のものが採用されている。それでは『アグネス白書』から使われている要素は何なのかというとドナミ・玲子の存在なのである。
ベルギー製の乗馬鞭を振るい、下級生たちに上下関係の厳しさを教えるドナミ・玲子には、ユキ、マユミ、エツ子、ケイコと四人のヤンキー軍団が付き従う。鞭をビシバシ振り回すキャラクターの映像でのインパクトは絶大で、作中でもメチャメチャ異彩を放つ存在になっている。奇跡の高城さんが余裕で霞むほどのインパクトがあった(笑)。
その他の氷室冴子作品の感想
〇小説作品
『白い少女たち』 / 『さようならアルルカン』 / 『クララ白書』 / 『アグネス白書』 / 『恋する女たち』 / 『雑居時代』 / 『ざ・ちぇんじ!』 / 『少女小説家は死なない! 』 / 『蕨ヶ丘物語』 / 『海がきこえる』 / 『海がきこえるⅡ〜アイがあるから〜』 / 『さようならアルルカン/白い少女たち(2020年版)』
〇エッセイ
『いっぱしの女』 / 『冴子の母娘草』/ 『冴子の東京物語』
〇その他