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グイン・サーガ続篇146巻『雲雀とイリス』 マリウスとオクタヴィアの再会

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>>グインサーガ147『闇中の星』の感想も書きました。

続篇グインサーガ16冊目!

2019年刊行作品。2019年はグインサーガ40周年であり、栗本薫の没後10年にあたるメモリアルイヤーである。

2013年から始まった続篇グインサーガは五代ゆうと宵野ゆめの二人執筆体制での刊行が続いていた。しかし2016年の140巻『ヤーンの虜』以降、宵野ゆめが病気療養のため降板。2017年の141巻『風雲のヤガ』以降は五代ゆうの一人執筆体制での刊行が続いている。2018年以降は、だいたい年間二冊のペースでリリースされており、先日紹介した145巻『水晶宮の影』に続いて登場したのが、本日ご紹介する146巻『雲雀(ひばり)とイリス』である。今年はこれで最後かな?

 

雲雀とイリス (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ

クリスタルパレスに潜入したグインは、驚くべき人物に出会う。それは、かつてのクリスタル大公であり、国王レムスに対して叛旗を翻したアルド・ナリスその人であった。一方、沿海州ではパロへの侵攻を巡ってアグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンが熱弁を振るう。旧モンゴールの残党に誘拐されたドリアンのその後。そしてアル・ディーンことマリウスは因縁深き、サイロンへと再び足を踏み入れようとしていた。

この巻で起こること

まず冒頭は145巻『水晶宮の影』の続き。復活したアルド・ナリスと対峙したグインのお話。そしてパロへの派兵をめぐる沿海州会議の状況。また、ドリアンをめぐる旧モンゴール残党のエピソード。そして、最後はケイロニアに舞台が移り、サイロン入りしたマリウスとリギアのその後が描かれる。

タイトルの『雲雀とイリス』は、口喧しくさえずる雲雀がマリウス、そして月(イリス)は言うまでもなくオクタヴィアのことを指す。

したがって表紙絵はマリウス。その頭上には冴え冴えとした月(イリス)が浮かぶ。運命的な大恋愛の果てに結婚したものの、人生観の違いにより別離を選んだふたりの距離を象徴するかのような絵柄と言えるだろう。

あと、細かいツッコミとしてp50で「グイン」が「クイン」になっていたり、p199で時間の単位で秒を使っていたり(タルになる筈)、校正さんと監修さんはもう少し頑張って欲しい。

では、以下、今回のストーリー展開をかいつまんでご紹介していこう。

グイン、アルド・ナリスに再会

例の記憶障害でグイン覚えてないけど。

クリスタルでの虐殺劇はヤンダルがやらせていることで、ナリスは関与していない。でも、ディモスを惑わしたのはやはりナリスらしい。リンダはナリスによって保護されていて、未だイシュトヴァーンは手出しをしていない様子。というか、未だにイシュトヴァーンは廃人モードだ。しかしこういう時にも全く言及されないレムスって……。

ヤンダルの傀儡ではないことをナリスは再三主張。純粋な知的好奇心だけで動いていると言うけれど、どこまで信じていいものか。プライド高い人だから、いずれは裏切るんだろうね。

シルヴィアをナリスは手中に収めているので、対グインの切り札としては最強レベル。しかし、今回は顔見せ程度ってことで、お互いに矛を収めた模様。

グイン、ユリウス、パリスと、いずれもシルヴィアと関係のあった三人が顔を突き合わせているのはなんとも気まずい状況のように見える。しかし相変わらずグインの器量の大きさは人間離れしている。

なお、ナリスが仕掛けた呪縛の魔導の中で、この世界に来る前のグインの過去が明かされている。箇条書きでまとめるとこんな感じ。

・グインは星船ランドシア号の船長だった
・<調整者>と汎銀河連合を裏切った罪でこの世界に心だけで送り込まれた
・グインは女神(グインを夫と呼ぶ)によってつくられた存在

アグラーヤのパロ派兵提案否決される

イシュトヴァーンの襲撃でもはや国家の態をなさなくなったパロに対して、ボルゴ・ヴァレン率いるアグラーヤは派兵を要請。ここに第二回?沿海州会議がヴァラキアで開催される。12巻『紅の密使』以来かな?

でも、パロは海を持たない内陸国家なのに、海軍力しか強みが無い沿海州が攻め込もうというのは無理のある話。イシュトヴァーンに取って返されて、本国を急襲されればたちまち詰む案件なので、アグラーヤ王の提案が満場一致で否決されるのは無理のないところ。ボルゴ・ヴァレン的には、パロ王家の血を引くアルミナであれば、古代機械を動かす能力があるのではないかと、若干無理っぽい野心を抱いているみたい。アグラーヤは単独でもパロ派兵をやりそう。

気になるのは、会議終了後に個人的な援助をアグラーヤ王に申し出たアンダヌスの思惑。ファビアンによってもたらされた謎のアイテム(青と赤の光がきらきらしてるやつ)はいったい何なのか?アンダヌスを真顔にさせるくらいなのだから、相当にワケアリのアイテムなのではないかと推測できる。

そもそも、ファビアンの雇用主は依然として不明のままである。ブランは依然としてカメロンの死の衝撃から立ち直れていないし、ヨナが合流したとはいえヴァレリウスも半病人状態。沿海州はまだまだキナ臭い状態が続きそうである。

なお、今回の会議には現時点での沿海州諸国首脳陣がそろっていたので、備忘録として書き留めておこう。

  • アグラーヤ:ボルゴ・ヴァレン王、首相ダゴン・ヴォルフ、海軍提督トール・ダリウ、内大臣カルス・バール
  • ヴァラキア:ロータス・トレヴァーン公、海軍提督(オルニウス号船長兼務)グンド、内大臣エルム・ガルト
  • レンティア:イーゴ・ネアン王太子、摂政、海軍大臣、提督タン・ハウゼン
  • トラキア自治領:オルロック伯、エリシア夫人、息子オルロス
  • イフリキア:総督コルヴィヌス、副総督ガンダルス、ミロクの僧官ガイ・シン
  • 海人族:族長ハズリック・ケンドル、弟ケイン・ケンドル
  • ライゴール:アンダヌス議長

なお、ダゴン・ヴォルフは沿海州会議の永久議長を兼務。レンティアのイーゴ・ネアンは未だに王太子のままですな。アウロラちゃん実家に戻ったら速攻で女王になれちゃいそうな気がする。

アストリアス、ドリアンを奪い逃走

旧モンゴールの残党によってゴーラ宮廷から誘拐され、反イシュトヴァーンの旗印として担がれそうになっていたドリアン。しかし、良心の呵責に耐えかねたのか、想い人アムネリスの遺児を大人の陰謀から守りたかったのか、アストリアスがドリアンを誘拐し逃亡に成功してしまう!

もちろん、裏でスーティにタダ働きさせられているグラチウスが助けてたりするのだが、この展開はちょっと意外。これで、スーティ、ドリアン、アストリアスという謎のパーティが成立(加えてグラ爺と琥珀とウーラの人外トリオ)。この組み合わせで何をさせるつもりなのだろう。

マリウスとオクタヴィア、別れた夫婦が再会

かつてはササイドン伯とケイロアニアの妾腹の王女として夫婦関係にあったマリウスとオクタヴィア。しかし、現在の二人はパロ第一王位継承者とケイロアニア女帝である。マリウスは相変わらずのマイペース(マリニアへの関心も低くてヒドイ)だけど、それでもこの二人の関係はちょっといい感じ。マリウスを受け入れたことで、ケイロニアは反ゴーラに大きく舵を切った形になる。遠からずゴーラとはまた戦争になりそう。

一方で、リギアとヴァルーサが初顔合わせしている。奔放な女騎士と、踊り子出身の側室。けっこう相性は良さそう。リギアの恋する乙女属性を、再点火してくれた点で、ヴァルーサには感謝しなくてはなるまい。

雲雀とイリス (ハヤカワ文庫JA)

雲雀とイリス (ハヤカワ文庫JA)

 

※2020/7/11追記

グイン・サーガ続篇147巻『闇中(あんちゅう)の星』の感想はこちら

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