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『死にぞこないの青』乙一 小学校時代の暗黒感をもういちど

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乙一の第七作品

2001年刊行作品。『夏と花火とわたしの死体』『天帝妖狐』『石ノ目(平面いぬ。)』『暗黒童話』『失踪Holiday』『君にしか聞こえない』に続く七作目。文庫化含め、2001年はやたらに乙一(おついち)作品が刊行された年だった。大学を卒業して、専業作家化した影響もあったのかな?

死にぞこないの青

デビュー以来、集英社、角川書店から作品を上梓してきた乙一だが、本作『死にぞこないの青』は幻冬舎からの刊行となっている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

小学校時代は暗黒時代だった。もうあのころには戻りたくない!と痛切に感じている方。小学校時代の世界の狭さ。逃げ場のなさ。理不尽さをもういちど体験したい方。初期の乙一作品を読んでみたいと思っている方におススメ。

あらすじ

ふとした行き違いから新任の担任教師、羽田から目の仇にされてしまったマサオ。それ以来マサオはクラスの誰からも相手にされない最下級の存在に突き落とされた。地獄のような生活の中で一人我慢を続けるマサオの前にグロテスクな容貌の少年が現れる。真っ青な顔面。片耳はそげ落ち、靴ひもで縫い止められた切り裂かれた口。その日からマサオの復讐が始まった。

ここからネタバレ

戻りたくない小学校時代

さて、小学校時代がロクでもなかったと思う方。あの時代は暗黒時代だったと思う方。その手の向きには、本書お奨めかも知れない一冊である。

小学生の世界という奴は今にして思えば信じられないほど狭く閉じた世界で、その世界の中では、教師に指名されて答えられないのも、宿題を忘れるのも、大嫌いな給食を時間内に食べなきゃいけないってことも、どれも等しく拷問のような辛さで、一つ一つの過ちが小学校人生→「終了」に直結しかねない(ホントはそんなこと全然ないのに!)。別に自分は特別虐められていたわけではないんだけど、あの頃ばかりは戻っていいと言われても二度と戻りたくはないなあ。

とことん追いつめられ、切羽詰まったマサオは秘密の友人アオと共に羽田先生への復讐を企てる。うだるような暑さの中で、羽田のアパートを暗い目つきで監視しているちょっと小太りの小学生の姿は想像するだに怖ろしい。だけど、誰もがそんなマサオになり得ていたかもしれない。生存権を脅かされた子供ってのはキレると怖いんだから。

コミカライズ版もある

漫画版は2003年に登場。山本小鉄子(やまもとこてつこ)によるもの。小野不由美の『黒祠の島』や『過ぎる十七の春』なんかのコミカライズもやってる人だよね。

映画化もされている

本作は映画化もされている。2008年公開。監督は安達正軌で、脚本は森岡利行が担当している。マサオ役は須賀健太。そしてなんとアオ役は谷村美月が演じている。かなりアレンジが入っているので、小説版と比較してみてみるのも一興かと。

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