「ゴーストハント」ファン必読の一冊
小野不由美による「ゴーストハント(悪霊)」シリーズは、オリジナルの講談社X文庫ティーンズレーベル版が1989年から1992年にかけて登場。そして全編がリライトされたメディアファクトリーによる新装版が2010年から2011年にかけて刊行された。
本日紹介する『ゴーストハント読本』は2013年刊行。メディアファクトリー版の完結を経て企画されたファンブックである。
なお、「ゴーストハント」シリーズは、メディアファクトリー版を底本とした角川文庫版が2020年から2021年にかけて刊行されているが、『ゴーストハント読本』については再刊されていない(残念)。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
小野不由美の人気作「ゴーストハント(悪霊)」シリーズのファンの方。「ゴーストハント」の魅力について多角的に考えてみたい方。もっともっと深読みしてみたい方。作家小野不由美について更に詳しく知りたい方におススメ!
なお、「ゴーストハント(悪霊)」シリーズ未読の方は、間違っても本書から先に読まないように。
内容はこんな感じ
小野不由美の最初のヒット作であり、ファーストシリーズでもある「ゴーストハント(悪霊)」シリーズを、作家、思想家、評論家らが読み解く。荻原規子、辻村深月、池澤春菜による鼎談。更に千街晶之、風間賢二、井辻朱美、一柳廣孝、今井秀和、東雅夫、法月綸太郎による寄稿を掲載。幅広い視点から「ゴーストハント」シリーズの魅力を読み解いていく。
目次
本書の構成は以下の通り。
- 「ゴーストハント」の軌跡&年表 朝宮運河
- 鼎談 少女小説から生まれた「ゴーストハント」の革命 荻原規子、辻村深月、池澤春菜
- 寄稿 ホラー・ミステリの流行に先駆けた「ゴーストハント」 千街晶之
- 寄稿 疑似科学+心霊主義=オカルト探偵誕生! 風間賢二
- 寄稿 少女と怪異と「一人称」 井辻朱美
- 寄稿 オカルトの時代と「ゴーストハント」 一柳廣孝
- 寄稿 小野不由美小説の怪異と伝承 今井秀和
- 寄稿 死者を思いやるということ 東雅夫
- 寄稿 作家小野不由美ができるまで 法月綸太郎
- 「ゴーストハント」全七巻徹底解剖 朝宮運河
- カバーラフギャラリー いなだ詩穂、祖父江慎
「ゴーストハント」の軌跡&年表は『ダ・ヴィンチ』2010年12月号掲載が初出。「ゴーストハント」全七巻徹底解剖は『ダ・ヴィンチ』2011年12月号掲載が初出。『ダ・ヴィンチ』2011年12月号はAmazonで信じられない高価格で売られていてちょっとショック(持ってたのに処分してしまってショック)。
また、カバーラフギャラリーはメディアファクトリー版についてきていた「SPR通信」が初出となっている。それ以外のテキストは本書のための書下ろしとなっている。
荻原規子✖辻村深月✖池澤春菜の鼎談が面白い!
題して「鼎談 少女小説から生まれた「ゴーストハント」の革命」である。
人気、実力共に兼ね備えた二人の作家(荻原規子と辻村深月)と、ガチのSFオタクで、今では日本SF作家クラブの会長にまでなってしまった池澤春菜が、ただひたすらに「ゴーストハント」シリーズへの愛を語りつくす構成となっている。お義理でなく、きちんと作品を読んでいて、熱量高く語れるこの三人を引っ張って来れたチョイスがまず素晴らしい。
辻村深月の語る、当時の講談社X文庫ティーンズハートレーベルを読んでいたリア充層と、集英社のコバルト文庫を読んでいた非リア充層との差異が説明されている部分は特に面白かった。恋愛小説メインのティーンズハートレーベルの中では「ゴーストハント(当時は悪霊シリーズ)」は浮いてたものね。
井辻朱美の寄稿文が面白い!
本作では「ゴーストハント」シリーズに対して、多くの専門家たちが寄稿をしているのだが、その中でも特に面白かったのが井辻朱美(いつじあけみ)による、「少女と怪異と「一人称」」である。
少女向けのライトノベル。特にティーンズハートレーベルで顕著であった制約が、少女視点の一人称文体である。小野不由美はこの一人称視点ならではの制約を逆手に取っている。三人称では読者を騙せないが、一人称なら許される。麻衣の視点で描かれたからこそ、麻衣が「気づかない」「感じていない」ということで、どれだけの叙述トリックが成立しえたか。
井辻朱美は「ゴーストハント」シリーズで、小野不由美が一人称文体を駆使する上で、どのようなテクニックを用いていたのかを的確に読み解いている。プロの読解力は半端ではない。
オカルト、民俗学、ホラーの視点
本書はもちろん他のパートも面白い。
千街晶之の「ホラー・ミステリの流行に先駆けた「ゴーストハント」」は小野不由美の初期作品を紹介しつつ、ホラー、ミステリ界における先駆性を説く。風間賢二の「疑似科学+心霊主義=オカルト探偵誕生!」では疑似科学、心霊主義の世界から「ゴーストハント」に迫る。一柳廣孝の「オカルト時代と「ゴーストハント」」では、オカルト、超常現象受容史の視点から「ゴーストハント」を相対化する。今井秀和の「小野不由美 小説の怪異と伝承」はホラー小説や民俗学の視点から、後の代表作『屍鬼』『魔性の子』と絡めて「ゴーストハント」を語る。そして東雅夫「死者を思いやるということ」と、法月綸太郎「作家・小野不由美ができるまで」では、作家としての小野不由美当人に焦点を当てていく。
質の高いファンブック
以上『ゴーストハント読本』の内容をかいつまんでご紹介した。人気シリーズのファンブックと言えば、設定資料集やイラスト、あらすじ紹介に終始し、クオリティについては今一つ。というものも多いのだが、本書に限ってはその指摘は当てはまらない。
本書では作家論から、ホラーやミステリ、民俗学やオカルトまで。幅広い視点から「ゴーストハント」シリーズの魅力をあますところなく紹介している。よくぞこれだけバラエティに富んだ寄稿者を揃えたもので、企画者のセンスが光る一冊となっている。
惜しむらくは、昨今発売された角川文庫版では本書がリリースされなそうな点である。執筆者が多い分、権利処理が難しいのだろうか。角川文庫版もそうとう売れたようなので、『ゴーストハント読本』を文庫化しても十分、売れる余地はあると思うのだが。
小野不由美作品の感想はこちらから!
〇ゴーストハント(悪霊)シリーズ
『ゴーストハント1 旧校舎怪談(悪霊がいっぱい!?)』 / 『ゴーストハント2 人形の檻(悪霊がホントにいっぱい!)』 / 『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(悪霊がいっぱいで眠れない)』 / 『ゴーストハント4 死霊遊戯(悪霊はひとりぼっち)』 / 『ゴーストハント5 鮮血の迷宮(悪霊になりたくない!)』 / 『ゴーストハント6 海からくるもの(悪霊と呼ばないで)』 / 『ゴーストハント7 扉を開けて(悪霊だってヘイキ!)』
〇十二国記シリーズ
『魔性の子』 / 『月の影 影の海』 / 『風の海 迷宮の岸』 / 『東の海神 西の滄海』 / 『風の万里 黎明の空』 / 『図南の翼』 / 『黄昏の岸 暁の天』 / 『華胥の幽夢』 / 『丕緒の鳥』 / 『白銀の墟 玄の月』
〇その他