ネコショカ

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『華胥の幽夢』小野不由美 十二国記初の短編集


「十二国記」シリーズの第七作は初の短編集

『華胥(かしょ)の幽夢(ゆめ)』は2001年刊行作品。『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』『東の海神 西の滄海』『風の万里 黎明の空』『図南の翼』『黄昏の岸 暁の天』に続く「十二国記」シリーズ、七作目の作品である。

最初に登場したのは、通常の講談社文庫版。こちらは表紙、本文内共にイラストなし。

華胥の幽夢 十二国記 (講談社文庫)

華胥の幽夢 十二国記 (講談社文庫)

 

続いて、同年に講談社X文庫ホワイトハート版が登場。こちらはイラスト付き。表紙は手に華胥華朶(かしょかだ)を持っているから采麟であろうと思われる。 

華胥の幽夢 十二国記 (講談社X文庫)

華胥の幽夢 十二国記 (講談社X文庫)

 

その後、「十二国記」シリーズ全体の刊行が、講談社から新潮社に移ることになり、2013年に完全版が登場した。こちらも表紙に描かれているのは采麟のようだ。

華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

 

あらすじ

驍宗(ぎょうそう)の命を受け漣国へと旅だった泰麒。相まみえた廉王の意外な真実とは。芳国国王を討った大逆人月渓。彼に届けられた景王からの親書の中身は?景王陽子と楽俊。かつて苦楽を共にした二人の交わす往復書簡。理想を追い求めながら傾きつつある国を救えない才国の人々。崩壊の兆しを見せる柳国を訪れた二人の旅人の正体とは?五編の作品を収録した十二国記シリーズ初の短編集。

初出について

「冬栄」はIN☆POCKET誌2001年4月号に掲載。「華胥」はメフィスト誌2001年5月増刊号に掲載。こちらの二編は商業誌に掲載されていた作品なので誰でも読めた。

一方、「書簡」は同人誌『中庭同盟』収録されていた作品に加筆修正したもの。「乗月」も同様。改題されていて以前のタイトルは「函丈」。そしてラストの「帰山」は同人誌『麒麟都市3』に収録されていた作品に加筆修正したものである。

この『中庭同盟』と『麒麟都市3』ってのはファン泣かせの同人誌だった。これだけ人気が出ている作品で、作者本人が書いてるのに読めない短編がある。

この頃、本編の方も長らく新刊が出なかったこともあってか、ひところはオークションで五万とか八万なんてスゴイ価格が平気でついていた。商業出版化を求めるファンで、復刊ドットコムなんかでも一時期すごいことになっていた記憶がある。当時のファンとして、「書簡」「乗月」「帰山」はようやく読むことが出来た幻の作品だったのである。

では、以下、各編ごとにコメント。

「冬栄」

『風の海 迷宮の岸』の後、『黄昏の岸 暁の天』の少し前のお話。驍宗が国内で進めている粛清を、泰麒の目に触れさせないようにするため、漣国にお使いに行かされていた時のエピソード。

これ阿選も実は同行しているんだよね。しかしこの時点では、阿選に闇堕ちオーラはまるで感じられない。正頼の「良いおじさん」感が半端無くてなんだか和む感じ。

現役農夫!の廉王様は実にいい感じに力が抜けていて好印象。「王を選んでしまったあとの麒麟は何をすればよいのか?」そんな泰麒の嘆きに対して、「王を見守っていればいいんですよ」とグッドなアドバイス。

泰国に待ち受ける暗い将来がそこはかとなく暗示されていて、この先を知っている読者としては複雑な心境になる。ラストの驍宗と泰麒のひと時は、戴国主従にとって最後の安らぎの時間になったのかもしれない(死んでないけど)。

「乗月」

祥瓊の父である峯王を討った男、月渓が登場。時系列的には、『風の万里 黎明の空』の直後くらいか?

峯王仲韃と、峯麟を手にかけながらも、大逆の罪を犯した自身を羞じ、玉座に上がるを潔しとしない月渓。しかし、そんな月渓が、景王陽子の使者青辛との語らいを通じて、仮朝の王として立つ決意を固めるまでの物語。

「陽が落ち、深い闇が道を塞いでも、月が昇って照らしてくれるものです」

名セリフ過ぎる!青辛武官なのに、なんでこんなに教養あって弁も立つのだろう。使者としてあまりにベストチョイス。

月渓の心を動かした背景に、悔い改めて過去の罪に向き合う祥瓊の姿があるのも、地味に泣かせるポイント。直接祥瓊を出さないのも良い匙加減かと。祥瓊が籍を慶に移すなんて話が書いてあったけど、国氏を持っていた公主クラスでも、国籍は変えることが出来るんだね。

珠晶ちゃんは、想定通りのリアクションで、読んでいて安心させられる。

「書簡」

時系列的には『月の影 影の海』 『風の万里 黎明の空』の間あたりかな。

なんだよこの遠距離ラブラブカップルは!肉声をそのまま運ぶことが出来る青鳥システムが素晴らしい!維持コストが凄そうだけど……。

それぞれが抱える鬱屈した想い、辛い経験については決して言わない。それでも、書簡の行間から、想いを読みとって互いを気遣いあう二人。楽俊は大学を無事に卒業出来たら、慶に仕官して欲しいところだけど、果たしてどうなるか。

「華胥」

 『図南の翼』『風の海 迷宮の岸』の間くらいのエピソード。タイトルにもなっているだけあって、この話が一番長い。『風の万里 黎明の空』で鈴が出会った、采王黄姑が、玉座につくまでの話でもある。

華胥(かしょ)とは中国の伝説上の王、黄帝が午睡の際に華胥氏の国に遊んだ夢を見たとする伝説に基づく言葉で、転じて理想郷の意を表す。

采王砥尚(ししょう)の栄光と挫折の物語。荒れ果てた国を建てなおしたい。理想の国を作りたい。優秀な仲間たちと共に、青雲の志を抱いて国家創業の大事に乗り出すも、情熱や想いだけでは国は救えないという過酷な現実を描く。

「責難は成事にあらず」

人を責め、何かを非難しているだけでは何も生まれない。なんとも厳しい言葉である。

しかし、砥尚はダメな方の飄風の王であったかもしれないけど、虐殺の限りを尽くした先代延王や、法の名の元に民を虐げた峯王なんかに比べると遥かにマシな王に思える。しかし、これくらいでも麒麟に失道の症状が出ちゃうんだよね。十二国世界で、王さまやるのは、やはり相当に難易度が高そうである。

「帰山」

月渓の話題が出てきているので「乗月」よりは後のエピソード。 『黄昏の岸 暁の天』よりは前だと思われる。お忍びでの諸国漫遊が大好き。十二国記界の暴れん坊将軍と遠山の金さんが夢の競演である。『図南の翼』で登場した宗王の次男利広と、雁国出身と思われる謎の男風漢のやりとりから、衰えつつある柳国の状況が描かれる。

風漢の正体がまったく予想がつかない(笑)。しかし、まあ国が傾き始めると、この二人が高確率で現れるわけで、考えようによっては疫病神なのかも(順番が逆だけど)。

これまでにも何度か触れられている、「国を滅ぼす王」としての尚隆の片鱗が僅かに伺えて恐ろしくなる。このシリーズのラスボス、実は尚隆なのかもしれない。

理想の国を追い求める人々

この作品集では程度の大小はあるにせよ、いずれのエピソードでも地上に理想郷を作り上げようとする人々のひたむきな姿が描かれている。古い国、新しい国。うまく行っている国、傾き始めた国。その姿はさまざまだ。

しかし死なない王朝はない。過度にシステマティックな構造を持たされている十二国世界の中で、陽子や泰麒の真摯な想いはかなうのか。本編の今後の展開が気になるところである。

華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

 

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