ネコショカ

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『丕緒の鳥』小野不由美 十二国記シリーズ二冊目の短編集


「十二国記」シリーズの第八作

『丕緒(ひしょ)の鳥』は2013年刊行作品。『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』『東の海神 西の滄海』『風の万里 黎明の空』『図南の翼』『黄昏の岸 暁の天』『華胥の幽夢』に続く「十二国記」シリーズ、八作目の作品である。

前作である『華胥の幽夢』が2001年に登場してから、なんと12年ぶりの新作であった。

丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)

従来の巻までは講談社X文庫ホワイトハート、及び、講談社文庫からのリリースであったが、この年にシリーズ全巻が新潮社に版元が変更となった。よって『丕緒の鳥』に関しては新潮文庫からのみ発売されている。他のバージョンはない。

鵲(カササギ)が描かれていることもあって、表紙に描かれているのは丕緒(ひしょ)その人ではないかと思われる。背表紙に描かれているのも陶鵲であろう。

ja.wikipedia.org

なお、本作では辻真先による解説が巻末に収録されている。

あらすじ

新王登極に至り、即位礼で行われる「大射」の儀。矢で射るため、陶製の鵲を作り続けてきた男の葛藤を描く表題作。120年死罪を行った来なかった国に現れた凶悪犯。死刑を望む民。司法を司るものたちの下した判断は?山毛欅(ブナ)の木が石化して立ち枯れる災害。唯一の特効薬である青条の蘭をめぐる男たちの奮闘。故郷を追われた少女は暦を作る保章氏に引き取られる。果たして彼らの役割は?

四編の作品を収録した十二国記シリーズ二作目の短編集。

王も麒麟も登場しない至高の公務員小説

小野主上、十二年ぶりのシリーズ新作で、ものすごい変化球を投げてきた。

『丕緒の鳥』を一読して驚いた方は多いのではないだろうか。本作で主人公を務めるのは名もなき官吏たちであり、王や麒麟、これまでに出てきた著名なキャラクターたちではないのである。

しかし、がっかりすることはない。小野不由美が久しぶりの新作で、長年のファンを失望させることは決してないのである。「十二国記」の世界に、親しんできた読み手だからこそ楽しめる、味わい深い作品集となっている。

では、今回も各編ごとにコメントしていこう。

「丕緒の鳥」

初出は新潮社の小説誌yom yom vol.6(2008年3月)。

舞台は慶。主人公は式典で使われる陶製の鳥を作る羅氏の丕緒(ひしょ)。現代で例えるなら宮内庁式部職あたりか?

この世界の官吏は仙籍を賜るので、役にある限り寿命は尽きない。暗愚な王が続いた慶の国あって、死なず老いず、責務を果たすことの難しさ。それでも捨てきれない仕事への矜持。報われない仕事を百年以上も続ける苦悩が描かれる。

主人公の丕緒はただ射られて砕け散るためだけに存在する陶鵲の姿に民の存在を重ねる。陶鵲の美しいビジュアルと、砕け散る音の儚さ。視覚と聴覚に訴えてくる一作。即位したのが陽子主上で良かった。

「落照の獄」

初出は新潮社の小説誌yom yom vol.12(2009年10月)。

舞台は柳。主人公は法令に関する役務を行う秋官の瑛庚(えいこう)。現代で例えるなら最高裁判所の判事あたり?本作の中では、身分的には一番高い立場の人っぽい。

「大辟を用いず」、法治国家として名高い柳の国では王の方針により、120年間殺刑(死刑)が行われていない。そんなこの国に現れた、凶悪犯狩獺(しゅだつ)。二十三人もの人命を殺めた男をどう裁くのか。死刑を望む民の声。政への興味を失いつつある王。情では法は曲げられない。傾きつつある柳国にあって、苦渋の判断を迫られる瑛庚たち。今回収録された中でも、もっとも社会派的なテーマを扱っている。法廷劇的な趣もある。

『風の万里 黎明の空』『華胥の幽夢』の「帰山」でも描かれている、国として下り坂に入った柳のお話。相変わらず劉王その人は直接描かれないので、なんとももどかしい。いったい何がこの王を変えてしまったのが気になる。

「青条の蘭」

ここからは文庫書き下ろし作品。

舞台は雁。主人公は標仲(ひょうちゅう)。野木(やぼく)に生じた新しい草木や鳥獣を集める国官の迹人(せきじん)職に就いている。現代で例えるなら林野庁の一般職みたいな感じかな?

長くこのシリーズに触れてきた読者にとって、本作の興味は「どの国か」という点にあるのではないだろうか。十二国記世界は、国や時代によってまったく事情が異なる。「どの国か」で物語のオチも変わってきてしまうのだ。

この作品にはミステリ的な要素も多分に含まれていて、「どの国か」についてはなかなか明かされない。詳しい人なら、州名あたりで想像がつくのかな。「目指す玄英宮までは、二日の距離だ」で、ようやく雁の話であること確定する(玄英宮は雁国の宮殿名なのだ)。

精根尽き果てた標仲に代わり、名もなき民たちが善意のバトンを繋いでいく終盤の展開には胸を熱くさせられる。これ、どこかで読んだことがあるなと思ったら、『東の海神 西の滄海』で元州に続々と集う民たちの話に通じているのだ。こちらも雁国の話。

苦難の日々が続く中でも、今日よりも明日は良い日になって欲しい。そのために自分でも出来ることをする。そんな民意が人知れず具現化されていくのである。

「風信」

こちらも文庫書き下ろし作品。

舞台は慶。主人公の蓮花(れんか)は予王の女追放令で家族を失った少女。暦を作る保章氏(ほしょうし)の嘉慶(かけい)の元で働くことになる。春官の保章氏は、現代で例えるならやはり、気象庁の地方気象台勤務といった感じだろうか。

奇人変人の集まりにしか見えなかった、保章氏の人々。そんな彼らにも大切な役割があって……。自分が今できることを淡々と行う事の尊さを教えてくれる一作。地味に熱い作品。

民の意思と王の存在感

以上、『丕緒の鳥』に収録されている四編について簡単にコメントしてみた。

国のためというよりは、民のため。少しでも自分に出来ることを行おうと、奮闘する名もなき官吏たちの姿が心を打つ作品群である。

「落照の獄」以外の三編は、新王登極への期待感が根底にあり、王の存在感の大きさに気付かされる。一方で「落照の獄」で描かれるのは王の不在であり、存在感を発揮しえなくなった王と、ねじ曲がっていく民意の発露が印象的であった。

本作は傑出した一個人(王)の資質に依存する十二国記世界の、強さと脆さを感じさせてくれる作品であったとも言える。このあたりは、本編の方でもいずれ書いてくれるのではと思っているのだが、果たしてどうだろうか。

丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)

丕緒の鳥 (ひしょのとり) 十二国記 5 (新潮文庫)

 

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