新作が出るまでに、 「十二国記」シリーズを全巻再読しておこう企画、このペースだと間に合わなさそう……。
当ブログの読書感想は、原則としてネタバレアリである。加えて、本エントリでは前作『月の影 影の海』、更に外伝的なエピソードである『魔性の子』についてもネタバレがあるのでご注意頂きたい。
- 「十二国記」シリーズの第二作
- あらすじ
- 「十二国記」ガイドブック黄海編
- 背徳感でドキドキできる
- 『魔性の子』前日譚としての『風の海 迷宮の岸』
- 驍宗と泰麒の物語は始まったばかり
- アニメ版の違い
- 小野不由美作品の感想はこちらから!
「十二国記」シリーズの第二作
1993年刊行作品。『月の影 影の海』に続く、小野不由美の大ヒット作「十二国記」シリーズのエピソード2である。
この時点は講談社のティーンズ向けファンタジーレーベルである、講談社X文庫ホワイトハートからの登場であった。
風の海 迷宮の岸〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)
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風の海 迷宮の岸(下) 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)
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「十二国記」シリーズは大ヒットし、一般層向けにも売っていこうということで、通常の講談社文庫版が2000年に刊行された。ホワイトハート版は上下巻構成であったが、こちらは一冊に合本化されている。また、表紙及び作中の挿絵は残念ながらカットされている。
さらにその後、「十二国記」シリーズそのもの刊行が、全て新潮社に移ることになり、2012年に完全版が登場した。表紙及び、作中のイラストは新規書き下ろしとなっている。表紙には驍宗(ぎょうそう)、泰麒(幼少モード高里)、白汕子(はくさんし)が描かれている。なお、左端に小さく書かれている二人は女仙の蓉可(ようか)と禎衛(ていえい)だろうか?
あらすじ
麒麟は神獣。そして麒麟は王を選びそして王に仕える。高里要は、戴国の麒麟である。しかし幼少時代を人間界で過ごした泰麒は麒麟としての自覚も無ければ、麒麟ならではの能力も発揮することが出来なかった。しかし焦燥する泰麒をよそに王を選ぶ日はついにやってくる。苦悩の果てに泰麒が選んだ人物とは誰だったのか。
「十二国記」ガイドブック黄海編
本作のタイトルである『風の海 迷宮の岸』とは何を指しているのだろうか。それは物語の舞台である黄海、そして悩み苦しむ泰麒の心情を表しているのであろう。
黄海は海といっても海では無く。強い風の吹く荒涼とした大地である。複雑に入り組んだ地形はまるで迷宮のようであり、主人公である泰麒の心の迷いの象徴ともなっているである。
前作『月の影 影の海』は、突如異界に拉致された女子高生の視点で、下々の人々の暮らしを中心に描きつつ、いかにして「人が王になる」のかを描いていた。
今回は打って変わって神仙たちの領域、麒麟の生まれる地、黄海が舞台になる。麒麟はどのようにして生まれ育つのか。そしてどのようにして「麒麟が王を選ぶ」のか。神仙たちの側から「十二国記」の世界の仕組みを紐解いている。
背徳感でドキドキできる
さて、今回は戴国主従のなれ初めのお話である。
泰麒は幼少時に蓬莱に流されてしまったがゆえに、麒麟としての自覚もなく、能力も十分に発揮できず、覚悟もないまま王を選ばなくてはならない。責任のあまりの重さと、王を選ぶことへの畏れ。選んではいけない人物を王に選んでしまったのではないか。許されない罪を犯してしまったのではないかと怖れおののく泰麒の初々しさに、キュンキュンさせられた読者はきっと多い筈である。「泰麒の罪は確定した」なんて書かれたらそれはドキドキするなと言う方が無理である。
本作は「十二国記」シリーズの中でも、オチが命といった趣きの強い作品で、ネタを明かされてしまえば、それ景麒とか女仙がちゃんと事前にレクチャーしとけば良かったのでは??と、読後に思わず突っ込んでしまいそうになるのだが、散々緊張感を高めて置いて、最後に綺麗に物語の構造をひっくり返すのは小野不由美作品の王道パターンである。それが、今回も見事に決まったというところだろうか。
『魔性の子』前日譚としての『風の海 迷宮の岸』
『魔性の子』を読まれた方であればすぐに気付かれたと思うが、『風の海 迷宮の岸』とプロローグ部分が同じなのである。『風の海 迷宮の岸』は「十二国記」シリーズとしては二番目のエピソードとなるが、作中の時系列的には、エピソードゼロとして先行リリースされていた『魔性の子』の前日譚的な作品となっている。
『魔性の子』では高里要が幼少時に謎の神隠しに遭い一年程姿を消していたエピソードが紹介されていた。高里の空白の一年間に何があったのか?その真相がようやくこの物語で明らかになるのである。
『風の海 迷宮の岸』を読んでから『魔性の子』を再読すると、謎の存在であった白い腕の女が白汕子であったこと、災厄をまき散らす犬のような魔物が饕餮(とうてつ)の傲濫(ごうらん)であったことがようやく判明する。
『魔性の子』旧版の表紙を見てみると、白汕子も傲濫も、悪役として登場しているだけにメッチャビジュアルが怖い!
『魔性の子』の子と並行して読むと、泰麒の覇気の薄さ、自己肯定感の低さは、蓬莱時代に親族から愛されず、周囲からは祟るものとして敬して遠ざけられていたが故であることが理解できるのである。
驍宗と泰麒の物語は始まったばかり
なお、その後の戴国主従、驍宗と泰麒の物語はエピソード8の『黄昏の岸 暁の天(たそがれのきし あかつきのそら)』まで待たなくてはならない。リアルタイム読者は当時、9年間も待たされたのだ!登極後の驍宗はどうなったのか。どうして泰麒は再び蓬莱に戻されたのか。非常に気になるところである。
しかも、この物語は『黄昏の岸 暁の天』だけでは決着がついていないのだ。
その後の展開はこれから(2019年10月)刊行される最新刊の『白銀の墟 玄の月(しろがねのおか くろのつき)』でようやく判明するらしい。
『魔性の子』から数えると28年かけての解決!
長年の読者としては、本当に出るのか今でも半信半疑だが、静かにその日を待ちたいところである。
ちなみに『白銀の墟 玄の月』は全四巻構成の特大ボリュームで登場する。2019年10月の時点では二巻までが刊行。残りは11月に出る予定。
アニメ版の違い
2002年に本作のアニメ版がNHK-BS枠にて放映されている。第15話から第21話までが、『風の海 迷宮の岸』相当のエピソードとなっている。細かな部分で変更はあるものの、『月の影 影の海』のアニメ版に大きな改変が入ったことを考えると原作に近いアニメ化である。以下、主な違いを挙げておこう。
1)蓉可による回想形式
アニメ版では、『月の影 影の海』に続いて『風の海 迷宮の岸』エピソードが放映された関係からか、天勅を受けるために蓬山を訪れた陽子と景麒が、女仙である蓉可から、泰麒の思い出話を聞かされる形式を取っている。
つまり、時間軸的には陽子がいる『月の影 影の海』の時代が現在であり、『風の海 迷宮の岸』はもう起きてしまった過去の出来事として語られる。
2)現在編の高里要が登場する
こちらは時系列的に言うと『魔性の子』の少し前くらいか?蓬莱に戻された高里要が頻繁に登場。これに、巧国から戻った杉本優香が接触を図るオリジナル展開が入る。結果として、高里家の両親や弟の出番も増えている。
アニメ版では『魔性の子』や『黄昏の岸 暁の空』のエピソードは描かれないので、現代パートでの高里要の登場は、小説版を知らない視聴者には意味不明であったかもしれない。
3)犬狼真君や鈴が登場する
原作では『東の海神 西の蒼海』は、『風の海 迷宮の岸』よりも後に書かれた巻だが、作中の時間軸的には、更夜がこの時代の蓬山に居てもおかしくない筈。ということで、出番が増えたのかも?物語世界の幅を広げるには良い改変かと思われる。
同様に『風の万里 黎明の空』で初めて登場するはずの、大木鈴がちょい役ながらも顔を出している。アニメ版では『風の海 迷宮の岸』の次に、『風の万里 黎明の空』のエピソードが入るので、これも全体の構成を見据えた上での改変なのだろう。
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小野不由美作品の感想はこちらから!
〇十二国記シリーズ
『魔性の子』 / 『月の影 影の海』 / 『風の海 迷宮の岸』 / 『東の海神 西の滄海』 / 『風の万里 黎明の空』 / 『図南の翼』 / 『黄昏の岸 暁の天』 / 『華胥の幽夢』 / 『丕緒の鳥』 / 『白銀の墟 玄の月』
「十二国記」最新刊『白銀の墟 玄の月』を報道はどう伝えたか / 『「十二国記」30周年記念ガイドブック』
〇ゴーストハント(悪霊)シリーズ
『ゴーストハント1 旧校舎怪談(悪霊がいっぱい!?)』 / 『ゴーストハント2 人形の檻(悪霊がホントにいっぱい!)』 / 『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(悪霊がいっぱいで眠れない)』 / 『ゴーストハント4 死霊遊戯(悪霊はひとりぼっち)』 / 『ゴーストハント5 鮮血の迷宮(悪霊になりたくない!)』 / 『ゴーストハント6 海からくるもの(悪霊と呼ばないで)』 / 『ゴーストハント7 扉を開けて(悪霊だってヘイキ!)』 / 『ゴーストハント読本』
〇その他
『悪霊なんかこわくない』 / 『くらのかみ』 / 『黒祠の島』 / 『残穢』