ネコショカ

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文化祭小説の楽しさと直面するそろぞれの限界『クドリャフカの順番』


古典部シリーズ第三作目

2005年刊行。『氷菓』そして『愚者のエンドロール』に続く米澤穂信の古典部シリーズ第三作。三年振りのシリーズ再開だが、評価が上がったのか文庫ではなくソフトカバー版での刊行である。

前作の『愚者のエンドロール』はアントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』をモチーフとした作品だったが、本作はアガサ・クリスティの『ABC殺人事件』を本歌取りした構成となっている。ミステリ好きとしては嬉しい仕掛けである。

クドリャフカの順番―「十文字」事件

文庫版は2008年に刊行されている。旧二作はスニーカー文庫のミステリ倶楽部枠から、刊行されていたが、この時点で既に同レーベルは消滅している。そのため『氷菓』そして『愚者のエンドロール』が角川文庫へ移行したのを受けて、本作も通常の角川文庫枠から登場している。

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

 

あらすじ

文化祭に突入した神山高校。しかし古典部では大問題が発生していた。大量に作りすぎてしまった文集をいかに捌くのか。その数200部。四人の部員たちが奔走する最中、学園内では奇妙な連続盗難事件が発生していた。事件を解決して古典部の知名度を上げ、文集の完売を目指すのだ。無理難題を突きつけられた奉太郎がたどり着いた結論とは。

 

4人の登場人物による一人称構成

本作を読んでいて最初に気づくのは、見慣れないトランプマークと、物語が千反田時点で始まるという事だろう。過去二作は奉太郎の一人称で物語が進行していた。しかし、今回は奉太郎だけでなく、千反田や里志、摩耶花の視点も用意されているのである。トランプマークは、各キャラクターごとに、奉太郎がスペード、千反田がハート、里志がクラブ、摩耶花がダイアとなっている。

一人称は語り手の行動や心情をクローズアップするのが得意な反面、見ていないもの、体験していないものを描けないという欠点がある。今回の奉太郎は古典部の部室からほとんど動かない安楽椅子探偵モードである。しかし、本作のような多方面同時進行型の作品では、さすがに奉太郎視点のみでは描写が難しい。そのために、一人称を四人の視点から描くという珍しいスタイルが選ばれたのであろう。

これまでクローズアップされてこなかった、奉太郎以外の三人に脚光が当たる。語られていなかったそれぞれの心情が明らかになるのでファンとしては嬉しい一冊である。特に、比較的描写が少なかった摩耶花には多く描写が割かれており、本作から彼女のファンになった読み手も多いのではないだろうか。

 

文化祭小説としての魅力

本作の特徴を一言で言ってしまうと文化祭小説である。(そんなジャンルがあるのかは知らないけど)。

文化祭は平凡な学校生活における極めつけの非日常である。ハレの場であり異空間であり、時として魔界にすらなるのである。文化祭をいかに描くかが、学園モノの魅力の一つであるといっても過言ではない。『けいおん!』や『涼宮ハルヒの憂鬱』、『イリヤの空 UFOの夏』あたりの文化祭シーンを思い出してもらえると判りやすい。すぐれた学園モノには、良質な文化祭回があるものなのである。

メインエピソードの「十文字事件」も当然しっかりと描かれているけれども、サブエピソードのお料理バトルだとか、漫研内部での麻耶花の奮闘や、ワラシベ長者化していく奉太郎、一向に実を結ばない千反田えるの営業行脚なんて話の何れもが面白く、目が離せない。文化祭ならではの非日常の高揚感が見事に表現されていて、文化部出身者的にはノスタルジーに浸れること必至なのである。とても楽しく読ませてもらった。読み終えるのが惜しかったくらいだ。

期待と甘えは表裏一体

能力を持つ者は時としてその力に無自覚である。それが努力して獲得して得たものではなく、生来備わった力であればなおさらである。里志に対しての「奉太郎」、摩耶花にとっての「夕べには骸に」、千反田にとっての「文集営業」。彼らはそれぞれの限界に直面する。自分が出来ないことを軽々とこなしてしまう他者に対して、忸怩たる思いを覚えることは誰にでもあるだろう。

そんな思いを里志は「期待」という言葉で表現している。一見、飄々としているようでいて、意外に自身への要求水準は高い。そんな里志らしい考え方である。

自分に自信があるときは、期待なんて言葉を出しちゃあいけない

時間にとか資力的にとか、能力的にとか、及ばない諦めが期待になる

期待ってのは、そうせざるを得ないどうしようもなさを含んでいなきゃどうにも空々しいよ。

『クドリャフカの順番』より

最終的にメインテーマである「十文字事件」の動機も「期待」であったことが明らかになり、この言葉が本作を通底するテーマであったことが判る。それぞれに、自らの限界、出来ることと出来ないことを知った登場人物たちが、その後どう成長していくかは、本シリーズの今後のお楽しみでもある。

クドリャフカの順番―「十文字」事件

クドリャフカの順番―「十文字」事件

 

古典部シリーズ『氷菓』そして『愚者のエンドロール』の感想はこちらから!

アニメ版で『クドリャフカの順番』を楽しむなら

アニメ版の12話から17話までが『クドリャフカの順番』部分に該当する。なんと6話分もの話数を使って本巻のエピソードが綴られている。文化祭特有の喧騒、お祭り感、非日常的な雰囲気が良く描かれているので、併せてみておきたい作品である。

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