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2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『インシテミル』米澤穂信 12人の男女12の凶器、そして鍵のかからない部屋

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米澤穂信が描く生き残りゲーム

2007年刊行。書き下ろし作品。学生モノが多いこの作家にしては(当時)珍しい一般?ミステリ作品だった。こういうタイプの本格作品も書けるのねと、刊行当時は少し意外に思った記憶がある。

単行本版のカバーイラストは西島大介が担当。

文春文庫版は2010年に刊行されている。カバーイラストは単行本版とはすっかりテイストが変わってしまった。

インシテミル (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ちょっと(かなり)捻った本格ミステリ系作品を読んでみたい方。クローズドサークルでの頭脳戦に興味のある方。米澤穂信作品らしい、薄気味の悪い悪意に触れてみたい方におススメ。

あらすじ

時給11万2千円の超高額報酬に惹かれてやってきた12人の男女。彼らが招かれたのは奇怪な地下施設《暗鬼館》だった。先が見えない曲線だらけの通路。鍵のかからない12の個室。それぞれに与えられた異なる凶器。主催者は彼らに何をさせたいのか。そして告げられる恐るべきルール。戦慄の七日間がいま始まろうとしていた。

ここからネタバレ

特殊設定下での殺人ゲーム

期間は一週間。衣食住は保障される。他人を殺害すると報酬2倍(効果は累積する)。殺害されると報酬1.2倍。事件を解決すると報酬3倍(効果は累積する)。そんなとんでもないルールが設定され、参加者たちに殺し合いが強いられる。

連れてこられたのは経済的に追い詰められた状態にある人間たち。なにせ時給11万2千円の破格な報酬が更に二倍三倍になるわけで、この特集状況下で人間は一体どうなるの?というお話。

最初は、いくらなんでも殺人まではと自重しているところへ、起爆剤ともいえる最初の死体の発見。次第に疑心暗鬼に駆られ、平常心を失い(あるいは欲望に目覚め)、理性の枷が外れていく登場人物たち。「夜」は必ず、鍵のかからない自室に一人籠らなくてはならないというタチの悪いルールもあって、物語のテンションは次第に高まっていく。

「解決」システムが面白い

興味深いのは「解決」が、当事者間での多数決で正否が判断されること。必ずしも正解である必要はなく、場の空気を読むことが大事。危険な人物が居るなら、真実を言い当てるよりも、当事者たちの不安を取り除いてあげる方が重要。監獄(Prison)が時として安全地帯として機能するところも面白い。

《暗鬼館》には本格ミステリに由来する凶器や設定の数々が網羅されている。しかし参加者のほとんどがミステリに詳しいわけではなく、ミステリオタク的な凝った解釈は逆に身の危険を招くこともある。

今時クローズドサークルモノをやろうとすると、こういう変化球が要求されてしまうのか。このネタだけで何冊も作品が書けてしまいそうな濃密な設定で、ミステリファンとしてはとしては楽しく読めた一冊。どう考えても続きがありそうなので《明鏡庭》事件を早く読みたいのだけど、続きは書いてくれないのかな。

登場人物一覧と凶器、報酬総額

最後に、キャラクター一覧とそれぞれの初期設定凶器、更に最終的な報酬総額をまとめておく。被害者についても、実際には被害者ボーナスが相応に発生している筈。

  • 結城理久彦(ゆうきりくひこ):火掻き棒:330,500円
  • 須和名祥子(すわなしょうこ):ニトロベンゼン:17,696,000円
  • 大迫雄大(おおさこゆうだい):マンドリン
  • 若菜 恋花(わかなれんか):空気ピストル
  • 釜瀬丈(かませじょう):氷のナイフ
  • 西野岳(にしのがく):赤い丸薬
  • 岩井壮助(いわいそうすけ):ボウガン:17,596,800円
  • 箱島雪人(はこしまゆきと):スリングショット
  • 真木峰夫(まきみねお):手斧
  • 関水美夜(せきみずみや):吊天井の動作スイッチ:1,000,000,000円
  • 安東吉也(あんどうよしや):紐:8,848,000円
  • 渕佐和子(ふちさわこ):ゴルフクラブ:17,696,000円

映画版は藤原達也主演

映画版は2010年に公開。上映に際してタイトルが『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』とサブタイトルが付せられている。監督は中田秀夫。キャスティングは以下の通り。

  • 結城理久彦:藤原竜也
  • 須和名祥子:綾瀬はるか
  • 関水美夜:石原さとみ
  • 大迫雄大:阿部力
  • 橘若菜:平山あや
  • 西野宗広:石井正則
  • 真木雪人:大野拓朗
  • 岩井荘助:武田真治
  • 渕佐和子:片平なぎさ
  • 安東吉也:北大路欣也

参加者の人数が10名に変更されており、釜瀬と箱島が登場しない。その他のキャラクターの設定や、物語の結末も原作とはかなり異なっている模様。

わたし的に未だ見ていないので、確認後改めてこちらに追記する予定。

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